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33話

 始めにかかってきたのは魔法が使えない方だった。

 首の無い騎士はどうやってこちらを見ているのかは分からないが、しっかりこちらを目指して斬りかかってくる。当然、その速度は人間としてはありえない。

 しかしそんな速度と戦うのもこれで3回目だ。そろそろ目が慣れてきた。

 剣を剣で流しながら一撃入れようとするが、今度は魔法を使う方が魔法でそれを防いできた。

 ……物理的な攻撃なら何とでもできるが、魔法は如何せん初動もリーチも関係なしに来るからな。発動されてから気づくようじゃ遅い、って事なのかもしれないが。

 しかし、こいつらが魔法を使うという設定は非・VR版には無かった、と思う。

 騎士なんだから魔法が使えてもおかしくはないだろうが、こいつらの設定は薄すぎて(正直なんでこいつらに名前が付いてるのか分からない程度には)設定が曖昧ではあった。

 ……正直、こいつらがどちらかだけでも魔法を使う、とは思っていなかった。

 物理攻撃の強い奴が二人分、と勘定していたのだ。

 勿論問題ない。

 研究しつくした攻略ルートをタイムアタックで駆け抜けていくのも好きだが、何が出るか分からない状態だって楽しい。

 正直、何がどうなるとバグるのかすら推測なのだ。出たとこ勝負を厭うなんて今更すぎる。

 そして、1周目のバグったレヴォルの時だって、魔法の対処なんて分からないまま戦って勝ったのだ。

 それに比べたら今回はヌルゲーもいい所だろう。

 一度、魔法による瞬間移動で2人から大きく距離を取る。

 当然のようにそれは1秒かからず詰められる距離だが、同時にその時間があればチャージは可能なのだ。

 トレーニア戦では温存したが、『魔法剣』がどの程度バグった連中に有効なのか、確かめておくのも悪くない。

 肉薄した2人の首無し騎士に向かって、剣に纏わせた魔法を飛ばす。

 ……片方の騎士の胸を消し飛ばしたのは予想通りだ。しかし、もう片方の、魔法を使う方には今一つ効きが悪かったらしい。皮一枚残した。

 魔法を使う奴には魔法の耐性でもあるのかもしれない。

 当然のように、胴体が切断されていても動いて襲い掛かってくる騎士2人……というか、騎士2人分の、パーツ。

 分断されたパーツは、腕や足それぞれ単品で動いて襲い掛かってくる。

 腕は、本来体があれば腕があるであろう位置に浮いて剣を振るう。

 脚はやはり、本来体があれば脚があるであろう位置で、蹴りを繰り出してくる。

 ……バグり具合が酷くなっていないか?

 こうなるなら、むしろパーツがばらけて増えた分厄介な分、剣を使わない方が良かったかもしれない。

 四方八方から来る腕や足や首によるホラーじみた攻撃を魔法か剣で流しつつ、凄まじい速度で動くそれらを1つずつなんとか捕まえては魔力の壁で押しつぶす。

 流石にペーストにする勢いで潰せば消えるのが救いだった。少しずつ襲ってくるパーツは減っていく。

 最後に何とか、魔法を使う方の首を剣で串刺しにして地面に留め、それを燃やし尽くして終了した。

 ……終わった。

 しかし、嫌な予感が湧いてくる。

 バグり方が、悪化してないか?

 せめて人間として扱えるレベルの……グラフィックに依存したバグり方をして欲しいものだが。

 ……次、これより酷くなるんじゃないだろうな。




 帰宅してスライム達に癒されたら、翌イベント日は遂に国王暗殺である。

 魔王の参謀は魔王討伐イベントの時に巻き込んで殺してしまった方が楽でいいだろう。自分の側近がバグったら流石に魔王も何とかするだろうし、そのまま2対1に持ち込めれば理想的だ。

 ……ペロミアさんと国王。

 騎士2人よりとんでもないバグり方をするとしたら、ヤバいのは間違いなく魔法が使える国王だ。

 よって国王を先に倒す。

 サージスは魔法が使えない、と公式で定まっているので後回しだ。今更そこを変えるつもりは無い。




 先日の件で国王に謁見したい、と言えばあっさり通された。

 相変わらずのザル警備である。

 ……王位継承者が居なくなった今、できれば『ダフネ』に王位を継がせたいんだろうが、その前に王が死ぬのであまり関係ない。


「『死神』ダフネよ、では、改めて聞こう」

 この王も『自分の娘』には相当期待しているらしい。

 人払いを、と真っ先に申し出た所、あっさりとそれは行われた。

 広い玉座の間で、王と『ダフネ』だけが向かい合っている。

 勿論、有事の際にはすぐ兵が駆けつけられるようになっているんだろうが、どうせバグった奴に比べたら雑魚もいい所だ。100人程度雑魚が揃った所で大したことにはならない。

「先日の件で、との事だったが……」

 期待に溢れた目を向けて来る王にこちらが向けるのは剣の切っ先。

 漆黒の刃を向けられて、明らかに王は動揺した。

「これは……どういうことかね」

「そのままの意味です」

 ……ふと、気づく。

「余を、殺そうというのか?」

「その通りです。テドル・クロナレイ・エルヴァラント陛下」

 まだ、バグっていない。

 当然だが、国王にこのような形で会うイベントなんて存在しない。

 しかし、まだバグっていないのだ。

 ……やはり、一太刀浴びせた所からバグるのか。

 いつバグるか分からない以上、警戒は続けなくてはならない。気づかれないように眼前に不可視の壁を魔力で形作って保険にしておく。

「理由を聞いてもよいかね?」

 国王が動揺していた割には落ち着いた声で尋ねてくる。まるで、元々予期していた1つの形だとでもいうように。

 ……理由、か。

 『ダフネ』ならどういう理由を付けるのだろうか。

 国王を殺さなくても、このままいけば間違いなく王にはなれる。だから王になる為では無い。

 ならば、何故国王を殺すのか。

 ……咄嗟に思いつかなかったので、申し訳ないがプレイヤー側の理由を、『ダフネ』の理由としてもおかしくなさそうな形で伝える。

「大切な人の為です」

『ダフネ』なら、国王を殺せ、と誰かに命じられる位、十分にありえそうだ。

 ……そして、プレイヤー側の理由としては。

 楽しいから。これがゲームだから。そういう答えも正解だろうが、国王を殺す理由として最もふさわしいのは、『ユキノの為』だろう。

『楽しいから』という理由も十分すぎる程に事実だが、どちらかというとそれは目的では無く、過程で発生した結果だと言った方がしっくりくる。

 このゲームに参加したのも、死のリスクを背負ってでも条件を達成しようとしているのも、ユキノの為なのだから。

「……エーリックか」

 ……ああ、うん。もうそれでいい。


 プレイヤーと『ダフネ』と国王の間で起きる齟齬になんとも言えない気分になるが、国王は立派に『理由』を受け止めてしまっているらしい。

「余は、エーリックに……あの子に、酷いことをしてしまった、な……。あれだけ長い間一緒に居て、あの子が苦しんでいるのに気づかなんだ」

 そういう訳の分からない落ち込み方をしないでほしい。

「因果なものよなあ、『フィオラ』?」

「私は『ダフネ』だ」

「最期くらい、そう呼ばせてくれんかね、フィオラ。我が娘よ」

 いい加減こいつも殺したいんだが、一応、まだ時間はある。

 イベント日1日分につき1人(若しくは1組)殺せば十分間に合うようにスケジュールを組んだのだ。ここで粘られても今日中に収まれば何ら問題は無い。

 ……そして、まあ、このゲームが乙女ゲームである以上、一応……『プレイヤー』として、このゲームに付き合ってやってもいいか、と思った。

「フィオラ。余が死ぬことでお前の気が済むならそうしてくれ。あの日お前が攫われるのを防げなかったのも、お前の母さんが死んだのも、お前の大切な……エーリックを死なせたのも、余の所為だ。その代わり、と言っては何だが」

 国王は王冠を取って、こちらに向けて差し出して来る。

「フィオラ・クロナレイナ・エルヴァラント。この国を頼んだぞ」

 どう答えていいか分からなかった。柄でも無い事なんてするもんじゃない。

 だから答える代わりに剣を振るう。

 漆黒の剣は黄金と宝石細工の豪奢な王冠ごと、国王の首を刎ねた。

 最初からこうしておけばよかった。


 国王の首を刎ねてすぐ、バックステップで距離を取りつつ、魔力の壁を展開する。

 斬り飛ばされた王冠が床に落ちて甲高い音を立てると同時に、首無しの国王の周りを魔力の壁が覆い、間髪入れずにそこに炎が巻き起こる。

 魔力の壁の中で蒸し焼きにされ、塵も残さず国王は消えた。


 ……余りに呆気ない。呆気なさすぎる。

 しかし、玉座の間に飾ってある歴代国王の肖像画を見ると、『テドル・クロナレイ・エルヴァラント』の絵が消えていた。

 後に残っているのは、分断された王冠だけだ。

 なんとなく拾い上げると、視界の端に『エルヴァラントの王冠』と表示された。

 ……物音を聞きつけた兵士達が部屋に駆け込んでくる前に、魔法による瞬間移動で自宅へ戻る。

 その時、手にしていた王冠は棄てていくことにした。

 必要のないものを拾って帰るのは趣味じゃない。




 帰宅して返り血を風呂で流してからスライム達に埋もれる。

 ぷにぷにした感触に癒されながら、今日の出来事を反芻する。

 呆気なさすぎた。余りにも。

 少なくとも、何か裏があるんじゃないかと思わされる程度には。

 騎士2人の時のバグり方と比較してみても、ムラがありすぎる。

 あれじゃあ、まるで、あと一歩で……。

 ……何か、途方もない勘違いをしているような気がして落ち着かなかった。


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[気になる点] フィオラですか……………ええ!?どうするんですか!?!?!?
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