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32話

 ということで、トメント(12月)2日。

 この非イベント日を有効利用して、スライムたちと一緒に入浴する。

 小さいながらも瀟洒な邸宅には、そこそこ立派な風呂があった。

 水の霊水晶と炎の霊水晶を利用していて、何時でもすぐに湯を出せるという恵まれた設備がありがたい。

 広い浴槽にたっぷりを湯を溜めて、そこにスライムたちをとぷとぷ入れていく。

 中には湯船に浸かることを嫌がる奴もいたが、構わず入れてしまえばその内慣れたのか、むしろ風呂を気に入ったようだった。

 水面にぷにぷにと広がってくつろぐスライム達をすこし掻き分けて湯船に浸かると、懐くように何匹かが纏わりついてくる。

 ぷにぷにとつついて遊んでやれば、やはり楽しげに体を震わせる。

 そのまま暫くスライム達と一緒に風呂で温まりつつ戯れた。


 そうして水遊びしながら入浴している内に、スライムたちはすっかり水に慣れた。

 何匹かは水中に潜って遊んだり、全身を使って水鉄砲を飛ばしてみたり、と中々アクティブに動いている。

 湯船に浸かることを嫌がっていた奴も、水面をすいすい泳ぐように移動して入浴を楽しんでいるようだった。

 この様子なら問題ないだろう。

 ……そっと水中に沈んでから、水面に浮いているスライムを少し引っ張って伸ばし、先端を口に咥える。

 始めこそそのスライムは戸惑い、じたばたしていたが、軽くそれを吸うと、気づいて空気を送ってくれるようになった。

 そのまま水中で、スライムが供給してくれる空気だけで呼吸する。

 ……そのままでいたら、他のスライムも興味を示し始めて、口だけでなく鼻呼吸もできるようにしてくれた。

 ここでもう1段階進む。

 水中でより体勢を低くし、湯船の底に顔をつけるようにすると、スライムも長さが足りなくなって、体の端を水上に出すことができなくなってしまった。

 すると、慌てたように他のスライムがそのスライムの先端に接続して、空気をそのスライムに送る。

 そしてその空気は2匹のスライムを経由して『ダフネ』にまで届いた。


 成功である。




 それから数日間、日中に『魔力』を鍛え、夕方から睡眠し、深夜に人気のない公園の湖でスライム達と水泳の練習をする、という日々を送った。

 水泳、というか、水中での戦闘訓練、と言うべきだったか。


 5日で『魔力』も遂にカンストしたため、遂に殺人月間の本分が開始する。

 最初に、ノイエ関係で出てきていた貴族を殺しに行く事にした。

 一応、バグった時の対策は考えている。

 ……万全とは言い難いが仕方あるまい。何せ、初めて『攻略対象以外』をバグらせる危険を冒すのだ。

 何がどうなるかさっぱり分からない。

 ……できれば、何事も無く死んでくれるのがいいんだが、そうはいかないんだろうな。




 トレーニア家は断絶寸前の貴族である。

 子供が無い。居るのは2代前の栄光に縋っているだけの、若いとは言えない夫婦のみ。

 よって、主人公を養子にしようと画策するが、大体失敗に終わる。そんな中級貴族である。

 そして、名前があるから殺さねばならない。

 ……最初のバグにしては、殺さなければいけない人数が2人なわけで、あまりいい選択じゃなかったか。

 いや、人間とはいえ騎士2人を相手にするのはもっと面倒だし、魔王軍の参謀なんて一番面倒だ。国王は殺した後が面倒なことになりそうだし、ペロミアさんは立ち位置が立ち位置なだけに一撃目にするには不安があった。

 そういうことで一番戦闘力が低そうな、かつ殺しても問題なさそうな人選だ。そこまで酷いことにもなるまい。

 庭で夫婦が優雅に茶を楽しみながらちくちくと罵りあっているのを確認。

 難儀な夫婦だな。結婚は人生の墓場、を両者ともに体現しあうぐらいなら始めからなんとかしろと思わないでもない。

 庭の生垣に半ば埋もれるようにしながら隠れて近づき、そして、ある程度の距離まで近づいたら、圧縮して溜めに溜めた魔法で一気に2人を消し飛ばす。

 ……やったか。


 やれていなかった。当然だ。この程度で何とかなるなんて思ってはいない。

 魔法で一撃大きく入っただけでも幸運としよう。

 抜刀。

 ……久しぶりに『魔剣・エクスダリオン』の感触を、そしてそれが戦いの気配を喜んでいるのを、確かに右手に感じる。

 それで十分だ。

 瞬間、見えない速度で迫った気配に向けて剣を突き出すと、真っ直ぐ突っ込んできた襤褸切れのようなもの……トレーニア夫人だったものが、そのまま突っ込んできて、剣に串刺しにされに来る。

 ……バグって恐怖というものがなくなった以上、体が傷つくのもいとわない、という事らしい。

 全く、碌でもないシステムだ。

 人間なら致命傷だろうに、剣で腹を貫かれながら、むしろ自ら剣に突き刺さりながらも勢いを殺すことなくその咢をもって迫り、何の躊躇も無く肩に噛みついてきた。

 剣を薙いで腹を完全に破壊しながら魔力の壁を展開して引き剥がすが、肩の皮膚が裂けて血が滲んでいた。

 どうせ治る時は一瞬だ。気にせずに剣を握り直して、今度はやはり突っ込んできた夫の方を魔力の壁にぶつけて勢いを殺してから唐竹割りのように真っ二つにする。

 夫は縦半分、妻は横半分になったわけだが、そこから血が流れる事は無い。

 バグったレヴォルのアレのように、ただグラフィックのズレで済まされたらしい。

 それらは真っ二つになっているというのにバラバラになることなく、恐ろしいことにまだ動く。なんだこれ。

 真っ二つになったトレーニア夫人との間合いを詰め、その頭部を破壊する。

 しかし頭部を破壊したというのにそれは止まらない。それの腕が動き、こちらの眼球を狙ってきた。

 当然避けるが、背後からもう片方が首を狙ってやってくる。

 それを旋回しながら剣で薙ぎ払って脚を壊す。

 脚を失ったトレーニアを魔力の壁で地面に押さえつけて捕獲。その瞬間背後から夫人の方がやはり突っ込んできたので、そちらも脚を壊す。

 倒れながらも尚動こうとするトレーニア夫人を剣で細かく砕きながら炎で燃やし尽くす。

 炎の中で細切れになっても暫く動こうとしていたが、やがて完全に動きを止め、そして、何も無かったかのように消えた。

 ……あとは、地面に押し付けて確保してある夫の方を消せば終了だ。

 慌てず騒がず、魔力の壁から針を生やして串刺しにする。

 それを幾度となく繰り返し、襤褸雑巾のようになったそれを焼却する。

 ……レヴォルの時とは比べ物にならないぐらい呆気なく終わったな。


 一応、確認だ。

 庭を出てトレーニア邸の正面に回ると、門にトレーニア家の家紋が消えていた。

 トレーニアという貴族自体が『消えた』と捉えていいだろう。

 成程、非攻略対象の消滅はこういう形で表されるのか。

 となれば、ここはこれでひとまず成功、とみて良いだろう。

 よし、今日はここまで。続きは次のイベント日だ。

 ……非攻略対象を殺すのにイベント日をわざわざ使う必要はないのかもしれないが、それでも念には念を入れておきたい。

 明日はまた水中戦闘の練習をして、明後日、騎士2人をまとめて殺すか。




 騎士2人は、サージスに喧嘩を売ってあっという間にぶちのめされ、その後主人公に手を出してますますサージスの怒りを買ってぶちのめされる、という、可哀相な役回りだ。

 今回はまともに登場すらしていないが、どうせ死ぬのだからいいだろう。


 ということで、訓練所に向かう。

 訓練所に入ると、瞬間、すぐ視線がこちらに集まり、そして、さっと逸れた。

 ……『死神』だからか。そうなのか。まあいい。

「ジキタルとザレアはいるか」

 手っ取り早く、その場に声を掛けると、2人の騎士が出てきた。

 ……片方はおどおどとしていて、もう片方は仏頂面をしている。

 そして、周りの騎士たちが何事かとこちらの様子を窺っているが。

 さて。ここでどうするかはもう決まっている。

 人目がある?逆に考えるんだ。見られちゃってもいいさ、と。

『魔剣・エクスダリオン』を出現させ、2人の首を刎ねる軌跡で振った。




 当然、この程度で消えてはくれない。

 分かってはいたが、それ以上に周りが五月蠅くなった。

「『死神』が騎士を手に掛けたぞ!」

「逃げろ!」

「馬鹿者!俺達の本分を忘れたか!誇り高き騎士が戦わずしてどうする!」

 こうなることも織り込み済みだったので慌てる必要も無い。

「落ち着け!私はここに魔物が2匹、人に化けて紛れ込んだという情報を得てここへ来た!……見ろ!」

 慌てる騎士たちに、首の落ちた2人の騎士……ジキタルとザレアを示すと、ひっ、という誰かの息を呑む声が漏れ聞こえる。

「あ……う、嘘だろ」

「首が……化け物だ!」

「高位の魔物だ!逃げろ!」

 そうして次の瞬間には、誇り高き騎士達は出口に向かって殺到していた。

 ……切り離された自らの首を抱えて起き上がる騎士に出くわしたら、そうもなるか。

 デュラハーン、というんだろうか。自らの首を抱える騎士。

 ……厄介なことに、今回は相手が魔法を少し使うようだ。魔法の気配がする。

 レヴォル程じゃないにしろ、注意は必要だろう。

 こちらも剣を構えて向き直ると、2人の騎士は同時に襲い掛かってきた。

 すっかり人が居なくなった訓練所で、明らかにバグった2人の騎士との戦いが開始した。

 ……トレーニア夫妻よりは楽しめるんだろうな?


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