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25話

 

 翌日の非・イベント日にささっと魔王城に行ってささっとスライム型の魔物を1匹攫ってきた。

 布団に入れて抱きながら寝て満足している。ああ癒される。これいい。凄くいい。

 スライム型魔物の方は困っているのかそうでもないのか、喋らない(喋っていることが分からない)ので気にせず抱き枕にさせてもらおう。

 逃げずに布団の上でもぞもぞぷるぷるしているんだから、きっとそんなに不満は無いんだろう。多分。




 翌日。リザンテ(9月)23日。

 サージスから魔力が上がるアクセサリーを貰えるイベントである。

 これでもっと強くなってサージスを殺すのだと思うと多少不快さ加減が和らぐか。


「ダフネ、その、突然ですまないが……受け取ってもらえるだろうか」

「……どうしたんだ、これは」

 サージスがいきなり差し出してきたのは指輪だ。

 気が早い。こいつ、気が早い。

「そ、その、変な意味じゃない。これは魔力を上げる力がある指輪なんだ。魔法を使える者に貰われた方がいいだろうと……その、日頃の礼も兼ねて」

 しどろもどろに言い訳を重ねていくサージスの手から指輪を受け取って左手の中指につける。

 ……おお。

 成程、作中最強クラスのアクセサリーは伊達じゃないな。

 その性能、『魔力』+50だ。

 つけただけでその効果が分かる。これはいいな。

 ……顔に出ていたのか、サージスはほっとした様な顔をしている。

「いいのか、こんなに良い物を貰ってしまって」

「構わない。どうせ俺は使えない。……それに、その、強いて言うなら……少しばかり、恰好をつけさせてくれ」

 ……。

 そういう目でこっちを見るな。自慢の表情筋にだって限界はあるんだぞ。

 ……まあいい。これで魔力の上り幅が最大の指輪も手に入れた。

 次の戦闘が楽しみだ。そう思えば自然と笑顔になれる。

 ああ楽しみだ。楽しみだ。




 そして翌イベント日はサージスにひたすらデレられつつ愛の言葉を囁かれるという苦行に耐え、そしてその翌イベント日……つまり、舞踏会であるが、なんと、サージスを連れて行ける。

 なので、連れて行く。

 此処で好感度を稼げばこれ以上サージスにデレられるイベントを全カットできるからだ!

 最早イベントの節約が目的では無い。

 少しでもサージスと話す機会を削りたいからだ!

 ……くそ、こいつが今までで一番精神力を削っていってくれたな、全く。

 いいんだ、舞踏会から帰ったらスライム型魔物抱いて癒されながら寝るんだ……。




 という事で、サージスを連れて舞踏会に出る。

 サージスとしては、魔王の命で王城の中も偵察しなければならないが1人では入ることができないので、という口実で『ダフネ』に頼み半分誘い半分の舞踏会行きの約束を取り付けた、という形になる。

 よかったな、サージス。

 王城に着けば、ありとあらゆる視線がこちらに向いた。

 ……ノイエが死に、ノイエが助けに行ったはずの『ダフネ』は全く知らない誰かと舞踏会に来ている、という状況な訳で、やはりというか、噂の対象になっているのがモロに分かる。

「……あまり良くない視線が混じっているな」

「仕方あるまい」

 サージスはノイエが死んだことは知っているが、ノイエと『ダフネ』が数回舞踏会で踊っている、という事は、ましてやそこそこ仲睦まじく見えていたという事まで知っているのかは定かでは無い。

 感づいてはいるのだろうが、気にはしていない、少なくとも気にしていない振りはしている、という事だろう。

 そう考えるとなんというか、可哀相な奴ではある。


 視線には気づかないふりをして曲の始まりと共に踊り出す。

 サージスはそこそこ巧かった。

 流石にノイエやエーリックには劣るが、周りから浮くことも無く、むしろ平均よりは良く踊れている印象だ。

 ダンスや礼儀作法など、魔族の只の戦闘員が行うには少々ハードルが高いであろう諸々をこなせる理由については、2回目の舞踏会イベントを起こすと「潜入捜査にあたってキルシスに覚えておけと言われたから覚えた」という話を聞ける。

 ……やれと言われたからやった。できるようになれと言われたからできるようになった、というのは羨ましい限りだ。

 というのはさておいても、サージスのキルシスへの忠誠が垣間見えるイベントではあるな。

 サージスは好感度が最大であっても、魔王に誘拐され、命の危機に晒される主人公を助けには来ない。

 それは誘拐する側だからである、というだけでは無く、キルシスへの忠誠があるからだ。

 サージスが魔王キルシスを裏切るのは只2つのイベントのみ。

 1つはこの間済ませた【自分の意思で】。

 つまり、自分が魔王の部下で、魔王の命で今まで会っていた、という事を告白しつつ愛の告白までしてくるというイベントだ。……今回は誘拐イベントが先に来てしまったのでもう知ってるよ、という悲しい状態だったのだが。

 そして2つ目は、【討伐】。その名の通り、魔王を討伐するというイベントだ。

 これは、勇者として覚醒させたキャラクターと魔王を討伐する、という内容であり、このイベントをサージスと起こした場合、サージスは苦悩しながらも魔王を倒す。

 人間を根絶やしにせんとする魔王に疑いを持つ彼は、自らの信じる道を貫き通した結果魔王を倒すことで魔王の行動を止めるのだ。

 ……そう考えると割と良い話なのだが、その判断に恋愛というものが混じったからこそ決断できたとも考えられる訳で、そう考えると割と微妙な話である。


 そんな忠誠心野郎と踊っている内に、イベント通りに事が運ぶ。

 背後から脚を掛けて転ばせようとしてくる非常に親切な人が現れた。

 こんなことで転ぶ程軟じゃないが、イベントの為に倒れておく。どうせ地面と衝突する訳でも無いことは分かっているのだから。

「危ない!」

 そしてサージスに支えられて止まる。予定調和だ。

「大丈夫か、ダフネ。……あいつか」

 そしてサージスは『ダフネ』を抱き留めつつ、足を掛けていった貴族に対して凄まじい殺気を送り始める。

 ……一瞬にして空気が張り詰める感覚。

 成程。流石、魔王の右腕なだけはある。

 パートナーに脚を掛けて転ばせようとした奴に眼飛ばしただけでこれか。

「サージス、大丈夫だ」

 サージスを宥めると、多少不服そうながらも剣呑な空気を収めた。

「怪我は無いか」

「あの程度で怪我するとでも?」

 そう言って笑えば、今度こそ鋭い空気は完全に消える。

「それもそうか。……なら、もう一曲お相手願えるか?」

「勿論」

 なんというか、乙女ゲームをやる方々はこんなことを一々やっているのかと思うと頭が下がるな。




 帰宅、そしてスライムセラピー。

 ぷにぷにのボディに顔を埋める。

 ひんやりとした感触が疲弊した心を癒してくれる。

 ……そして、息苦しくないことに気付いた。

 適度に息継ぎするのを忘れないように、と思っていたんだが……。

 ……このスライムに顔を埋めていても呼吸ができる。

 見れば、スライムが周りから空気を取り込んで送ってくれているのが分かった。

 ……なんというか、気遣いもできるどこまでもぷにぷにの……最高じゃないか。最早このつるんとしてひんやりとして、ひたすらにぷにぷにしているこいつが愛おしくすらある。

 しかし、こいつは一匹でいて寂しくないだろうか。

 仲間がいたほうがいいんだろうか。

 ……もう2、3匹いても、いいよな。


 ということで、魔王城に行ってまたスライム型の魔物を両腕に抱えられるだけ攫ってきた。

 帰宅してから数えたら5匹いた。

 心なしか、最初の1匹も嬉しそうにしている気がする。

 ……ああ、幸せだ。

 今プレイではもうこいつらを心の癒しにしていこうと思う。

 流石にこれだけの吐きそうなイベント塗れじゃ、心が折れるかもしれないからな。仕方ない。




 ということで、サージスの好感度と『戦闘力』は手合わせイベント【手合わせの申し出】を発生させるのに十分な値になったので、サージスはここから最終月まで放置だ。

 此処からはヒモ野郎ことリエルの攻略に勤しむ。

 ……リエルの好感度は既に50に到達している。早い。ちょろい。しかし、リエルは好感度80では無く90以上にしたい。

 それは、【隷属と忠誠】というイベントを起こしたいからだ。

「命令なら俺は命だって捨ててみせる」というのがこのイベントにおける非・VR版でのリエルの台詞の一部だ。

 ……つまり、ならばその命を捨ててもらおう、と。そういうことである。

 どの程度台詞に価値があるかは分からないが、ここでリエルを自由に動かせるようになればリエルをバグった状態で殺さなくてもいいかもしれないのだから、やってみる価値はあるだろう。

 大丈夫だ。スライムたちがいる。それにむかつくヒモ野郎を殺す為だ。多少の甘ったるい吐きそうな展開には耐えてみせようじゃないか。


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