家から仕方なく出る2
道中の魔物は全てユユに倒して貰いノヴェイルを目指した。
「なぁ、お前は国で目立たないのか?」
「そうだね。むしろ、一般人として溶け込んでるくらいだよ」
「…羨ましいんだか、寂しいんだか分からねぇな」
「ははっ、黒髪はそこまで珍しくないのが幸いしたのかも」
サラヴィスをアメリカ系とするなら、ノヴェイルはアジア系といったところだ。
当然、目立つ目立たないの差があってもおかしくない。
「一応、ユユはこれでも」
俺は俗に言う伊達眼鏡をユユに渡した。
「勇者って名前だけで素性を知っている人はあまりいないけど、一応騒がれないようにそれで変装しなよ」
「い」
「嫌だ、は禁止。可能性としては低いけど、買い物程度で面倒に巻き込まれるよりは良いだろ?」
「……」
「うん!眼鏡姿も似合ってるよ」
「うるせ」
ユユの軽い拳が左脇腹に命中した。
そして、十メートル程吹き飛ばされた所の壁に当たってようやくその勢いが死んだ。
「お、おぇ…加減してよ……!!」
血の混じったゲ○をぶち撒け、痙攣しながらも立ち上がろうとした。
家では本気のパンチを食らっても余裕なのだ。だが、能力の恩恵が受けられない今、ユユの軽くは俺にとっては致命的である。加減したにはしたと思うが、それでも俺には強すぎるのだ。
「わ、悪い。そこまでぶっ飛ぶとは思わなかった」
「うぷっ…おぇえぇぇぇ……」
近場の治療院に行き、回復魔法を掛けてもらった。
その時医者に「拳ほどのハンマーで全力で殴られたのですか?」と尋ねられた。
ユユの軽くは凡人のフルスイングハンマーに匹敵するのか…。というか、よくゲ○で済んだなぁ。
買い物を再開し、色々な物を買った。
ユユが好きな物はもちろん嫌いな物も。
「ピーマン、や」
「好き嫌いは駄目だよ」
「やなもんはや」
「美味しく調理しても?」
「できるもんならやってみろ」
「お、そういう挑戦的なの以外と好きだよ。何か、逆境に挑む感じしてさ」
「できなかったら即死パンチな」
「……家の中でね」
じゃないと本当に即死するから。
さて、と。
買い物は済んだし、帰りますか。
だが、
「ユユ?」
「あれ」
「ん?パン屋さんがどうしたの?」
「今日はトマトソースとチーズと肉のパンが食べたい」
「遠回しにピザ、ってことだね。うーん、そういえばこっちに来てから一回も食べたことなかったっけ」
元の世界の食べ物が恋しくなったのかな?
そうだったら、そんな寂しい思いは俺がさせない。ユユには嫌な思いはしてほしくない。
だが、ピーマンを食べることは別だ。嫌いな物を頑張って食べるユユの姿が目に浮かぶ。
はは、可愛いだろうなぁ。
結局、誰も俺たちの存在には気付かなかった。だが、それでいいのだ。誰にも知られず、ひっそりと、二人だけで暮らせればそれでいい。
二人で家でだらだらと過ごして、美味しいものを食べて、何てことはないそんな日々が送りたい。
勇者なんて肩書きだけだ。無職の俺にはそんな平凡ほのぼのライフが一番だ。
帰り道、俺はユユの手を握った。普段なら振り払われるが何故かあちらの方がぎゅっと握り返してきた。
あ~ぁ
幸せだ