家から仕方なく出る
「はぁあぁぁぁぁ」
「…」
「はぁあぁぁぁぁぁ」
「…」
「はぁあぁぁぁぁぁぁ」
「…」
「はぁあぁぁぁぁぁぁぁ」
「…分かった」
俺はサラヴィスの国に向かった。
一応ノヴァイルの国で召喚された勇者だが、顔が割れてないようで城下町では騒ぎにはならなかった。だが、
「ノヴァイルの勇者だ!!」
「あの若さで騎士団長を素手で倒したらしいぞ」
「大食いでチャンピオン!!」
「ドラゴン殺し」
「国で五本の指に入る美貌だ」
ユユは俺と違って大分有名らしい。
てか、大食いとか何してんだ。
「おい!ユークリッド様の隣の男は誰だ!?」
「やけに覇気が無いぞ!!」
「護衛か!?」
「それにしても覇気が無いぞ!」
「夫か!?」
「覇気という覇気が無いぞ!!」
野次馬うるさいなぁ。そんなに覇気が無いか?線が細いとかは言われたことがあるけど、「覇気が無い」と連呼されると流石に凹む。
「ユークリッドってユユのこと?」
「……あぁ」
照れながらユユは答えた。
召喚の際、この国にすぐ馴染める様にという理由と、敬意を込めた偉大な名で世間に広めるためにということらしい。
俺の国ではそんなこと一切なかったのに。
「何にやにやしてんだよ?」
「いやぁ、照れ顔可愛いなぁ。って」
「うるせぇ」
「がふっ」
更に顔を赤くし、弱めの鉄拳を腹に食らった。
「おぉ!ユークリッドよ!そなたを呼んだのは他でもない、大切な話があるのだ」
サラヴィスの王はノヴァイルの国の王ととても似ていた。姿と喋り方が全く一緒で気持ち悪いぐらいだ。元いた世界の漫画みたいな双子展開だろ、これ。
なんて考えている俺とは違い、ユユは無表情でユークリッドを演じていた。
「ところで、その話とは?」
普段使わない丁寧な口調でユユが話始めた。媚びる時以外に敬語にならないのに、どういうことだ!?
なぜか俺はそわそわした。
「ふむ、最近サラヴィスとノヴァイルに加え新たな勢力が拡大しているのだ。そこは武力を主に成り上がっているようでな。もしかしたら、戦争になるやもしれん。その時にこの国のために力を貸してもらいたい」
「分かりました。では、失礼いたします」
会話の内容は俺が聞いた内容に似ていた。もしかしたら、サラヴィスとノヴァイルの革命家が集まった組織がそれなのかもしれないな。
ユユの帰る速度は異常だった。最低限の会話で最速の足取りで俺たちは家に帰ろうとした。
だが、家から出ない俺がすぐに帰るのは勿体無い。
「なぁ、買い物していかない?」
「や」
「じゃ、俺が買ってくるからここで待ってて」
「や」
「じゃあ、ユユの好きなもの買ってあげるから一緒に行こう」
「や。てか、その金は私が稼いだやつだ」
「そうでした」
家の中でも低ポジションにいる俺がどうして家外で勝てようか。決定権を握っているユユが駄目だというなら仕方ない。帰るか。
「買い物は、したいけど…ここは目立つ……」
「変装すれば?」
「してもバレんだよ!!」
「いてっ!そしたら…ノヴァイルに来れば?」
「真反対じゃねぇか!」
「あでっ!ごめん、冗談だって」
人目を掻い潜り、俺たちは家に帰った。
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後日
「…めんどくさ……」
調味料セットでお馴染みのアーレンさんから、手紙が届けられた。
内容は、昨日のユユとほとんど一緒だ。
家から出たくないのに…。
「ユユ?」
「……んあ?」
二階でまだ寝ているユユに声を掛けた。
「ちょっと出掛けてくる」
「…ぅん」
「留守番よろしく」
「うん?」
普段なら部屋から生返事するだけなのに、今日は何故か降りてきた。
「どこ、行く?」
「ノヴァイルの王様に呼ばれたから行ってくる」
「一人で?」
「…来てくれるの?」
「待ってろ。ふぁ~~。今着替える」
これまた珍しい。ユユが狩りと王から招集以外外出しないのに。ましてや、敵国に出向くなんてユユらしくない。
「何かあるの?」
「んや。ただ、今は一人でいたくない」
「そうか。ふふっ」
「笑うな」
「はいはい」
今日は買い物して帰れると良いなぁ。