最終決戦4
「良いんですか?一人でも」
ギリアムと対峙したユキは笑っていた。
「別に。一人は慣れてますから」
言葉を発しながら間合いを詰め、蹴りを放った。後ろに引いた足が遠心力で加速している最中、突然現れた水球にぶつかり減速した。
ギリアムに蹴りは命中したもののほぼ無傷であった。
「っと。凄まじいですね。高圧力の水球で攻撃を無効化、そして、圧力によるダメージを与える魔法ですがあまり効果が無かったようです」
効果が無い?結界を纏ったユウトですら吹き飛ばす蹴りをこんな方法で受け止めるなんて。今まで色々な魔法使いを見てきたが圧倒的に強い。もし、私が結界を纏っていなかったら蹴りを放った足に大きな傷が残っただろう。
「これならどう?結界砲」
魔法使いの身体能力では回避は不可能。どう対処する?
「アズエル、ゲート0」
ギリアムの前に黒い魔法陣が現れ、その中に結界砲が吸い込まれていった。
「…何……」
「あぁ。回避は不可能なので吸収させてもらいました。ゲートの先に何がいるかは教えませんが」
「違う!!今、“アズエル”って…!」
「はい。仲間のアズエルです。召喚魔法が使える方です」
殺す
この男を許す訳にはいかない。
アズエルは。アズエルは私をここに召喚した女性だ。優しく、私を育ててくれた大切な人だ。ノヴァイルに取り込まれ、自分の老いを感じ今はひっそりと暮らしているはずなのに。時々手紙でやり取りをしているから間違えるはずがない。
そんな人をこの戦いの場に連れ出す奴を許せない。
「ギリアム!!」
地面を蹴り、全力の正拳突きを放った。水球程度では到底防ぐことの出来ない攻撃。確実に絶命する一撃。
「今、貴方揺らぎましたね?」
攻撃をすり抜けたギリアムはすぐ横に立っていた。追撃を繰り出すも尽く回避された。いや、何故か当たらないような…。
まさか!?
「私の最も得意な魔法は“精神に干渉する”こと。アズエルも自分の意思ではなく、私の力で無理矢理ここに連れて来たのです」
「黙れ!!」
「感情的になった、あの瞬間……」
勝敗は決したのです。
ギリアムの声が脳内に響き、少しずつ意識が朦朧としてきた。体の感覚も無くなり始めた。眠るような、徐々に脱力するような不思議な感覚だ。
これが精神に干渉する魔法……。
「…さらば、始まりの勇者よ」
ギリアムは少しだけ笑った。




