決戦前夜
「それであんなに張り切ってるのか…」
キリアールからの謝罪の後、治療術師のラーグンさんの家であったことを聞いた。
その夜、屋根の上でユユと空を眺めていた。
「ユウト。あの爺さんは何なんだ?」
「うーん……組織を作るきっかけになった人かな?」
「あぁ!?」
「単にね、“治療術師という立場上片方の国に加担することは片方を見殺しにする”みたいなことを言っててどんな状況でも中立であることを貫いたんだ。そのせいもあって両国の戦争が激化せずに落ち着いたんだけどね」
「それと組織がどう関係あるんだ?」
「両国の戦争に関わる人物を手中に納めようと組織が生まれて、仲間にしたらしい。それまではギリアム達も表立ったことはしてないみたいだし」
「知ってんなら最初から言え!」
「ユユもその組織の名前は知ってるはずだよ」
「組織の名前??あったか?」
「ライン商会だよ。ギリアム達は“裏の~”とか“悪の~”みたいなものだから皆が皆悪い人じゃないから。普通に物の流通と情報を取り扱ってるだけだしね」
「…ギリアム達は隠れて悪いことをしてるってのは分かった」
「これが終われば前に言った国を手に入れるっていう冗談が実現できるかもよ」
「はっ。できるんならやってくれよ」
「いいよ」
国を統合するには二つのやり方がある。一つは戦い、支配下に入れること。もう一つは国の代表が話し合い、対等な立場で友好関係を築くこと。ギリアム達の情報操作で二つ目が行われることは決してなかった。だが、これからの戦いが済めば、誰も傷付かない方法で事が全てが丸く収まる。
「この戦いが終わったら一番に何したい?」
「とりあえず飯。たくさん食いたいな 」
ユユは笑った。不敵に。そして、真剣に。
「ただ美味い飯じゃなくて、勝利の旨味を味わいたいな」
「なんか詩人みたい」
「お前、何その小馬鹿にした感じ?」
「してないしてない。でも、ユユの言う通り勝ったうえでご飯食べたいね」
「…なぁ。お前は死ぬかもしれないって思ったことあるか?」
「…なんか今日のユユはセンチメンタルだ」
「悪いかよ!」
「そんなことないよ。俺も不安で仕方ないんだ。こうやってなんとなく二人でいるだけで気が紛れる」
「……」
「…あるよ」
「そっか…」
少し悩んでいた。戦わずにいることも考えた。
だけど、それは過去の話。
ユユがいるから俺はできる。何でもできるはずだ。
それがただの思い違いではないことを二人で証明しよう。




