家から出たけど
戦う前にやらなければいけないことが二つある。
一つはユユの治療。
もう一つは自宅守衛者の能力の強化だ。
キリアールとユユを治療術師の元に送り、俺とユキは体の周りに結界を保つ訓練をした。
「結界の密度を上げて」
「……」
「返事は?」
「…はい!」
集中してそれどころではないというのに…。
ユキは未来の俺にこの方法を学んだという。それが事実なら、俺はユキへ、ユキは俺へと教えあっていることになる。
タイムパラドックスは起こってないからそれで大丈夫なんだろう。
「ぜー、ぜー…」
「ほらもっと集中しないと周りの魔物に気付かれるよ」
「…くっそっ!スパルタめ…!」
ここは家から大分離れた森の中。結界が切れたら最後、凡人となる俺は魔物の餌になるだけだ。
「ふぐぐぐぐっ!!」
「カウトダウンするからそれまで頑張れ。いくよ、九千九百九十九…」
「ち、ちくしょおぉ!!」
この性格は誰に似たんだろうか?
「……こんなに苦しい思いは久々だ…」
体力、精神力が尽き、家の床で大の字に寝そべった。
そこでふと元の世界のことを思い出した。部活に必死に打ち込んだこと、友達のことなど…。
懐かしいものではあるが、それに縛られる俺ではない。
ユキと出会ってから色々なことが久し振りで新鮮だ。
「次、別の特訓するから」
「…はい」
特訓の内容は結界の強度を高め長時間維持するものだった。
「そういえば、サラヴィスに結界の匣を飛ばしたのはあなた?」
「っ…結界の匣……?」
「知らないの?結界で覆った人や物を飛ばして来るって噂」
「……投げ飛ばしたやつかな…?」
結界の匣なんて洒落た風に呼ばれているとは初耳だ。
「何であれができて、今は苦戦してるの?」
そうだ。結界砲もしかり、今までに敷地外に結界を放ったことは何度もある。どうしてそれを応用しようの思わなかったのだろうか?そして、それができるのにこの訓練では上手くできないのだろうか?
「…ところで、ユキ、さんの能力は?」
「アークガーディアンと言われているけど詳しくは知らない。能力は両親の半分ずつ、ってところかな」
ユユの高い身体能力、プラス、結界の鎧。みたいなものか。結界が身体能力を高める分、俺とユユより強いということになる。便利で羨ましい。
「…ん?ユキさんは俺たちより強いのに何で今まで戦おうとしなかったんだ?その実力なら…?」
「勇者らしい活動をしたことある?」
「あ…」
「家にいる時の力はあなたの方が高いから探知できないし」
「あ…」
今の今まで無職を決め込んでいたうえに、自宅守衛者の隠蔽効果がこんなところで役立つ…いや、良いことではないが……。悪いけど結果オーライという複雑な思いを抱いた。




