もう一人のガーディアン
この世界はおかしい。
ノヴァイルがフィークエードを侵攻したようにサラヴィスとの争いがあってもおかしくないはずなのに一度もそんなことは起こってない。過去にタイミング良く俺がユユを取り戻すために襲ったことで戦争にはならなかった。
どこかで情報操作、もしくはお互いの王の側近が戦争を避けるように進言している可能性がある。
そんなことをして得をするのは誰か?
そもそも国と国がいがみ合うことが長続きしても国民にストレスになり、暴動が起こることもあり得るというのに。
だが、同等の力を持つ者が二人いれば。比べる相手が一人だけなら。
相手に負けないように互いは発展し続ける。それは戦争でどちらかが負けない限り永遠に。
それを実現する奴は、気持ち悪いほどの愛国者か、先の先を見据える変人か、甘い汁を啜りたいだけの下道か。
とにかくそいつらにまともな奴はいない。
そして、そんな奴らの集まりがギリアムのいた組織である。
ユユの新たな情報から組織の人員は、
ギリアム。ウィーズ。ガイゼン。以前「知り合いに四人。計六人」が組織の構成人物だとギリアムは言っていた。その言葉を信じれば残りは三人。
そいつらと本気で戦うことになる。
壊れた家を何個か湿地帯に作ったのは俺たちの集中に召喚師がいるというハッタリだった。
そのつもりだったが、そのハッタリが本当になった。さらに、第三の勇者も手中に収めている。
戦力的、影響力的にはこちらが大きく上回っているが分からない三人の能力次第で簡単にひっくり返ることもある。
その組織を誘い出すために派手に国を落とすいう暴挙に出たのだ。
このことから、国ではないにしても、強大な力を持った新たな勢力として印象を持っただろう。そんな勢力を放っておくメリットは微塵も無い。一時的に市場を賑わせても有害と分かった今すぐに切り捨てに来るだろう。
その戦いがおそらく最後の戦いになるだろう。
最終決戦を有利に進めるために、まずはユキを説得しなければ。
「…ユキ、さん。一旦俺たちを殺すのを後回しにしていただけませんかね?」
ユユにしたことへの怒りがまだ完全に収まっていないので自分を抑えることをわすれてはいけない。
「できれば、その能力のことも聞かせてほしいなぁ、なんて」
「だったら、この拘束解いてよ」
「それは敵意が無いことを確認できてから。あと、ユユのこと忘れたわけじゃないから。キレる前に、お互いいい気持で和解したいからさ」
「…一つ質問。あなたはタカノユウトで間違いない?」
「……フルネームで呼ばれるのは何年ぶりかな…」
名字まで知っているのはユユしかいない。ユユにしか言っていない。だが未来の自分なら…。
「俺一応、君の父なんだけど…」
「今は私より年下のくせに」
「…そうだけど」
もしかして未来の自分もこんな風に生意気な態度で扱われているんだろうか…。
「じゃ、こうしよう。俺に協力しないなら命をもらう」
「…分かった……」
俺にはモットーがある。限界一歩手前で止めること。
そしてもう一つ。どんなことより命が大事。そのことをいつも頭に入れて行動してきた。
未来の自分もそのことを口酸っぱくして言ってるんじゃないかと思っていた。




