家での優劣
何とか屋根を修理し終わり、今に向かうと不機嫌そうなユユが俺を迎えた。
「まだ、怒ってるの?」
「当たり前だろ!!半端ない衝撃で目覚めたらお前が…抱き付いてる、んだからよ……」
「あれ、照れて」
「ない!」
ユユの肩パンチは痛かった。
「そうだ。これ、買ってきたからさ。一緒に食べよう?」
「何を買ったんだ?」
紙袋の中から焼き鳥を取り出した。
「じゃーん。焼き鳥でーす」
「お、お前なぁ…」
「え?お気に召さなかった?」
「な、なわけねぇだろ!ただ、本数が……」
「本数、か」
本数なんか気にしていなかった。奇数だったらユユに一本多めにあげればいいだけだ。特に問題はない。
焼き鳥の数を数えてみた。
「十本、か」
「ナナサンな」
「ナナさん?」
「ち・が・う。私七本、お前三本」
「比率おかしいんだけど」
「ハグ事件」
「すいません。それはもう勘弁してください」
駄目だ。しばらくはこれを弱味にされてしまう。ラッキーハグの代償デカ過ぎだろ。
「そういえば、今日さ。ノヴァイルの王様からお話があってさ」
「それって、聞く価値あんの?」
「…多分」
「ふぅーん」
「しばらくしたら、ユユもサラヴィスの国からお呼びだしされるかもよ」
「え!?」
「そ、そんなに嫌なのか?」
「…あの国に帰るなら、ずっとここに居る」
「安心して。何かあったら俺がなんとかするよ」
ユユの肩をそっと抱き寄せた。いくら短気で口が悪くてもユユは女の子だ。男の俺が守らなくて誰が守るというんだ。
「ここに居る限りはユユに危険な思いはさせないから」
「うるせ。離せ」
ユユは無表情で俺が回した腕を払い、一瞥した。
「あれ?サラヴィスが嫌なんじゃ?」
「嫌だけど、いざとなったら殴り逃げればいい」
「殴り逃げる、って何だよ。頼むから一国の王に拳なんか振るわないでくれよ」
「その時は、ユウトが守ってくれるんだろ?」
「そう、だけど…」
くっ、自分の言葉で首を閉めるとは。
ましてや、ユユの可愛い上目遣いなんかされたら断るに断れないじゃないか。
「こら、話の途中で焼き鳥食べない」
「はっへははいんはほん(だって長いんだもん)」
「しかも、二本一気食い…」
指と指の間に串を挟んでユユは焼き鳥を頬張っている。串の数は八本。ナナサンはどうなったんだ?と、言いたいところだが、「ハグ事件」と言われるのが目に見えているので我慢するが。
「…せめて、三本食べたかったなぁ……」
「…」
ユユが顔を伏せ、一本の串を差し出してきた。なんだ、やっぱり優しい良い子じゃないか。
暖かくなった気持ちで串を掴みにいった手は空回りした。そして、掴みにいった串はユユの口元に運ばれ、幸せそうな笑顔でそれを咀嚼した。
「おいひ~」
「…鬼め」
「ん?」
「自分で言うのもなんだけど、酷いよユユ!!」
「てか、こういうのは早いもん勝ちだ。いただきっ!」
「あ、ああぁぁぁあぁ…」
十本全ての焼き鳥はユユの胃袋に収まってしまった。
確かに、寝ているユユに事故とはいえ抱き付いたのは申し訳ないと思う。が!もう少し多目に見てくれてもいいじゃないか。
結局屋根を直したのも俺だし、何なんだよ。この家の主は俺だぞ。最強の自宅守衛者である俺が、なんでこんな目にあわなければいけないんだ。
「ユユ」
「な、なんだよ?」
「俺、家出する」
「おう、そうか」
「ノヴァイルに新築建てて暮らしてやる」
「おう、達者でな」
「そのまま、この家破壊してやる」
「おう、返り討ちにしてやんよ」
「…」
「なんだよ?」
「止めるつもりはないの?」
「だって、お前、家に居なきゃ村人A以下じゃん」
「…そうだけど」
「安心しろ。私が側にいる限りお前の最低限は保証してやるから」
「…ありがたいうえに、俺よりカッコよくて説得力あるんだけど」
家に居ようが居まいが俺の立場は変わらなさそうだ。
ユユの食い散らかした串を紙袋に入れ、台所のゴミ箱に放り込んだ。