家と力ともう一人
「なぁ。お前は一人で行動してるのか?」
「…うん」
質問に答えない度に威圧されたくないのか、普通に返答した。
「…どっちの国の人間だ?」
私のことを知らないからノヴァイルだと予想できるが、会話が途切れないよう配慮した。
「ノヴァイル、だけど。少し違うわ」
ん?どういうことだ?
「私は…今は無い国の、フィークエードの国民なの」
んん?フィークエード?初めて聞いた単語だ。もう一つ国があったということか?
「詳しいことは言えないけど、私にはやることがあるの。お願い!ここから解放して!」
目を見て、その奥にあるものを見透かそうとしてみる。
表情も、声も、目に入っている力も、嘘ではないことが明らかだった。
彼女の覚悟と焦りが伝わってきた。
「何がお前をそうさせるんだ?」
発言してから後悔した。興味半分での軽い言葉は何の意味も持たない。ましてや、決意を固めている人物には皮肉や嫌みに近い。
「今のなし。何でもないから気にすんな」
その後無言のまま数分。ユウトが戻ってくるまでがやけに長く感じられた。
「確認は済んだからズバッと言うよ」
ユウトは二つ折のメモを彼女に渡した。
「キリアールさんは旧国フィークエードの人で、反対組織と噂されている一人だよね?」
メモを横から覗くと、それらしき目撃情報や最重要警戒項目などが記されていた。
「これら全て、お馴染みのライン商会からものです。あなたが行動すること、全てに興味を持っていました。ここに来てからずっと」
ユウトの真意は分からない。だが、こいつは次にもっとやばいことを言うと、それは察することが出来た。
「さっき言った通りズバッと言います」
………。
……え?
「じゃ、もう一回」
「二つの国を同時に手に入れる」
…こいつ………。
冗談じゃない。こいつは、やると言ったらやり遂げる。目も本気だ。
「どうしても俺たち二人じゃ無理なんで」
「ユ・ウ・ト。それ初耳」
握り拳を見せつけてやるが全く動じない。
「本気です。そこで、キリアールさんの力も必要に。互いに有益だと思いますが?」
「……あなたは何者なの?」
「無職の勇者ですよ。これから一仕事しますけど」
カッコつけんな。いつも通りにしてくれないとこっちのリズムが狂う。
「こういう話をしたということは……もうあなたを帰さないということですよぉ…」
そのわざとらしい動きと気味の悪い笑みもやめろ。
ユウトは指をウネウネと動かしながらひひひと高い声を出して笑った。
「わ、私は……」
「あなたの過去は知っています。この二人の勇者が手を貸すと言っているですよ?それとも、俺たちの話を信じられませんか?」
彼女は首を横に振った。
私との戦いから、実力は本物であると身をもって知ったからだろう。
「とりあえず…」
普段と違う態度で気持ち悪い。
初耳の案件。
この苛立ちのような感情をぶつけなければ気が済まなかった。とりあえず拳を一発。
意味は無いがおまけにもう一発食らわせた。




