家で踏み込む
「今思ったら、リカールに拉致られてることになってから王の所に出向かなくていいのは楽で良いな」
「…そうだな」
ユユにとっては尚更そうかもな。変に着飾ったり、変な重圧とかに耐えていたんだろう。
「さーて、アーレンさんと連絡取りますかね」
以前、ウィーズが来たときにライン商会用にもと渡していた通信機を使った。
「あ、あ。もしもし?」
「……どうも。ライン商会です」
「アーレンさん?」
「…はい。そうですよ」
「情報は扱ってますか?」
「…少々お待ちを……」
うぅん、タイムラグがあるし、ノイズ混じりでアーレンさんの声かどうかよく分からなかったし、改良点が多い。次の物は…いやいや、今回はそれを置いといて。
「今度は何をするんだ?」
「…情報操作さ」
悪人顔でユユの方を向いた。そして、思った。操作さ、って言い難いと。
「情報操作?通用すんの?」
「確かに。情報社会だった前の世界と比べてはいけないと思うけど、昔から情報戦はあったし、多分大丈夫のはず…」
事実、スパイや諜報部隊の存在が戦況を大きく変えた例も少なからずあるわけで。
むしろ、魔法のある世界なら噂の類いは早く広がりそうな印象がある。
「…今担当と代わります」
「え?」
担当とかあるのか?てっきり、アーレンさんが全部やるのかと…。
「…ただいま、代わりました。情報課のギリアムです」
「どうも。早速なんですが…」
「…今そちらに向かいます」
「え?」
今「そちらに向かう」って言ったか?
嘘だろ?
「こんにちは。先程お挨拶させていただいたギリアムです」
「嘘だろ…!?」
「どうする?」
「…迎え入れるしかないでしょ」
外から聞こえる声にとてつもなく驚いた。ノイズ混じりではあるがこの声は本人のもので間違いない。
とりあえずギリアムを家の中に入れた。
「…ユユ。玄関に他に誰かいなかった?」
「誰も。あいつ一人だけ」
「瞬間移動でも出来るのか?」
「本人に聞けばいいじゃん」
「…何か怪しいんだよな……」
「何を話しているんですか?」
「いいえ、こっちの話です」
内緒の話を打ち切り、ギリアムを椅子に座らせた。
何があろうと関係ないか。普通に話せば大丈夫だろ?
「本日はどのようなご用件ですか?」
「あっと、その…」
なんか携帯買いに行った時の店員みたいだ。
「その……あれ?前に会ったことありましたっけ?」
「いいえ。初対面ですが?」
「そうですか。じゃ、本題に」
本当は通信機越しに言う予定だったメモをギリアムに見せた。
本当は色々なことを隠しながら話を進めるつもりだったが、こいつのよく分からない怪しさを信じて思い切り踏み込んでやることにした。
「…面白いですね。なるほど、なるほど…これは情報に関わる大事ですし…何より、あなたの意図がなんとなく分かりました」
…良い方向に転がってよかっ……
「実は姉から面白い話をお聞きになったんですが…」
姉?誰のことだ?
「ラヴェールというんですが、ご存じですか?」




