家外戦争(サラヴィス視点4)
「やられた」
ハンクは空を見上げた。だが、いつも見る景色とは全く異なっていた。
「…化け物だな」
シュフトはため息を吐き、半ば投げやりにそう言った。
「リカールだし、そんな驚かないけど」
ラヴェールの強がりも今では何の意味もない。
サラヴィスは国ごと落とされた。
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リカールは会話が苦手と言った。
リカールの目的はユークリッドである。
それは、政治的理由なのか
私的理由なのか。
政治的理由なら投降しても悪いようにはされないだろう。
だが、私的理由なら潰せる。
ラヴェールは笑った。
気球は囮。城壁外もおそらく。ユークリッドから注意が離れた今、私なら仕掛ける。
リカール本人、もしくは仲間が手薄になった今を見逃すはずがない。確率は低いが、ユークリッドとリカールが知り合いなら簡単に拐える。
ユークリッドのいる部屋のドアを勢い良く開けた。
「…ユークリッド様?いらっしゃらないのですか?」
確定だ。リカールは内部組織にいる。そして、ユークリッドはリカールと知り合いの可能性も上がった。
「どうしました?」
ちっ。
「いえ、敵からの襲撃をお知らせしようかと」
「そうですか…他に異変は?」
「今のところはありません。何かありましたらすぐに」
ちっ。何も収穫が無かった。
だが、今回の考えは正解に近いと思える。もう少し、様子を見れば全てが分かるかもしれない。
ラヴェールは王の元へ戻った。
「ふぅ(ギリギリ間に合ったぁ!!)」
ユークリッドは深いため息を吐いた。
「サラヴィス様。国民への呼び掛け、大変よろしかったです。被害の割には騒ぎになっていないようです」
「…そうか」
「全部隊への警戒度を引き上げ、シュフトと共に対策を練ります」
「そのことですが、先ほど多重結界の展開に成功しました。次に来る結界の匣には有効…」
「大変です!!多重結界が…!」
「あ”あぁぁぁぁんんんん!!ぶっ殺すっ!!あんのくそ野郎がぁぁ!!」
とうとうシュフトが壊れた。
「アホは放っておいて方角は?」
「それが…」
ドドドドドドドドドドドドッッ!!!
爆発!?いや、この音は花火?
「…全方向です……」
「今行く!」
「我々も行くぞ」
「はいはーい」
上空は派手な花火で輝いていた。音も凄まじい。
「どれだけの火薬を使っているのだ?」
「硫化の鉱石と木炭があれば簡単に生成できるとか」
「さすが軍師、博識だな」
「もっと誉めてもいいよん」
冷静に分析する二人の横で、
「サンダー!!サンダー!!サンダァァーーーっ!!!」
一人の魔法使いが飛んでくる結界を一つ一つ撃ち落としていた。
だが、それ以上の手数に観念し、放心した。
「ん?何か、空が遠くなってない?」
「何を……」
空が遠く…否、自分達が遠ざかっていた。
しかも、壁はそのままに城壁内部のみが沈んでいった。その際に地面が割れることはなく、垂直に落ちていった。
深さにして十数メートル。壁も含めると二十数メートル。
地の利を完全に覆らされた。
花火の音で地響きを消すのが本当の狙いだったと気付いても、もう遅い。
「魔法でこの地盤を浮かせることはできないのか?」
「はぁ、はぁ、はぁ…出来なくもないが、相当な時間が掛かる」
「それは、あっちがさせないみたい」
落とされた穴の壁に洞窟が幾つかある。
「罠にハマった時点でこっちが後手。あの穴に魔物もしくは更なる罠があるんじゃない?」
ラヴェールが言うと何故か説得力がある。男二人は黙りこみ、話をしっかり聞いていた。
「正直、こうなったら打つ手無し。お手上げー」
しかし、ラヴェールには確実な一つ策があった。
「おい…東側から何か一体出てくるぞ」
「マジかよ…ハンク!ゴーレムだ!!」
「待て!兵士を集め、数で押す。それまでは様子を見るぞ!」
リカールの新手に翻弄される団長達。
二人を残し、ラヴェールは城へ向かった




