家外戦争(ユウト視点2)
「頼んだぞ。マーティン4号…」
お前には色々申し訳ない。品質の悪い魔石でお前を無理矢理動かし、これから敵地に放り込む俺を……許してくれ。
だが、これだけは言わせてほしい。
「…絶対に忘れないからな」
マーティン4号を起動させ、食料庫目掛けて落とした。
凄まじい音と同時に大規模な土煙が舞い上がった。
まずい。
予定と大分違う。
マーティン4号の元へ何人かの兵士が駆け付けた。だが、粗悪品あっても自宅守衛者が産み出した人形だ。そう簡単には負けはしない。
マーティン4号は切りかかる兵士をぶん投げ、魔法を放つ者をぶん投げ、銃を撃つ者をぶん投げ……。
予定と大分違う。
マーティン4号はもっと弱いと思っていたんだが。何人か軽くあしらって、簡単にぶっ倒される予定が…。散々「許せ」とか言っていてもユユのためには手段は選ばないんだ。
作戦変更だ。マーティン4号!!そいつらを蹴散らせ!!死なない程度に、程々に。
さて、熱気球を使う最大の利点は視野の広さにある。他にも、色々と細工を施したんだが未だに起動しないでいる。
それでもやることは変わらない。
まずは兵の動きだ。食料庫へ向かう者、警戒網を張り人々を遠ざける者、気球に意識を向けつつも外部を警戒する者。なかなかに良い統制だ。無駄がなく隙もない。そこに、魔法部隊が駆け付け事態を有利に運んでいく。場馴れしているのがよく分かる。
時間を稼いだところに騎士団長、魔団長、軍師と思われる三人がやって来た。ユユの姿が見えないところから、動画をすでに見終わったようだな。
何か叫んでいるようだが遠くて聞こえない。ここは黙って、マーティン4号と団長達の戦いでも眺めよう。
騎士団長が剣を構え、魔団長が詠唱に入った。軍師の方が女性なのか。なるほど、なるほど。
マーティン4号の拳を上手く剣で受け流している。いくら騎士とはいえ、重く、速いマーティン4号の拳に苦戦していた。「ーー!!」魔団長が詠唱を終わらせ、魔法を放った。おそらく強化魔法だろう。騎士団長の動きが良くなった。だが、マーティン4号を破壊するには程遠い。頑丈な鉱石をふんだんに使ったんだ。簡単に破壊されては困る。
「ーーー」軍師が何かを言う。
何か嫌な予感がする。
騎士団長が攻撃を受けるのは変わらないが、他の兵がマーティン4号を囲むような陣形に組んでいく。
「ーー!!」魔団長の号令で全方向から魔法を浴びせた。魔法使いと騎士を二人一組で配備し、魔法使いを守りつつ、効率良く攻撃している。
だが、
魔法に強い鉱石も使用している。
陣形や策を練っても、簡単にはやられはしない。
「ーーー!!」「ーーー!!」魔団長が魔法を詠唱し、騎士団長が一撃必殺らしき技を放った。
無駄だっ……て…。
マーティン4号が防御の構えを取るも、それを巻き込んだ一撃が見事に命中した。
砂塵が舞い、それが晴れる頃にマーティン4号の姿は無かった。
「……嘘だろ?」
こちらには油断も手抜きも無い。だが、それを上回る実力を見せられては驚くしかない。
軍師が熱気球を指差し、「ーーー!!!」魔団長が合図すると幾つかの魔法がこちらに飛んできた。
こっちは無敵状態じゃないんだよ!!
「あぶっ!ちょ、待っ…!!何で!発動しないんだよぉ!!!」
近くの熱気球が打ち落とされていく。
確実に迫り来る死。逃げ場の無い現状。
せめて、死ぬならユユの側で……




