家外戦争(サラヴィス視点2)
「サラヴィス様!!上空に幾つかの浮遊物が!!」
集落の奴等からは連絡はないが一体…?
「そーいうのは私が聞こうかな」
ラヴェールが笑みを浮かべ、報告に来た兵士の前に立った。
「は、はい。おそらく気球と思われる物が数十個。南東の方角から現れました」
「ふぅーん。匣と同じく南東ねぇ。ねぇ、ハンク。そーいうことだし、兵士出しちゃえば?」
「貴様、そう簡単に人を仕向けるのは得策ではない」
「軍師の私が言ってんだけど?」
「それでもだ。せめて、もう少し様子を見んか?」
「…後で泣いても知りませーん」
頑として譲らないハンクに呆れたのか、ラヴェールが不機嫌な様子を見せた。
「それよりも…一体全体……」
サラヴィス王が水晶に触れると奇妙な衣装で仮面を被った男が宙に映し出された。新手の魔法だと思い、その場にいた全員が臨戦態勢に入る。
『どうも。リカール、と言えば分かるでしょうか?』
リカール。その名前だけで雰囲気を凍らすには十分だった。
「お前が結界の匣を!?」
「リカールって、あのリカール?」
「気球も貴様の仕業なのだな……」
「お主!!何様のつもりで…!!」
ユークリッド以外がそれぞれに思ったことを口にした。だが、
『まぁまぁ。言いたいことは分かりますが、これから一方的に話させていただきます。交渉とか苦手なので』
商業神の名を語る奴が何を言っている?と、全員が思った。
『あぁ、皆さん疑問に思っていることからまず説明しましょう。この装置についてですが、これはこちらの様子とそちらの様子を同時に見ることが出来る魔道具です。なので、そちらの様子も分かりますよ。驚きを隠そうとしても無駄ですよ』
「な!」
「何っ!?」
同時進行でお互いの様子を映し出す?そんなこと……
否、皮肉にも商業神リカールの名を語るということ、それぐらいの技術や道具を持っていたとしても不思議ではない。
事実としてこちらの様子が手に取るように分かっている。
「お主の言う通り、一通り話を聞く必要があるな」
一度警戒を解くようにサラヴィス王が言った。
『ーーユークリッドをお預かりしたい』
「あの気球、もしかしたらかなりヤバイかも…」
「かもしれない」
先のことを考え団長三人は考え込んだ。
しかし、
「ふさけるな!!」
サラヴィス王は冷静ではなかった。度重なる奇行に耐えられなくなっただろう。
「落ち着いてください。我々が必ずなんとかしてみせますから」
「…主らに全てを任せる。奴の思い通りにさせるでない」
「「「はっ」」」
ユークリッドは分かっていた。この動画はユウトのものであり、リカールと名乗っていた男の声は間違いなくユウトのものであると。
(あんの馬鹿!!何調子に乗ってんだよ!?家の中にいなきゃ雑魚のくせに!!)
「お前の要求は呑めん。必ずや、このハンクがお前を倒す」
「僕もですよ」
「私は戦うのニガテだから、よろしく」
「「おい」」
『やはり、駄目ですよね。もちろん、ただで済むとは思っていません。そこで、第一手を打たせてもらいます』
第一手?何が起きるのか?何手まであるのか?
全員に不安が過った。
ドォーーンッッ!!!
凄まじい音が響いた。爆発に似ているが、決してそうではいない。強固な物が猛烈な速度でぶつかり会ったような……。
「大変ですっ!!上空の気球から、何かが降ってきました!!死傷者はいませんが、直撃したのが……食料庫でして…」
「分かった。下がれ」
「はっ!」
「第一手、か。思ったよりインパクトに欠けるような…」
「相手は思ったより馬鹿?」
「お前ら、緊張感を持て。まだ、一つとは限らないんだぞ。サラヴィス様。我々は落下物の確認に向かいます。おそらく、あの音と上空の気球で騒ぎが起こるかもしれません。それをまとめあげてください。ユークリッド様、あなたは相手の狙いだ。身を隠し、いざというときまで待機を」
「承知した。頼んだぞ」
「分かりました」
サラヴィス王とユークリッドを残し、三人の団長は食料庫へと向かった。




