家では無敵
「はっ……はっ……やってくれんじゃん…!」
「そう言われてもなぁ…」
「ふぅ…」
か細い吐息と共にユユは俺の懐に滑り込んだ。凄まじい速度を生かし、流れるような動作で攻撃体勢に入った。
「ギガ……ラッシュ!!!」
目前に迫り来る連撃に怯むものの、冷静にそれらを一つ一つ順番に片手でいなした。
「あぁぁあぁぁ!!」
「ん!速くて、重いけど……」
急所を狙った一撃を後ろに受け流し、その腕を掴み宙に放り投げた。
「怖くない」
「こんのっ!!」
ユユは上着を脱ぎ、無装覇者の力を上昇させた。
ちなみに、ショートパンツにノースリーブと大分肌を露出させた魅力的な格好なので目のやり場に困る。
「スプリングヴォールト!!!」
宙で前傾姿勢を取り、まるで足場があるかのように空を蹴った。そして、その速度を維持し高速移動しながら前後左右に跳ね回った。
「なるほど。バネのスプリングと、跳ねるのヴォールトの名前の通りだ」
地面や壁を蹴らなくていいため、規則性が掴めず目で追うのも難しい。
唯一の救いが直線的な動きであることだ。曲線的な動きができないため、小回りの面でミスが出る。
「ここだっ!」
完璧のタイミングで右腕を出した。
しかし
体を捻り右腕の上を転がるようにし、回転の遠心力を利用した裏拳が額目掛けて降り下ろされた。
防御……間に合わない!
回避……逃げ場が無い!
反撃……ユユにはしない!
最小限の動きでこの緊急事態を脱するにはどうすればいい!?
極限にまで濃縮された一瞬のうちにその答えは出た。
自分を殴る!!
無敵なため軽く叩くだけで山を破壊するぐらいの威力は出る。
トン、と腰辺りに左手をぶつけるときりもみ回転しながら壁まで吹き飛んだ。痛くはないが、驚きはする。
ユユの追撃を警戒したが先程の場所から一歩も動かずこちらを見ている。
「左手、使ったな」
「…あっ」
…俺の負けだ。
ルールの片腕使用禁止を破ってしまった。
ん?何をしているかだって?
鬼ごっこに決まってるじゃないか。




