家でお金を返したい
ポリツァー。
それは、味がないが栄養価が高い。
そのため普通に育てようものなら魔物に食い散らかされてしまうだろう。本来、植物は見た目を毒々しいものにしたり、苦みや辛みで食べられないようにする。だが、これだけは違う。
育てる環境も普通ではない。昼は高温、夜は低温で管理しなければいけない。どっかの天変地異が原因でその栽培方法が分かったとか何とか。
家の中で育てれば魔物には食われないし、温度調節も可能だ。
もしかしたら、ポリツァーを簡単に栽培できる人間は俺だけかもしれない。
調理の仕方等も数が少ないため曖昧な所が多い。
もしかしたら、それを解明したら有名になって金が稼げるかもしれない。
ただの野菜栽培であるがやる気が満ちてきた。
拳大の大きさの実一つで一週間は贅沢三昧できるほどの値打ちがある。
金の成る木と言っても過言ではない。
俄然やる気が湧いてきた。
栽培は環境を整える以外は比較的簡単だった。
実験も兼ね、敷地内の庭のビニールハウスと室内のプランターと二ヶ所で栽培することにした。
肥料を混ぜた土に種を蒔き水をやる。
そこで、ふと思った。
…おかしくないか?
収穫が難しい野菜の種を簡単に届けてくれことが不思議だ。
種が手に入るといことは、ある程度どころか十分に育てることが可能ということではないか?
……もしかして…………。
「…ユユ」
「どした?」
快適な温度が保たれた居間のソファーに寝転がり、静かに本を読むユユに恐る恐る聞いてみた。
「お届け物の代金っておいくら程……」
「ーーー」
ユユが口に金額に俺は頭を抱えた。
この額なら倍返しを求めるのも頷ける。てか、そんな金をどこに隠していたんだ!?なんで、そんな金額を払ったのに冷静なんだ!?
「この、貸しはいつか、必ず……」
「必ず?男に…」
「二言はありません」
流石に申し訳なさ過ぎる。
ハイリスク・ハイリターンだ。上手くいけば大金が手に入り、倍返しどころか二倍、三倍にもできる。
男に二言は無い。と言った以上やるしかない。
お手軽野菜栽培のはずが、生計と俺の色々な何かを守るための「本当の」野菜栽培になってしまった。
それから、水をきっちり計り、与え、時間になれば気温を調整し、栽培という行為に全力を尽くした。
睡眠は浅くなったし、神経質になり生活に支障が出たが自宅守衛者の能力でなんとか耐え凌いだ。
そして、遂に。
「…できた……」
ポリツァーの苗はビニールハウスに二本、プランターに二本の計四本。
その全てに(ユウトからしたら)神々しい、赤い楕円形の実がはち切れんばかりの弾性を主張し、微かに付着した水滴が表面の艶やかさを強調していた。
個数にして、二十一個。
なんとか赤字は免れそうだ。
だが、それは全てを売り払ったらの場合だ。
種を採るために一応一つの苗を残すことにした。
食べたい。
味は無いと分かってはいるものの、頑張って育てた物に変な期待をしてしまう。
食べたい。
ユユにお金を返さなければいけないんだ。ここで、食欲なんかに負けるはずがない。
食べたい。
男に二言は無い。男に二言は無い。
食べたい。
食べた。
俺は再び頭を抱えた。
そして、考えた。
お金を返すのはもう少し先にしよう。
室内と室外では味の違いが無かった。ただ、室内の方が育ちが早かった気がする。
十個ほど売り払い、残りを次の栽培に当てた。
そして、栽培に力を入れ過ぎた結果体を壊した。
いや、正確には精神的なことから体に不調が現れた。
食欲が湧かないし、偏頭痛が酷い。
だが、ポリツァーだけは力を入れれば入れただけ結果を出した。
もっとだ。もっと、金を稼がなければ。
俺は借りたお金を返さなければいけない。ユユの負担を減らさなければいけない。
俺が。
「うじうじしてんじゃねぇぇぇ!!」
「ごぱぁ!!」
ユユの鉄拳が鳩尾にクリティカルヒットした。
「ギガラッシュ!!」
「ぐるぱぁ!!」
それからはもう、ユユの拳の連打連打連打。
失神してからも殴られ、殴られた痛みで目が覚め、失神するの繰り返しだった。
「ったく、最近飯が不味いんだよ。ぐっすり休んで出直してこい」
俺はポリツァーの栽培を一時中断した。




