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俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第零章――勇者が嫁になりました――
8/23

第八話

御免なさい。


第七話の後書きで「閑話を挟んで第零章を終わりにする」と書きましたが、ちょっと長くなってしまったので第八話として投稿しました。


では、どうぞ

 しばらく唇を重ねてから俺達は離れた。そして同じタイミングで微笑み合う。少し気恥ずかしい。でも、これが『夫婦』の空気かと思うと、それも愛おしく感じる。そしていつまでもこの空気に浸っていたいと思うが、此処にいつまでも居るわけにはいけないと、鋼鉄の理性を動員してエリーに外に出るように言おうとした時……


 すべての『魔術』が解け、激痛が俺の脳を直撃した。


「ギャアァァァァァ!!!」


「ど、どうしたのですか?! ナオトッ!……まさか! まだ何処かに敵が!!!」


 いきなり絶叫を上げ、転げまわる俺を見て、勘違いをするエリー。まあ、普通そう思うよな。俺は何とか痛みの原因を言った。エリーは安心したように息をついた。


「安心している所悪いんだが……傷口を治療してくれないか? これ以上出血すると、天に召されてしまいそうだ……」


「は、はい!」


 エリーを催促して、俺の治療をしてもらう。自分でも手伝おうと思うんだが……痩せ我慢している痛みのせいで、身体が動かない。オマケに痛みのせいで集中できず、『治療魔術』も使えない……まあ、魔力も殆ど残って無いが。


 でも、奥さんに治療して貰うのも……いい物だ。


 もちろん、旅の中エリーに治療して貰う事はあった。だが、今のエリーは『俺の嫁』なのだ。『魔帝討伐の仲間』だった頃とは違うのだ、と俺は断言する!


 そんな脳内演説をしながらエリーを見つめる俺。心なし、エリーも楽しそうだ。少し鼻歌まで歌っている。


 エリーは三年前と比べて、美しくなった。初めて会った頃は、少し儚げな感じもあったのだが、今は凛々しくなったと言うべきか、どんな事にも立ち向かう強さを感じる。それに対して俺は、あの時と比べ成長しているのだろうか? 『魔帝』や『女神』を倒し、世界の危機は去ったと言える。だが、エリーにとっての危機はむしろ今から始まるのだ。無論、エリーを護る事を諦める気持ちは微塵もない。むしろ『夫婦』となった今、その気持ちは強まるばかりだ。だが、何がエリーの『幸せ』なのかが、俺には解らない。そんな事を考え始めた時。


「何を悩んでいるのですか?」


 エリーが訪ねてきた。俺は咄嗟に「なんでもない」と返すが……


「嘘です。三年も一緒に居るのです。眼を見れば、嘘かどうか分かります」


 包帯をきつく締めながらニッコリと俺を見る。……いつもは嬉しく感じる笑顔も、今は恐ろしく感じる。もしや、俺は既に尻に敷かれているのだろうか?


 半ば現実逃避をしながら、俺は今まで考えていたことを打ち明ける。俺の治療をしながらエリーは最後まで聴き、一言。


「ナオトはおバカですね」


 と言った。


 俺は口をあんぐりと開け、エリーを凝視する。初めての罵倒に思考が回らない。


 意味もなく口を上下している俺を見て、コホンと咳をしてエリーは話を続けた。


「そもそも一緒に幸せを探すのが〝夫婦〟ではないのですか? 私は与えられるだけの〝幸せ〟は要りません。ついでに言えば私は〝権力〟や〝名声〟などに興味はありません。ただ二人で生きていければ良いのです。〝女神〟に言われてナオトも知っているはずですよ。戦いで頭を打って、忘れてしまったのですか?」


 ……怒濤の勢いだった。見ればエリーの表情は『私怒っています!』みたいな感じだ。初めて見る表情に俺の胸の高まりが止まらない……落ち着け、俺。


 惑わされすぎだ、と自分自身に激を入れてから俺は考え直す。そうなのだ、俺達はまだ『夫婦』に成ったばかり、答えを急ぐ必要は無いのだ。自分だけの考えを押し付けるだけでは、『幸せ』などに成れるはずがない。こんな事も解らないとは……


 俺は反省し、後ろ頭を掻きながら謝る。


「ゴメン、エリー。俺、君と〝夫婦〟に成って少し浮かれてるみたいだ。……一緒に捜していこう。二人の〝幸せ〟を」


「はい」


 エリーは俺の謝罪を聴き、笑顔で返事をしてくれた。


 治療を終え、外に出る事にした俺達。しかし俺は満足に歩くことが出来ずにいた。相変わらず、『魔術』の補助が無いと歩けない。いや、前より酷くなってる。立つだけでも痛いのだ、それも筋肉痛のような痛み。足がプルプルと震える。そんな俺を見かねて、エリーが横から俺を支える。俺が礼を言うと。


「夫婦とは、支え合うものです」


 笑顔で言われた。先程から俺は本当に頭が上がらない。


 そんな風に、ゆっくりと『魔帝の間』を出て行く俺達。でも、俺は出口で立ち止まる。


「ナオト? どうしたのですか?」


 エリーが俺を見る。俺は笑顔で「ちょっと、な」と言い……


 『魔帝』が崩れ去った場所に振り返った。


 俺は、『魔帝』の最後の言葉にまだ答えて無いから……


「ああ、アンタに誓うよ。俺はエリーを護り抜いてみせるよ」


 俺はそう言ってエリーと外に出て行った。





---------------------------------------------------------------------------


 俺達が外に出ると歓声が上がった。此処に居る全ての人達が、喜びを表し、お互いを称えあっている。当然だろう。俺達が無事に出てきたということは、『魔帝』が討伐されたという事なのだから。


 だが、俺達は素直に喜べないでいた。『魔帝』や『女神』の意思を知った後では、手放し喜べ無いのだから……


「終わったな、友よ」


 ズシン、ズシンと地響きを立て、俺達に近づいて来た者が居る。顔を上げれば赤い鱗を持った竜が居た。


「竜王……」


 そう、全ての『竜』の頂点に立ち、俺が戦ったドラゴンでもあり、そして今回の戦いに駆けつけてくれた『竜王』が立っていた。


「どうしたのだ? 二人共ひどく浮かない顔をしておるが……」


 俺達が喜んで無い事を知った竜王は、訝しげに聴いてきた。俺達は頷き合い、竜王だけには今回の事を全て話す事にした。


「成程、な。それでお前達はそんな顔をしておるのか……」


 話を聴き終えた竜王は、合点がいったという感じで頷きながら言った。


「まあ、その気持ちは解からんでもない。だが、それを他の者達に言わぬのなら、今は無理にでも笑っておけ。それも〝勇者〟の仕事だ」


 確かに、事実を言わずに俺達が浮かない顔をしていたら、みんな不安になるだろう。俺達は何とか笑顔を取り繕った後、エリーは『勇者』として皆に声を掛けた。


「皆さんの協力で、〝魔帝〟を打ち取る事が出来ました。未熟な私に力を貸して頂き、本当に有難うございました。そして、無事に帰り、大切な人達を安心させて下さい。もう〝魔帝〟に怯える事は無いのだと」


 再び上がる歓声。エリーも笑顔で答えているが、やはり俺達は喜べないのだった。


 しばらくしてから、竜王が再び声を掛けてきた。


「それで、これから先、お前達はどうするのだ?」


「取り敢えずエルテミスに帰るよ。その後は……まあ、エリーと相談して決めるよ。今は兎に角休みたい」


 俺は座りながら答える。痩せ我慢して立っていたが、もう限界なのだ。エリーも挨拶が終わったのだろう。俺の隣に腰を下ろした。その距離が近い事に竜王は言った。


「何やら二人の距離が近いような……ナオト、ついに告白したのか?」


 俺は竜の表情はよく解らない。が、今は解る。こいつは絶対ニヤニヤしている。というか、なんで俺の気持ち知ってるの!?


 俺は顔を真っ赤にしながら、竜王に言い返そうとしたが、エリーの返事の方が早かった。


「はい! ナオトに告白されて、私達〝夫婦〟になりました!」


 俺の腕を取り、笑顔で言うエリー。嬉しいけど恥ずかしい……けど俺も然りと答えなければと思い直し、言った。


「ああ、エリーとこの世界で一緒に生きていくと決めた。そういう訳でこれからも頼む」


 俺の答えを聴いた竜王は頷きながら言った。


「そうか、勇者を嫁にしたか。友して祝福しよう。だが、ナオトよ、解っているな?これから先が大変な事を……」


 そう言って心配してくる竜王。こいつは基本、優しいのだ……そしてその存在を、俺は嬉しく思う。だから俺は力強く答えた。


「もちろんだ。でも、俺はエリーとの未来を諦めない。邪魔する奴は蹴散らしてみせるさ」


 俺の決意に、安心したのであろう。竜王は今度はエリーに声を掛ける。


「エレハイム殿、幸せにな。そなたはよく戦った。これからの人生は平穏になれば良いな」


「有難う御座います竜王様。ですが、これからは私のことは〝エリー〟と呼んで下さい。夫の友は私の友でもありますから」


「そうか……ではエリーも、我を〝様〟付けで呼ぶのはやめてくれ。友とはそういうものだろう」


「はい」


 エリーは笑顔で答えていた。その答えに竜王も満足そうにしている。


 俺はそんな二人を眺めながら、微笑んでいた。

ちょっと短めです。


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