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俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第零章――勇者が嫁になりました――
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第六話

「……エレハイム殿、少し時間を稼いでくれまいか?」


 『魔帝』は『女神』から目を離さずに、エリーに声を掛けた。


「……分かりました。しかし余り多くは稼げないと思います」


 痛みに顔を顰めながらも立ち上がったエリーは、そう言って『女神』に斬りかかっていった。その姿を確認した後。


「ナオトよ、我が受けし〝加護〟(のろい)……受け継ぐ〝覚悟〟は有るか?」


 『魔帝』は俺に振り返りながら、そう言った。


〝加護〟(のろい)を……俺に?」


 突然の言葉に、上手く頭が働かない。


「貴様も分かっているのだろ、このままでは女神に勝てない……とな」


 突きつけられた現実。本当は俺も分かっていたのだ。この儘では俺達は勝てない事を……


 『女神』は『神』、肉体をいくら傷つけても、『命』まで届かないのだ。


「そこで我が加護、〝漆黒〟を剣に付与し貴様にくれてやる」


 『魔帝』の持つ、漆黒の刀身の剣。俺には大きすぎるその姿に思わず息を呑む。


「我が加護〝漆黒〟、それは〝あらゆるモノを蝕み滅する力〟。エレハイム殿の〝白光〟とは正に反対のものだ」


 理解する。エリーの『白光』が『防御主体』の属性ならば、『漆黒』は正しく『攻撃主体』の属性なのだ。その力があれば、『女神』を『殺す』事が出来るかもしれない。俺の心に希望が宿る。


「だが問題もある。我が〝漆黒〟を貴様の肉体が受け入れられるかどうかは……」


 その通りだ。俺の属性は『雷』、既に『加護』(のろい)を受けているのだ。そこに新たな『加護』(のろい)を入れたらどうなるか、俺も『魔帝』にも解らない。最悪の場合は死ぬかもしれない。当然ながらその考えに行き当たる。


 だが……答えは決まっている。


「魔帝、俺に剣を……〝漆黒〟(のろい)をくれよ。どうせこの儘では、奴には勝てない。ならば、まだ希望が有る方へ俺は賭ける!」


 俺は立ち上がり、『魔帝』の目を直視する。その視線を受けた『魔帝』は頷き、剣の持ち手を強く握り締めた。


「迷いは無い様だな……よかろう、貴様の覚悟、しかと受け取った!」


 『魔帝』の身体から、『黒い光』が溢れ出る。それはゆっくりと、その手に握る剣の中に染み込んでいく。それと同時に崩れ行く『魔帝』。最後の力で俺を助けてくれたのだろう。俺の中に感謝の気持ちが溢れ、涙が零れる。その間にも『魔帝』の身体は崩れていった。


「これで、我のすべき事は終わった……ナオト、エレハイム殿を……ちゃんと護れよ……」


 完全に崩れ去った『魔帝』。俺は僅かの間、黙祷を捧げ涙を拭った。


 見ればエリーは『女神』に押され始めている。急がなければ。


 俺は剣の前に立ち、その柄を握った。その瞬間。


「グアアァァァァァ!!!!!」


 俺の口から、苦悶の叫びが上がる。


 俺の身体を蝕む『漆黒』。指先から徐々に上がってくる激痛。俺は剣を握ったまま、のたうち回る。その痛みが肩まで上がった時、俺の身体から『雷』が迸る。属性同士の反発か、その存在を蝕まれている俺の自己防衛行動だろう。肉体と半ば切り離されつつ理性でそう思考する。


 どうやら賭けに失敗したようだ。痛みを余り感じなくなってきた。


 目の前が真っ暗になり、思考が停止しようとした時。


「ナオト! いや……お願い、死なないでぇぇぇぇ!!!」


 エリーの声と、その温もりを感じた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は『魔帝』に頼まれた時間稼ぎをする為、『女神』に突撃する。


 その行動に疑問を持たずに居る自分自身に、少し呆れ、苦笑いをしながら……


「なにを笑っている? 恐怖で頭が侵しく成ったのかい?!」


 再び剣を取り出し、襲ってくる『女神』。思考を切り替え、その攻撃に備える。


「いえ、私は私のままです。貴女こそ〝女神の仮面〟が取れてますよ、〝女神様〟」


 『女神』の斬撃を流し、逸らし、斬り返しながら私は軽口を叩く。


 今の私の役目は時間稼ぎ、全力で戦う事はないのだ。オマケに軽口程度で激昂し、私だけに狙いを定めれば占めたもの。その間に、ナオトと『魔帝』が『女神』を倒す術を考えてくれれば……


 私はそれだけを考え、剣を振るう。後方から聴こえてくる、二人の声を聴きながら。


 暫くすると、声が聴こえ無くなり、何かが崩れる音がする。


 私は後ろを確認したくなる。だが、まだナオト達からの声は掛からない。まだ私の役割は終わってない。私は剣を振るい続けたが……


「グアアァァァァァ!!!!!」


 突如響く苦痛の叫び。私は堪らず振り返る。そんな私の眼に映ったのは……


 突き立った剣を握り、苦悶の叫びを上げのたうち回る……


 ナオトの姿だった。


 ナオトの右手は、指先から『漆黒』に染まっていく……


 そして肩まで染まった時、ナオトの身体から『雷』が迸った。


 私は、もう我慢できずナオトの元に駆け出そうとしたが。


「戦いの最中に余所見かい。随分と馬鹿にしてくれるわね!!!」


 『女神』の斬撃が私を切りつける。腕を切り裂き、血が流れるが痛みを感じない……


 それよりも……


 私をナオトの元へ行かせないこの『女神』(おんな)が憎い!


「邪魔を……するなぁぁぁ!!!」


 私は剣に『白光』を強く付与しながら、水平に振るう。その刃は、『女神』の目元に吸い込まれ……


 顳かみまで食い込んだ。


「‥‥‥!」


 声の無い叫びを上げる『女神』。今まで以上に『白光』の力を注ぎ込んだのだ、直ぐには再生できないだろう。


 私はのたうち回る『女神』を一瞥して、ナオトの元へ駆け寄った。


「ナオト、ナオト確りして!」


 彼に声を掛けるが、反応は無い。私を認識出来ているかも解らない。


 私は、身体を『白光』で包んでから、彼が握り締めている剣を離そうとするが、ビクともしない。まるで接合しているかのようだ。


 それでも離そうと悪戦苦闘していた時、ナオトの身体から迸っていた『雷』が消える。


 それは、もう抗う力も無いという事で……


「ナオト! いや……お願い、死なないでぇぇぇぇ!!!」


 私は堪らず抱きついた。最早彼の身体はその殆どを『漆黒』に染めていた。


 抱きついた事で解る彼の鼓動。それが段々弱くなる……


 それは、ナオトが死ぬという事……


 そんな現実は、私は受け入れられない。


 私は彼の身体に『白光』の力を注ぎこむ。彼を蝕む『漆黒』に抗うために。しかし……


「侵食が、止まらない?!……どうして?!」


 私の力が効いていない。その事に私は絶望を感じ、眼から涙が零れる。


 もう嫌だ、愛した人が死ぬのは……


 その気持ちから、私は力を注ぎ続ける。 


 だが、ナオトの身体は……もう首まで『漆黒』に染まってしまった。


「お願い、ナオト……逝かないで……」


 私は子供のように、彼に泣きついた。そして、思いを訴え続ける……


 もう、それ以外に考えつかないから……


「私、まだ貴方に、ちゃんと〝好き〟って、言ってない……」


 彼の鼓動は、もう殆ど感じない……


「私を、一人に、しないで……」


 脳裏に浮かぶ両親の姿……一人で生きた日々……


 そして、ナオトと過ごした楽しく愛しい日々……


「私……貴方まで居なくなったら、もう、生きていけない……」


 私は、彼に唇を重ねた……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 声が、聞こえる……


 優しく、安心する声だ……


 俺は、この声を知っている気がする……


 俺は、この声をずっと聴いていた気がする……


 この声の人を、愛したのは何時からなのだろう……


「私……貴方まで居なくなったら、もう、生きていけない……」


 でも、その人は今、泣いている……


 俺を想って、泣いている……


「エリーが、泣いている……」


 俺の意識が覚醒する。俺の内で覚醒する。


 暗い闇の中で、俺は現状を確認する。


 ……ナニかがせめぎ合っている。


 それは、闇の中でもなお黒い『漆黒』と、小さな『雷』だった。


 俺は、小さな『雷』と共に、『漆黒』に抗おうと、足を進めようとした時……


 俺を包む、『白光』に気がついた。


 『白光』……それはエリーの属性、エリーの力、エリーの想い……


 エリーを表すモノ(・・・・・・・・)


 唐突に理解する。


 『白光』(これ)はエリー自身なのだと。


 属性とは、その存在を表すモノだと。


 ならば、あの『漆黒』は彼自身……


 エリーを護れと、その総てを俺に託して消えた『魔帝』其の物だと。


 ならば、アレは『屈服』させるモノじゃない。『受け入れる物』なのだ。


 俺はそう考えて、行動を始めた。


 俺はまず、小さな『雷』触れる。


 コレは俺自身、俺の力、俺を表すモノ。


 小さな『雷』は何の抵抗無く、俺と一体化した。


 その瞬間、俺を飲み込む『漆黒』。その侵食に、俺はその身を委ねた。


 そう……『岩崎 直人』は『魔帝』を受け入れる。


 『雷』と『漆黒』は同化し、新たな属性と成る!


 すなわち……


 漆黒を纏いし雷(・・・・・・・)


「〝黒雷〟」


 俺は新たな『属性』の名を、世界に『宣言』した。

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