第五話
朝八時に間に合いました。
それでは、どうぞお楽しみ下さい。
総合PVが5000を突破しました!これも皆々様の御蔭です!
これからもよろしくお願いします!!!
その姿は忘れもしない……
三年前にエリーに『勇者』という『呪い』を与え、俺を『異世界』に『落とした』張本人。
このエルテーニアの『女神』。
「壊れた玩具が、新しい玩具に要らない知識を植え込んで…… 嫉妬かしら、フフ」
壁に激突し、身動き一つしない『魔帝』を見て、その姿がまるで面白いとばかりに笑う『女神』。
その笑顔は、俺にはとても醜悪に見える。
「まあいいわ、記憶なんて簡単に変えられるし…… 今度はどんな風に踊ってもらおうかしら?」
女神が俺達に視線を向ける。まるで出来の良い玩具を見るように。
「女神様……先程から、言っている事が解りません? 〝玩具〟とは、何の事ですか?」
エリーが女神に問いかける。しかし、その表情は血が通っていないかのように青白い……
本当は解っているのだろう。女神の言っている事を、しかし彼女の思考がその考えを否定し、今の問を女神に投げかけたのだろう。
女神は語り出す。その本性を……
「それはね、私が〝加護〟と言う〝呪い〟を掛けたモノ……〝勇者〟も〝魔帝〟も同じ。〝魔王〟も〝英雄〟も全部全部私の玩具。もちろん、〝召喚者〟の貴方もね。そしてこの〝エルテーニア〟は私の〝玩具箱〟。私の玩具達が、私の言葉によって踊りだし、殺し合う。そしてまた、何も知らない者は私に祈る、〝加護〟をお授け下さい、とね!」
壊れたように笑う女神。此奴もまた、自分の言葉に酔っているのだろう。全ては自分の手のひらの上だと、そう言いたいのだ。
「でも、今回は少し失敗。〝魔帝〟と〝勇者〟にそれぞれ〝漆黒〟と〝白光〟なんて〝加護〟を与えたため、私の〝精神汚染〟が効かなかったの。更に〝召喚者〟である貴方には、私の力が効きにくいし……おかげで苦労したわ……どうやって二人を戦わせようかってね」
肩を竦め、首を左右に振る女神。
「そこで最初の契約。〝魔帝〟を倒したら貴方の居た世界への〝穴〟を開けるという。貴方から願ってきて私も助かったわ。オマケにエリーちゃんもその願いに乗ってきてくれたしね」
本当に感謝してるわ、とでも言うかのように頭を下げる女神。その行動に、頭に血が登り斬りかかりそうになる。しかし、まだだと、そう考え拳を握り締め耐える。女神の話は、まだ終っていないのだから。
「まあ、開けるつもりは無かったけどね……せっかく手に入れた玩具を逃がす馬鹿なんて居ないでしょ」
今度は小馬鹿にしたように笑いだした。エリーは信じられないとばかりに聞き返す。
「そんな、女神様! 貴女はナオトと契約したはずです!なのに……」
「エリーちゃん、教えて上げる。〝契約〟はね……破るためにあるのよ!」
それが真理だと言うように、高らかに言い放つ女神。
それを聴き、膝から崩れ落ちるエリー。俺は咄嗟に剣を床に突き刺し、自分の身体を支え、エリーの心配をする。無理もない、自分達が崇める神がこんな『外道』だったのだから……
「さて、そろそろ貴方達の頭を弄りますか。直接弄れば、貴方達も私の思い通りになるでしょう。次はどうしようかな? 二人で殺し合ってみる? それとも……」
「もういい、もう喋るな……貴様の話は虫唾が走る!」
もう駄目だ、もう我慢できない。これ以上、女神の話を聴きたくない!
俺は足に力を込める。女神と戦う為、地を踏み付けろと! しかし、現実はそんなに甘くないようだ。足が震える。これでは戦えない、女神を黙らす事が出来ない。ならば……
俺は『想像』する、『魔力』を『血液』の代わりにする事を……
この世界、エルテーニアの『魔術』や『加護の力』を発動させるには、その『現象』を強く思う事。そして、発動音声を世界に『宣言』する事で、その『現象』が『実行』される。すなわち……
「強化!」
その姿を『想像』出来るのなら、それは『現実』になる!
何かが身体を駆け巡る、そして身体に力が戻る……いや、今まで以上の力を感じる。ふらついた足は凛と立ち、剣を持つ手にも、先程までの重さを感じない。これで俺は女神と戦う事が出来る……
俺は怒りを込め、女神を睨みつける。しかし、女神は俺の『怒気』を受けてもどこ吹く風。そして、言う事を聴かない子供の相手をするかのように俺を見る。
「無駄よ、そんな力じゃ私の相手にならないわ。大人しくしていた方が、痛い目に合わなくていいわよ?」
事実だ。俺一人では戦う事は出来ても勝つ事が出来ない。
だから……俺は彼女を呼ぶ。
「エリー……〝勇者〟として俺と一緒に戦ってくれないか?」
「……」
エリーは答えない。しかし、俺は構わず続ける。
「確かに、君の〝勇者〟としての〝役柄〟は女神に与えられた物だ。でも、君がこの三年間、〝勇者として戦ってきた君自身〟を否定しないでくれ。それは、君を〝勇者〟として信じている人達や、外で戦ってくれた仲間、そして……俺を裏切る行為だ」
「ナオト……」
エリーが俺を見上げる。俺もエリーを見つめる。視線が交わった後、俺は微笑みかけた。三年前のあの時のように。
「大丈夫だよ。三年間、君を見続けた俺が肯定するよ。君は間違えなく、俺が知っている〝勇者様〟だ。そして、今こそ〝勇者様〟が必要なんだ。〝悪い神様〟から〝世界〟を救う為に! だから……」
俺はエリーに手を差し伸べながら、先程の言葉を繰り返した。
「エリー……〝勇者〟として俺と一緒に戦ってくれないか?」
その言葉を聴いたエリーは、一度瞳を閉じ深呼吸すると……
「分かりました……ナオトが〝勇者〟を呼ぶのであれば、私は〝勇者エレハイム〟としてその言葉に答えましょう!」
そう言いながら、エリーは俺の手に自分の手を重ねた。
「ああ、俺に力を貸してくれ!」
頷きながら、手を引き上げる。その勢いに乗って立ち上がったエリーは、俺の横で剣を構える。その姿は正しく、俺の知っている『勇者エレハイム』だった。
「いやいや、お涙頂戴の名場面だったわ。思わずもらい泣きするかと思ったわ」
手を叩きながら、女神が声を掛けてきた。何処までも人を馬鹿にする奴だ。
「でも、傷付いたエリーちゃんでは、私に……」
「黙りなさい……」
「……なんですって?」
「黙りなさいと言いました! 貴女の言葉は私でも虫唾が走ります!」
エリーの言葉を聴いた女神は、その笑顔を無くし……
「良くぞ吠えたわね玩具達……いいわ、少しお仕置きしてあげる!」
その身に宿る力を振り撒き始めた。しかし、既に俺達は動き始めていた。女神を中心に正反対の位置から斬撃を放つ。しかし……
「やはりエリーちゃんの〝白光〟は厄介ね……私の障壁を切り裂き、身体を傷付けるなんて。でも、やはり力不足ね。それでは私の命に届かない」
エリーの属性、『白光』の特性は『どんなモノにも犯せない不変の力』。つまりは、エリーが護りたいと思った『物』や『威力』を、それを損なう『属性』や『魔力』などの理由から防ぐという事だ。もちろん欠点も有る。『白光』自体に防御力は有るが、攻撃力は無いのだ。その為、純粋に剣等の『威力』で戦うしかない。だが、今のエリーは『魔帝』との戦いで疲れている。決定的なダメージを与えられる程の力が出ないのだ。しかも、俺の攻撃は障壁により防がれている。女神も俺の事を無視し、何処からか取り出した剣でエリーの攻撃だけを弾いたり、防いだりしている。
だから、俺は思考を走らせる……いかにエリーの攻撃を、女神の命に届かせるかと……
俺は考えて、現時点で出来る案を実行する。まずは、
「強化!」
再びエリーの肉体を強化する。エリーも俺の意図に気がついたようだ、俺の視線に頷き返す。そして、女神の心の蔵に向け『刺突』を繰り出す!
「無駄なこ……ナニィ?!」
俺はエリーの『刺突』を隠すように、女神の目の前に剣を差し出した。
「油断禁物だぜ、〝女神様〟」
女神の視線を隠したのは一秒未満。その僅かの時間にエリーの『刺突』は女神の胸に到達する。
胸を刺し貫いても俺達は止まらない。剣を女神の胸に残したまま、共に後方に飛ぶ。着地と同時にエリーは魔弓を展開、魔力によって矢を形成する。そして『白光』でその矢をコーティングすると、
「お休みなさい、〝女神様〟」
女神の額にその矢を放った。狙い違わず突き刺さり、女神の頭がその衝撃に仰け反る。
俺達は勝利を確信したが……
「ああ、痛い痛い。思わず死んじゃうかと思った」
女神は仰け反った姿勢を直し、平然と言い放った。
「化け物が……」
「化け物ですね……」
俺達は同時に呟きながら、自分の剣をエリーに渡す。どうせ俺の攻撃では、女神の障壁を破れない。ならばエリーが使い、俺は援護に回った方がマシなのだ。しかし今の攻撃で倒せないとなると、取れる手段はあまり多くない。何より、俺もエリーも肉体の限界が近づいている。動けるのは、多く見積もって十分前後だろう。最後の策は有るには有るが、今の様子から考えれば成功の確率は限りなく低い。
足りないのだ、決定的な『一手』が……
「本当に痛かったのよ……だから……」
女神の雰囲気が変わる。『魔帝』以上の威圧感……いや、明確な殺意を女神から感じる。
「だから……お前達はもう要らない……バラバラに壊して捨ててやる!!!」
女神が力を解放する。胸と頭に刺さっていたエリーの剣と矢は粉々に消し飛び、更には衝撃波が発生し、俺達は吹き飛ばされ壁に激突した。
「先ずは貴様からだ……この私に逆らった事を、悔やみ! 嘆き! そして……死ね!!!!!」
壁に激突した痛みに蹲っていた俺に、女神は力を放つ。
それは光の塊で、現状の俺では避ける事は不可能だった。
それでも必死に、魔力障壁を形成する俺。しかし、瞬く間に破壊された。
俺はそれでも諦めず、生き残る為に足掻いたが、全て徒労に終わった。
そして、その光の塊が俺を飲み込もうとした時、〝漆黒の剣〟が目の前に突き立ち……
その光の塊から、俺を護ってくれた。
俺は視線を上げ〝漆黒の剣〟の持ち主を見る。
そこには、『勇者』の宿敵……この世界の魔物を総べし帝王……
『魔帝』が立っていた。
『白光』の説明が分からなければ、ご連絡下さい。もう少し詳しく説明を書いてみます。
それでは、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。