表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第零章――勇者が嫁になりました――
4/23

第四話

 エリーの後方の壁に、何かが激突する音がする。見ればそれは『魔帝』の剣だった。


 そう、『魔帝』は剣を振り切らず、途中で投げ放っていたのだ。


「なぜ……なぜですか? 私は、貴方の敵なのに……」


 エリーも困惑の表情で後ずさる、『魔帝』の胸に己の剣を残したまま……


 『魔帝』は胸に刺さったままのエリーの剣を掴むと、一気に引き抜いた。


「それは、エレハイム殿が……勇者では無く、一人の人間だったからよ……」


 『魔帝』がエリーの剣を放り投げる、魔帝の間に金属音が鳴り響いた。


「全く、そなたが〝勇者〟では無く、ただ一人の〝人間〟として我を殺しに来たのであれば……我も迷わなっかたのにな……」


 咳き込むように血を吐き出した『魔帝』は、そう言って後ろに倒れ込んだ。それと同時に、俺の周りに居た『生きた屍騎士』(アンデッド・ナイト)が土塊のように崩れ落ちた。まるで……役目は終わったとばかりに……


「終わった、のか? 俺達は……勝てたのか?」


 俺も思わずそう呟いた。それと同時に身体の力が抜け、膝を付いてしまう。自分の身体を見れば、かなりの傷と出血量だ。


「ナオト、大丈夫ですか?」


 エリーは『魔帝』が放り投げた自分の剣を拾うと、『魔帝』に注意を向けながら俺の元へ近づいてきた。俺は「大丈夫だ」と返事を返すと、周囲の警戒をエリー任せ自分の治療をする。大きな傷には即効性のある『治癒魔術』を、小さな傷には血止め効果のある薬を塗り込み包帯を巻く。あらかたの治療を終え、周囲に気を配れば外から歓声が聞こえてくる。城の周辺に居た『生きた屍騎士』(アンデッド・ナイト)も消え去ったのだろう。


 俺は少しの安堵を感じ、そして驚く。エリー以外にも、その存在に『執着』する者達がいた事に。しかし……


 (それも、悪くない……)


 俺はそう思い、少し笑った。エリーが「どうかしたのですか?」と声をかけてきたが、「なんでもない」と返事をしながら立ち上がる。しかし足に力が入らずふらついてしまった。血を多く流したのもあるが、安堵したせいで身体の緊張が取れてしまったのだろう。それを見たエリーは、すぐに脇から手を回し支えてくれる。顔を俺に向け微笑みながら。


 (やれやれ、助けるどころか支えれてばかりだな。文字通り)


 情けないと思いながら、『魔帝』に視線を送る。胸が上下している、まだ生きているようだ。まだ油断するのは早いと、剣を持つ手と足に力を入れる。が、それでもやはり一人では上手く歩けず、結局エリーに支えてもらいながら、『魔帝』の所まで足を進めた。俺達の疑問に答えてもらう為に。


 近づくと『魔帝』も俺達に気付いたようだ、顔を此方に向ける。


「魔帝、答えろ。先の言葉はどういうことだ?」


 俺は疑問を問いかける。『魔帝』は深く息をすると語り始めた。


「そのままの意味だ。エレハイム殿が今まで挑んできた英雄達のように、誰かに煽てられ更なる名声と己の欲望の為、我を殺しに来たのであれば……即刻切り捨てていただろう」


 『魔帝』の胸からは未だ血が溢れ出ている。しかし、その言葉から苦しみを感じられない。


 それが『魔帝』としての意地なのか、それとも、もう痛みや苦しみを感じないのか……俺達には解らない。


「だが、エレハイム殿は違った。全ては貴様の為、貴様の願いを叶えたい、その為には自らの犠牲も厭わないという〝自己犠牲〟の精神で我と戦い続けた。」


 そう、エリーの戦う理由……それは俺の為、俺が『女神』と交わした『契約』を叶える為なのだ。それに対して俺は……


「それだけではない。貴様もだ」


「え?」


 『魔帝』の言った事に戸惑いの声を上げる俺。


「己の願いを叶えてもらうとはいえ、一体何人の者が他人の為に、その身を犠牲に出来る?少なくとも、我に戦いを挑んだ英雄達にはそのような者は居なかった」


 俺はもう一度自分の身体を見る。ボロボロの傷だらけ、見るも無残な姿とはこの事だろう。


「それに我とエリー殿との戦い。その姿を見た時、貴様はどうした?全てを振り払い、エリー殿の元へ駆け付けようとしただろう」


 確かに……あの時俺は、只々エリーの援護をしようと、それしか考えてなかった。『魔帝』に俺の攻撃は効かないと、知っているのにも関わらず。そんな事は、少しも頭に浮かばなかった。


「それだけの事をすれば解る。貴様も愛しているのだろう?エレハイム殿を……」


 まるで笑っているような……いや、これは絶対笑っているな!


 横に成りながらも、肩を揺する『魔帝』。そしてその言葉を聴いて、顔をリンゴのように赤く染めるエリー。先程までの、殺伐とした雰囲気はもう欠片も残ってない。しかし……


(こんな感じの方が俺達らしい……)


 そんな風に思い、苦笑いを浮かべる俺。しかし、そんな雰囲気は『魔帝』の咳き込むように血を吐き出す事により霧散する。エリーは咄嗟に服の袖を破り血止めをしようとするが、『魔帝』はそれを止める。もう分かっているのだろう、己が助からない事を……


 そして『魔帝』は再び語り始めた。


「そんな貴様達だから、我は相応しいと思ったのだ。〝魔帝〟を倒した者として」


「私達が、ですか?」


 俺達は困惑する。俺達は、自分達を出来た人間と思っていない。簡単に言えば、自分の願いを叶える為に、俺達は『魔帝』を倒したのだ。そんな俺達を『魔帝』は、自分を倒すのに相応しいと認めたのだ。困惑するのも当然と思う。


 考え続ける俺達に、『魔帝』は声をかける。


「話を続けるぞ。欲望に駆られた英雄に我が倒されれば、次にその欲望は何処に行く? 多方、英雄達を煽てた人間の言う通りに、目障りな国や、人々を襲うだろう。それこそ〝英雄〟の名の下にな」


 ……少なくとも、俺には否定出来ない。人間とは、欲望に忠実な生き物だから……


「しかし貴様達は違う。貴様達の欲望は、その殆どがお互いに向いている。他の人や物には一切興味が無いと言わんばかりにな」


 事実だ、少なくとも俺が『執着』するのはエリーだけだ。いや、『執着』する人や、物が他に無い訳じゃ無い。しかしエリーほど大事な事じゃない。それらとエリー、どちらか選べと言われたら、俺は迷わずエリーを選べる。そう断言できる。


「だからなのだ、エルテーニアにこれ以上の戦乱を起こさぬ者として……〝魔帝〟を滅ぼした者としてな……クク、戦乱を起こした〝魔帝〟がいう事ではないな……」


「ならば、ならば何故!? 〝魔王〟を全て倒した後……人々に戦いを挑んだのですか!? そのせいで、私の両親は……」


 エリーは涙を流していた。俺には、涙を拭い、肩を抱いてやる事しか出来ない。それはもう、起きてしまった事なのだから。


「あの戦いは人々が起こした事……我の話を聞かず、そして我が力を恐れ、我を殺そうとしてな……だから我は反撃した、我が力を示し、我に挑む事が無意味だと分からせ、戦いを辞めさせようとしたのだ。しかし結果はコレだ、犠牲になるのは兵士や、平民……貴族や、王族は民の犠牲をなんとも思わずにいる。そして、我の元に来るのは、〝停戦の使者〟では無く、我を殺す為に〝英雄〟と煽てられてくる愚か者ども……我は絶望しかけていたのだ、〝人間〟という者たちに……だから全てを滅ぼそうと、そう考え始めた時だ、貴様達が此処にたどり着いたのは……」


 『魔帝』の息遣いが少しずつ小さくなっていく……もう余り長くないのだろう。


「貴様達や、外に居るような者達がまだ居るのであれば……エルテーニアはいつか平和になるだろうと、我は信じる事にしたのだ……惜しむらくは、エレハイム殿が〝勇者〟である事……我を倒すという使命は果たしたが、〝勇者〟という〝呪い〟は残るのだ。それを求め、悪意ある者達が群がるだろう……そして、あの〝女〟も……しかし、我にはエレハイム殿を護る事は出来ない……それだけが心残りだ……貴様、名は?」


 『魔帝』は俺を見る、俺も『魔帝』を見返し、名を告げる。


「ナオト……岩崎 直人(イワサキ・ナオト)だ」


 『魔帝』は俺の言葉に頷き……


「そうか……ナオトよ、頼みがある……この世界に残りエレハイム殿を護ってくれ……」


 俺の隣で息を呑むエリー、俺が『魔帝』に返事をする前にエリーがまくし立てる。


「待って下さい! ナオトは元の世界に帰るのです! 私の為にこの世界に残すなんて……そんなのは間違ってます!!!」


「そうだ、これは我の身勝手な願いだ。しかし、貴様にしか託せないのだ! だから頼む、エレハイム殿を……護ってくれ……」


 それは、エルテーニアで『魔帝』と恐れられた者が、その『宿敵』の身を案じ願った純粋な思い。


 ならば、ならば俺もその問いに誠意を持って答えよう。


 俺の答えなど、とうの昔に出ているのだから……


「魔帝、俺は……」


 俺が答える前に、『魔帝』の姿が目の前から消える。そして響く轟音。


 音のした方に視線を走らせれば、壁に激突している『魔帝』。


「それ以上喋るな……私の玩具にいらん知恵を吹き込むな……」


 その声に振り返れば、三年前にエリーを『勇者』にし、俺を『召喚』した……


「久しぶり、元気だった?私の可愛い玩具達……」


 女神が立っていた。

 

ご意見・ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ