第三話
今回はエリー視点です。
少し昔の話をしましょう。
私の名前は、エレハイム。十八歳です。『エルテーニア』に多い金髪緑眼です。
三年前のある日、女神様の神託により『勇者』に成りました。
私の両親は、父が兵士で、母は薬師でした。しかし、『魔帝』の尖兵である『生きる屍騎士』が私達の住む『宗教国家エルテミス』に襲って来た日、私の両親は亡くなりました。父は前線で戦い、母は『従軍薬師』として父に付いて行き、殺されました。それからの私は、無気力になり、両親の残してくれた遺産を食い潰しながら日々を生きていました。
そんな時です。女神様が『加護』を与え『勇者』したのは……
なんの感情も抱きませんでした。『勇者』として戦い、死のうとも……私の事を悲しんでくれる人はもう居ないのです。
そう考えていた時です。女神様があの人『召喚』したのは……
私は言われるがまま教皇様に付いて行き……
そこで、『必死に生き足掻く』彼を見つけました。
兵士達が放つ『攻撃魔法』のその僅かな間を見つけ、身体を滑り込まし次の『攻撃魔法』に備える。その姿に……
私の鼓動がトクンと弾みました。
その後、教皇様に助け出された後、彼は私を見て数秒呆けた顔をした後……
その頬を赤く染めながら……私に微笑みかけてくれました。
思えばこの時なのでしょう……
私が彼に『恋』をしたのは……
その後王様への謁見中なのに、私の頭の中は彼の事で一杯でした。王様も自分の演説に酔っておりますし、彼の横顔を見ても罰は当たらないだろうと思い彼の方を見てみると……
彼も私を見つめていました。
私は先程の彼のように微笑みかけました。すると彼も微笑み返してきました。……なんだか胸がドキドキします。
そして私達は、『王様』の演説が終わるまで微笑んだり微笑み返したりを繰り返していました。
その次は『女神教会』の総本山に移動しました。女神様から彼に状況説明するそうです。
彼は女神様にお会いした時とても困惑していました。後から彼に聞いた話だと、彼の世界では神様にお会い出来ないそうです。『エルテーニア』では、信託を与える為に神様が顕現する事がある為、彼の話はとても不思議に思います。
彼と女神様のお話は続いています。私は彼の顔を見ながら話を聞いています。そんな時です。
「貴方を召喚したのは……あちらの世界に未練が余り無い為」
女神様がそう言いました。どういう事でしょう?
「自身の命も含めて貴方は執着する物がない。夢は有るみたいだけど、それも叶えばいいなぐらいにしか考えてないでしょ。だから貴方を〝召喚〟したの」
つまりは、女神様は無断で彼を『召喚』したと……ただ自分達に都合が良かったと…女神様はそう言っているのです。
私は……生まれて初めて、女神様に怒りを覚えました。
こちらの都合で彼の人生を歪め、平然としている女神様に私は自分を抑えられません。そう思い、腰を椅子から浮かしかけた時……彼の視線に気付きました。
彼は私に微笑みかけています。自分は大丈夫だよ、と私に微笑みかけていました。
私は困惑しつつも椅子に座り直します。そして彼は話を続けます。彼の戦う条件は「『魔帝』を討伐出来たら、帰る、帰らないに関係なく一度俺の世界への穴を開けてくれ」でした。女神様は私にも聞いてきます。
私は考えます。どうすれば彼の為になるのかと……
私の条件は彼の願いを叶えてもらう事。
元々、私に望みはありません。ならば、彼が望む事を叶えて欲しい。そう考えたのです。
そして女神様がお帰りになられた後、私は彼の名前を知りました。
この時、私は自分自身に誓いました。
『私は最後まで、ナオトの為に戦う』
これが私の戦う理由……私はナオト為なら戦える、その思いから私は『勇者』として戦うと決めました。
次の日から私達の訓練は始まりました。ナオトと一緒の剣技の訓練を受けたり、私には魔術の『才能』が無い為、弓術の訓練を受けたり、またナオトはこの世界の事を知らない為教えたりしました。
それから二年後には、私達はエルテミスを出発しました。もちろんすぐ『魔帝』の城に辿り着くはずもありません。私達の道中にも様々な事がおきました。
獣人達の街を『魔帝軍』から開放する為、獣人の戦士達と共に戦ったり……
エルフの人を助けた時、黒髪黒眼のナオトの容姿を『魔帝軍』の兵士と勘違いされ、エルフの人々に追いかけ回されたり…
ナオトが間違って竜王様の尻尾を踏んでしまい、激昂した竜王様と戦ったり……
……フフ、今思い出しても笑いがこみ上げてきます。
私は常々思います。旅は楽しい……いえ、違いますね……
ナオトと一緒の旅は楽しいと。
しかしそれも終わる時が来ました。『魔帝』の城に辿り着いたのです。城を囲むように群がる『生きる屍騎士』、そして城の中から感じる強力な威圧感。間違えなく『魔帝』の物でしょう。
ですが、私達も二人だけではありません。人間、獣人、エルフの戦士の方々や、竜王様も駆けつけて来れました。そして私達に言うのです。「外は任せろ。お前達は魔帝を倒せ!」と。
そうして道を切り開いて行きます。私達の為に…
私達は走ります。この場に集まった方々の為、少しでも早く『魔帝』を倒す為に。
もちろん城の中にも『生きる屍騎士』は居ます。そして今度はナオトが道を切り開きます。時にはその身体を私を護る盾として、傷付きながら道を開きます。
「行けエリー! 此処は俺が防ぐ!! 行って魔帝を倒せ!!!」
なんとか魔帝の間にたどり着いた私達。ナオトは私の背を押し、そして追ってくる『生きる屍騎士』達に振り向きざまに魔法を放ち、私を激励しました。
「はい、必ず! だから、だからナオトも死なないで……」
そう返事をして、私は『魔帝』の間を進みます。後ろにナオトの戦う音を聞きながら…
そして玉座に座る『魔帝』の元にたどり着きます。
「ようこそ、勇者……我が名は魔帝! 魔物を総べし帝王だ!!! さあ、殺し合おう! 己の全てを賭け、相手の全てを奪う為に!!!」
『魔帝』は玉座から立ち上がります。剣を持ち、威圧感を更に放ちます。
「はい! 私も全てを賭け、貴方を倒します! ……魔帝!覚悟!!!」
私も剣を構え、『魔帝』に挑みます。
幾度となく剣を打ち付け合い、火花を散らし、そして時に相手の身体を傷付け合います。しかし致命傷には成りません。私は斬撃を受け流し後バックステップで距離を取り、剣を右手で持ち左手で後ろ腰に括りつけてある折りたたみ式の魔弓を取り出します。展開後、『白光』の力を魔力で作った矢に纏わせ何矢も放ちます。しかし『魔帝』はその剣技により矢を打ち払いながら距離を詰めます。そして再び、剣の打ち付け合いを始めます。そんな戦いを繰り返した後……
「強化!」
ナオトの魔法が私を包みます。見れば彼は門を越え、私の援護をしようしますが、しかし何処からともなく湧いてくる『生きる屍騎士』の群れに阻まれていました。『生きる屍騎士』も私には一切攻撃をせず、ただナオトに群がります。
もうナオトの身体は傷だらけ、これ以上の出血は命に関わります。
だから私は、ナオトに微笑みかけ…
「魔帝…そろそろ決着を着けましょう」
『魔帝』に最後の勝負を挑みます。次の一撃で全てを終わりにしようと……
再び距離を離し剣を構える私。しかし『魔帝』は……
「勇者……一つ答えろ、なぜ戦う?」
と疑問を放ち、構えを解きます。
聞けば『魔帝』は平民の私が命懸けで戦う理由が解らないそうです。
だから私は答えます。
『勇者』としての建前では無く……
一人の女として……
愛する人の願いを叶える為にと!
そう『魔帝』に微笑みながら答えました。
『魔帝』どう思ったか解りませんが、『魔帝』は剣を振り上げ爆発的な剣気を振りまきながら、私の名前を問いました。私の仕掛けた勝負に乗ってくれるみたいです。
私も剣を顔の右側面に構え剣気を開放しながら自分の名前を答えます。少しばかりの感謝の念を込めて。
『魔帝』の一撃はおそらく全力の『振り下ろし』……
対する私は全力の『刺突』、狙うは心の蔵のただ一点!
私と『魔帝』は同時に動き出し、攻撃を繰り出します。
剣先が『魔帝』の胸に突き刺さる前に、私はそっと呟きました。
「どうか、どうかナオトの願いが叶いますように……」
私の言葉と共に、剣は『魔帝』の胸を貫きました。
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