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俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第一章――勇者は既に人妻です――
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第十三話

遅くなりました。

「来たか」


 川べりにある木の枝、その上で息を殺して獲物を待っていた俺は、一匹の猪が現れたを見てそう呟いた。


 生きていく為には水が必要。その為に、川辺は狩る者にとっては絶好の狩場だ。


 猪は辺りを警戒しながらも、川に近づいていく。それに合わせ、俺は何も持っていない右腕を振り上げる。


 想像(イメージ)するのは『柄の無いナイフ』、力は最小限、獲物が動けなくなる程度でいい。


雷刃(ライトニングエッジ)


 属性攻撃発動音声(トリガーボイス)と共に、右腕を振り下ろす。獲物に向かって飛ぶのは『雷の刃』。貫通力を持ち、肉体の内部に突き刺さり、少ない力で大きなダメージを与えるために開発した新技だ。


 雷刃は猪の背に突き刺さり、感電音が鳴る。悲鳴を上げる事も無く、猪は倒れた。


 俺は木から飛び降り、生きてはいるが痙攣して動けない猪に近づくと、止めと血塗きの為にその首を深く切り裂く。血の匂いに寄って来る肉食獣に注意しながら血が抜けるのを待ち、血が止まると、俺は猪を担ぎ家に向かって歩き出した。


 本日の狩り、無事に終了。





 此処に隠れ住んで約一年ぐらい立った。もうすっかり狩りにも慣れ、本日の獲物の毛皮を持ち、俺は納屋向かっていた。


 そして、納屋の扉を開けた俺は、


「……むぅ」


 納屋の現状を見て、唸ってしまった。


 ゴチャ……


 一言で表すなら正に其れである。毛皮、皮、牙などなど様々な素材が積み上がっている。そろそろどうにかしなければ、収集がつかなくなりそうだ。


「はてさて、どうするか?」


 と腕を組みながら考えるが、所詮俺一人で良い案が出る訳も無い。


「やはり義母さんに相談するべきか」


 そう呟き、手に持っていた毛皮を適当に納屋に放り投げ、踵を返すのだった。






「そうかい……丁度いいのかも、ね」


 お茶を片手に俺の相談を聞き、思案顔のヘレン義母さん。


「此処に隠れて約一年、そろそろ王都に様子を探りに行くべきか、と考えていたのさ」


 俺とエリーの顔を見て、語りだした。


「お前達はまだ若い、それがこんな所で死ぬまで隠れて生きていくのは良くない。だから、先ずはエルテミス(相手)の近状を知ろうと考えていたのさ」


 と教えてくれた。


 確かに、此処で死ぬまで暮らすのは……つまらない、と思う。特に別世界(他所)から来た俺はそうだと思う。違う場所の情報などが安易に解らないこの世界。ならば自分の目で観て、耳で聞き、身体で感じてみたい。何より、今は其れを一緒に分かち合いたいと思う人も居る。


「そう……ですね。そろそろ、行動を起こすには良いかもしれません」


 そう言いつつ、エリーを見る。彼女も同じ気持ちの様で、微笑みながら頷いていた。


「しかし、自分達がエルテミスに入るのは難しいと思います。特に俺は……」


 行動を起こすと決めたなら、次はその方法だと話し始める。が、ソレには幾つか問題も有った。その最たるものは、俺の髪と眼の色だろう。


 黒髪黒眼は、居ない事はないが珍しい部類だ。先ず間違えなく、兵士の眼に留まるだろう。そうなってしまえば情報収集など出来はしないだろう。


「最悪、髪は何とか出来ると思いますが……眼は、ちょっと……」


 密かに髪の問題、つまりは坊主にする事の決意をしながら話を進める。だが、


「ふっふっふっ、私がこの一年、何もしなかったと思うのかい?」


 その言葉を聞いて、思い出すこの一年の記憶。その主な義母さんは……


「ええっと、俺に不気味な薬物を喜々として投与していたような……」


 瞬間、俺の頭に迫る義母さんの拳。間一髪、受け止めることに成功した。


「〝強くなりたい〟という息子(ナオト)の為に、涙を飲んでその苦行にに耐えていた母親に何てことを言うんだい!」


 俺に振り下ろした拳に力を込めながら、そう宣う母親。しかし、俺に投薬していた時の義母さんは黒い笑みを浮かべ「成功すればお前の身体の強度は倍になる~」とか「私は天才だ~」とか言っていたような……


「そういえば、途中から俺に薬を飲ます人が二人になったような……」


 チラリとエリーの方を見れば、露骨に視線を逸らす嫁の姿が。


「……仕方が無かったんです。投薬(アレ)しか方法が無かったんです」


 小声でそう言うエリー。


 まあ、確かにあの薬の御蔭で、俺の身体は丈夫に成ったし、簡単に疲れなくもなった。文句を言うのは筋違いだろう。しかし、


「もう少し、飲みやすくして欲しかった……」


 その味を思い出し、口の中が不味くなる。出来れば二度と飲みたくない。


「兎に角、この一年私もナオトで遊んでいた訳じゃない! しっかり魔術師としても頑張っていたさ!」


 ニヤリとした笑顔でヘレン義母さんが告げる。……義母さん、俺で遊んでいたんですか? そしてその笑い方じゃまるで魔女です。あ、似たようなものか。


「ナオト、これから私が新たに考えた〝魔術〟を教えるからキリキリ覚えな!!」


 どうやら考えていた事を読まれた様で、俺に愛のムチ(げんこつ)をしながらヘレン義母さんは言ったのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「確認しました、どうぞお通りください」


 そう言われ、呆気なくエルテミスの門は開いた。最悪、直様戦う事になるかもと覚悟していた俺とエリーは、揃って顔を見合わせ微苦笑した。


「すんなり通れたな」


「一戦ぐらい、覚悟していたのですが」


 しかし、そこに見慣れたエリーの姿はない。隣に居るエリーは栗色の髪(・・・・)とび色の瞳(・・・・・)に成っていた。ちなみに言えば、俺も黒髪黒眼では無く金髪緑眼に成っている筈である。


 これが義母さんが考えた秘策、変化の魔術である。


 勇者(エリー)が金髪緑眼、召喚者()が黒髪黒眼で有る事は、追う者(兵士)にとっては良い目印だ。


 なら髪や眼の色を変えればいい、と思うのは現代から来た俺だけだ。何故か、それは頭髪や眼の色を変えるという概念が無いからだ。そこまでのオシャレ(贅沢)をするまで、この世界は発展していない。故に髪の色を隠したいなら、剃るか、布を巻くしかない。が、それはそれで目立つ。つまりは手詰まりなのだが、義母さんは前に話した俺の住んでいた世界の話、髪の色を染毛剤()で、眼の色を道具(カラーコンタクト)で変える人もいる。と言う話から、魔術によって色を変えるという事を思いついたのだ。


 そうして完成したこの魔術、結果はご覧の通り中に入る事が出来た。


 中に入った俺達は、先ずは大通りを何気ない様子で歩く。


 一年前は笑顔に溢れ、魔帝の恐怖から解放された人々が声を張り上げ様々な品を売っていた通りは、今は寒々としていた。そして、そこに居る人達の雰囲気は、


「……暗い、な」


 笑顔など欠片もない。魔帝討伐後に、此処に来た時とは全然違う。まるで、辛い何かを耐えてる様だ。そして店は軒並み値上がりし、数が少なくなっている食糧。


「なんなんだ? また何か強い魔物や何かが現れたのか?」


 エルテミスの王に追われる身である俺も、今のエルテミスの状況に戸惑う。エリーも驚いているようだが、その視線は周りを探っていた。


「……私は、若者が居ない事も気になります」


 エリーの言った事に、俺も視線を走らせる。居ない、俺達ぐらいの年齢の人など本当に居ない。


 若者とは、働き手。もっと言ってしまえば、国を動かし、支えるものだ。それが大通りに一人も居ないなんてことはあり得ないはずだ。


「いったい、エルテミス(この国)に何があったんだ?」


 疑問を口にしつつも歩き続ける。更に広場、宿屋なども行ってみるが何処も同じ感じだった。




「この儘歩き続けても、何も解らないと思います」


 休憩も兼ねて、たまたま眼に付いた飯屋に入った。軽い食事をしながら、今までの事とこの先の事を話し合う。


 確かに、これ以上の事は今のままでは解らないだろう。しかも、何時までも若者(俺達)が街中をふらふら歩き回っていれば、今のエルテミスでは目立つだろう。


「……確かに、このまま歩き続けては目立つしね」


 俺の言葉に、エリーが頷く。流石にまだ、俺達を尾行するような者は居ない。が、何時付くとも解らない。


 さて、どうする? 今現在、エルテミス(此処)に知り合いなんて数少ない。その中で、旅の若者(俺達)が入っても怪しくないとなると……


 脳裏に浮かんだのは、ドワーフとエルフの夫婦。昔、エリー共々お世話になった人達だ。あの人達なら、力になってくれるはずだ。


 俺は一つ頷くと、エリーに話す。


「エリー、いつもの鍛冶屋に行こう」




ちなみに、投薬中のナオトのセリフは「やめろ! シXXカー!!」


ネタです。


こんなおチビですが、今後もよろしくお願いします。


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