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俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第一章――勇者は既に人妻です――
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第十二話

お待たせしました、ようやく投稿です。

 森での『狩り』は、現代人であった俺には難しいモノだ。都会に住み、スーパー等で食材を得ていた俺には、獣道の発見、『獲物』の習性、気配の消し方等々解る訳もない。しかし、出来ませんと言って投げ出す事はそのまま食事抜きになる『エルテーニア』。投げ出す訳にはいかなかった。しかし、気合だけで『狩り』が出来るはずもなく……一日中森で『獲物』を追い掛け回し、それでも何も取れなかった俺は、意気消沈と家に帰った。


 だが、俺には心強い勇者()が居た。


 ガックリと項垂れた俺の姿を見た(エリー)は俺を慰めた後、「ちょっとそこまで」なノリで弓矢片手に森に消えていった。それから約二時間後、野鳥や茸類を持ち、エリーは悠々と帰ってきた。俺はその戦果に驚き、喜んだ。しかし、時間が経ち冷静な思考を取り戻した俺は、恐ろしき真実に気が付いた。


 嫁に養われる夫……


 ―――――あれ、これじゃ俺……『ヒモ』じゃね?


「そんなの嫌だぁーーーー!」


 絶叫を上げ、両手で頭を抱え蹲る俺。その姿を見て、オロオロとするエリー。「またイチャイチャしやがって」とため息を付くヘレン義母さん。……ある意味、我が家は平和だった。


 翌日、まるで戦場に向かうような顔をした俺は、朝食を食べ終わると直様森に突入。穴を掘り、簡単な罠を作ると、『獲物』を追いかけ始めた。そして、


「グルルルルルル!」


「勘弁しろよ……」


 ある日(今日)、森の中、(餓えた)熊さんに、出会った(エンカウント)





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 傷がある程度癒え、痛みも無くなってから数日立ったある日、


「むぅ……」


 俺は椅子に座って唸っていた。


 する事が無い、それは以外に辛い。いや、正確に言えば「何をしたらいいか、解らない」だ。


 お薬事件から数日、動くなら最早問題ない俺は、いささか手持ち無沙汰だった。故に、椅子に座ってお茶を飲んでいるのだが、


「よいしょっと」


 目の前で家事に勤しんでいるエリーを見れば、なんとなく気まずい。無論、最初は手伝おうとした。だが、


「大丈夫ですよ。それに、私は家事(コレ)に幸せを感じているのですから」


 と微笑みながら言われれば、何も言えない。かと言って、椅子にふんぞり返っているのは俺の性に合わない。その葛藤の為に、先程から唸っているのだ。


「何をすれば良いのか解らない……って顔だねぇ」


 俺と一緒にお茶を飲んでいたヘレン義母さんが、苦笑いしながら声を掛けてきた。


「ええ、エリーに全てを任せてしまうのは……」


「それは別に悪い事じゃ無いさ、エリーが喜んでいるならね」


 そう言って、視線をエリーに向ける。相変わらず、鼻歌交じりに家事に勤しむエリー。


「出来た〝嫁〟だよ、まったく。大事にしてやんな」


「ええ、勿論」


 そこで俺は姿勢を正して、


「だから俺に出来る事を! 〝攻撃魔術〟を教えて下さい!!」


「無駄」


 一言で切り捨てられた。


 ヘレン義母さんも姿勢を正し、


「いいかい? 何も意地悪で教えない訳じゃ無い。お前に必要なのは、〝強化〟、〝防御〟、〝治癒〟それと生活で使えそうな〝生活魔術〟これぐらいさ。〝攻撃魔術〟なんて、〝加護・雷〟を持つお前には無駄でしかない……そして」


 そこでお茶飲み、


「例え〝加護・雷〟が効かなくとも、お前には文字通り〝切り札〟(黒雷)が有る。エリーの〝白光〟と正に正反対……〝攻撃特化〟のね。その上まだ〝力〟が欲しいと宣うのかい?」


 遇の音も出ない。


「そもそも〝魔術〟なんて、言ってみれば〝加護の模倣品〟だよ。〝女神〟が与える〝加護〟(呪い)を人が真似た代物さ。だからそんな〝攻撃魔術〟(模倣品)を覚える暇が有るなら、身体を鍛えるなり、『属性技術』を考えるなり、薪割りするなりしな!」


 ここまで言われてしまっては、何も言えない。渋々俺は、


「はい……」


 庭に薪割りをしに行くのであった。






 パカーン、パカーン……


 テンポよく丸太を切断していく。切断された『薪』が小山になったところで、手を止め汗を拭う。視線は『薪』の小山に向けたままだ。


 そういえば、最初は薪割りも出来なかったな……と少し昔の事を思い出す。上手く薪割りが出来ず、薪割り斧に『属性付与』をして、エリーに怒られたのもいい思い出だ。


 そこで視線を、薪を切断していた得物に向ける。そこには『薪割り斧』では無く、『魔帝の剣』が有るのだが……


「許せ、〝魔帝の剣〟(相棒)…… 俺は〝薪割り斧〟とは、相性が合わなかったんだ」


 なんとなく、その黒い刀身の向こうで『魔帝』が睨んでいた気がしたので、言い訳を並べる。そんな時、


「お疲れ様です、ナオト」


 エリーが庭にやって来た。


「どうぞ、飲んで下さい」


 そう言って、持っていたコップを渡してくる。一瞬、例のアレが頭を掠めるが、コップの中身が水であることが解り素直に受け取る。


「ありがとう、エリー」


 受け取った水を喉に流し込む、冷たい水が身体に染み込むようだ。


「随分割ましたね、しばらくは薪割りは必要ないですね」


 今割った分と、前から割ってあった物を見てそう判断するエリー。「んー」と、顎に指を当て何かを考え始めた。


「ではでは、そろそろ〝狩り〟を覚えてみますか?」


 ポンっと手を叩き、提案してきた。


「いや、〝覚える〟って……」


 そう、俺は既に『魔獣』を狩っている。


 『魔獣』。ファンタジーに定番の生き物。色々な定義が有るが、この世界の定義は、魔力を持った獣だ。理性なく『魔力』を使い、人を襲う『野獣』。総じて『魔獣』だ。


 ちなみに、魔力を持った理性ある生き物を『魔族』と言うが、その認識は人其々だ。 


 オマケに『魔獣』は、『魔力』を持つ自分とは別の生き物を好む。故に、旅をしていた俺達もよく『魔獣』に襲われた。


 そして、『魔獣』の身体は高く売れるのだ。『武器』や『防具』の素材として。故に、それらは俺達の旅の収入源だった。


 その事をエリーに言ったのだが、彼女は首を振り、


「違います。今から狩るのは、唯の〝獣〟。夕食の為に野鳥や兎などを狩りに行くです」


 と説明した。そして、


「それに、〝魔獣〟と違って〝獣〟を狩るのは難しいのですよ」


 と意味深げに言ったのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 そして今に戻るのだが……


 現在、俺は


「熊なんて要るかぁーー!!」


 と宣いながら逃亡中。


 三人で暮らしているのに、熊は大きすぎる。街に売りに行くにしても、俺達はお尋ね者。正しく『ネギしょったカモ』だ。


 しかし、飢えている熊には、此方の事情など関係無い様だ。


「ガアァァァーー!」


 咆哮しながら俺を追ってくる、鬼気迫る勢いだ。しかも、段々と距離が縮まっている。追いつかれるのも時間の問題だ。


「……仕方ない、か」


 丁度木々の切れ目、戦うのに適した場所だろう。俺は覚悟を決めて反転しながら、背負っていた『魔帝の剣』を抜き放った。




 圧倒的な力を持った手が、俺の頭上を通り過ぎる。当たれば即死、掠めても大怪我だ。


 屈んでソレを避けた俺は、立ち上がりながら剣を斬り上げる。腹から胸へと、紅い線が出来るがそれだけだ。舌打ちしながら後ろに飛び、距離を取る。


 互いに距離を取り、呼吸を整えながら俺も相手を観察する。牙を剥き出し、唸り声を上げ、怒りに燃える目で俺を見つめている。その身体には無数の傷、だが致命的な傷は一つもない。


 『生物』としての差がまさかこれ程とは……


 やっぱり逃げるか、と考えが浮かぶが、もう相手が逃がしてはくれないだろう。それに、俺と熊との戦闘によって、周りには他の『獣』の影も形もない。逃げ切って他の獲物を狩るのは無理だろう。


 ならば、目の前の獲物()を狩る事に全力を尽くそう。


 深く息を吐き、


強化(ブースト)


 『魔術』を発動させる。『強化』という指向性を持たされた『魔力』が、身体を駆け巡る。身体の細胞が『魔力』という栄養を得て、通常以上に力を、強度を、速さを発揮する。


「悪いな、俺は〝(お前)〟に食われる訳にはいかないんだ。家で、心配性で過保護の妻と、口が悪いが優しいの義母が待っているんだ」


 持っている『魔帝の剣』を振るう。先程までの重さが、今では羽のようだ。


「……だから、〝魔術〟(卑怯)を手を使わせてもらう!」


 空いた距離を瞬時に詰める。だが、相手も野生の感か、俺の速度に合わせその両手を振るう。俺は身体を屈め、片手を躱し、もう一方を斬り飛ばす。


 そして、痛みに思わず下げた相手の頭を斬り割った。


 軽い地響きをたて、倒れる『熊』。広がる血が、致命傷である事を知らしめる。


「……勝った、か」


 命の危機が去り、初めての『獲物』を得た事の満足感がこみ上げる。まあ、少し……大きいがそこは目を瞑ろう。


 それからしばし黙祷し、さて帰ろうとした俺は、右を見て、左を見て、


「……何処だ、此処?」


 自分が迷子である事に気が付いた。



 ズルズルズル……


「重い……疲れた……〝魔力〟が尽きる……」


 時は夕暮れどき、俺は熊を引き摺りながら今だ森を彷徨っていた。熊の巨体を解体しようにも仕方が解らず、さりとてそんな巨体を『強化』無しで運べる訳もなく、俺は疲労の極致である。


「取り敢えず、来た道を戻ればいいんだ……」


 ヘロヘロになりながら、俺は来たと思われる道を引き返すのであった。






 余談だが、家に着いたのは夜になってしまい、嫁と義母に怒られたのであった。

あれだけ皆様を待たせて、話は先に進んでません。


次話からは先に進めます。


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