第六話
お待たせして申し訳ありません。
「ウオオオッ!」
気迫込めた叫びと共に、力任せの三連撃を叩き込む。しかし、『隊長』は余裕の表情で受け止め、流し、弾き返した。その技量は一流と言っても良いだろう。少なくとも、俺には出来ない事だ。
『隊長』に攻撃を全て防がれた俺はすぐに後ろに飛び、剣を構え直した。『隊長』は余裕のつもりか追撃をせず、ニヤニヤと笑ってその場に立っていた。
荒く息をしながら、俺は考えていた。『隊長』を打倒する手段を。しかし、
―――――足りない。
其れは『力』。基本的な『力』が足りないのだ。『魔術』で自身を『限界強化』する事も考えたが、エリーが何処に居るかも解らない状況で身体に負担の大きい『限界強化』は危険だ。仮に、『隊長』を倒してもまだ『敵』は残っているのだ。そこで動けなくなったらそれこそ御終いだ。
色々な考えが浮かぶが、どれも決め手にならないと破棄する。ヘレンさんに援護を頼もうかと視線を走らせれば、彼女もまた数多くの『魔術師』と睨み合っていた。
(駄目だ、自分だけでどうにかするしかない)
胸の中で呟き、俺は『隊長』に向け剣を構えた。
『隊長』もまた、俺の動きに合わせて剣を構えつつ走り出した。
「どうしたぁ?! それがお前の実力かぁ?!」
その問いかけと共に振られる剣、目では追えるが防御が追いつかず、少しずつ身体を切り裂いていく。それでも致命傷を負わないようにと必死に防ぐ。
「その程度でぇ、勝てると思うなぁ!」
更に苛烈になっていく斬撃、このままではやられると、俺は俺は片手を上げる。
想像するは、夜空で閃く『雷光』。
属性技術発動音声、宣言。
「閃光!」
上げた手より眩い光が放たれる。攻撃力は無く、唯の目くらましだ。それでも今は十分だ。
「糞ぉぉ! 小賢しい真似をぉぉ!」
俺の上げた片手に注意していた『隊長』は至近距離でその『閃光』を見てしまったようだ。固く目を瞑り、よろけなから後ずさる。
「もらった!」
卑怯な手段だが俺はその隙を逃さず斬撃を放つ。だが、
「舐めるなぁ!」
『隊長』は目の見えぬまま斬撃を捌いた。
「クソッ、ならば!」
俺は後ろに飛び、再び片手を上げ、
「雷撃!」
属性技術発動音声を宣言。俺の手から放たれた『雷』は、『隊長』に直撃すると思われたが、
「舐めるなと、言っただろうがぁ!」
『隊長』が持つ剣の炎がその言葉と共に更に激しく燃え上がり、そして俺の『雷』を切り裂いた。
「なん……だと」
俺は驚きにより立ち尽くす。今の一撃は避けれまいと放ったものだ。それをこうも容易く捌かれた。そして、その隙を逃すほど『隊長』は甘くは無かった。
「〝炎よ、薙ぎ払えぇ〟!」
その言葉と共に、俺に迫り来る炎の塊。ただ棒立ちしていた俺に避けれる筈もなく、炎に包まれた。咄嗟に出来たのは、目を瞑り、息を止め、更に腕で顔を覆うことだけだった。
「ーーー!ーーーー!!!」
言葉の無い絶叫。炎が皮膚を焼き、肉を焦がし、痛みが脳に突き刺さる。俺は身体から『雷』を出し、炎を強引に消し飛ばす。しかし、炎が消え去るまでに掛かった時間は数秒、身体に深手を与えるのには十分な時間だった。
「ーガハッ! ゴホッ!」
痛みに立って居られず膝から崩れ落ち、熱くなった空気に噎せながら呼吸する。焼けた皮膚が引き攣り、涙を流しながら俺は『回復魔術』を使う。ゆっくりと治っていく身体、完治を待たず剣を杖に立ち上ろうとして身体が思うように動かず倒れる俺に、
「無様な姿だなぁ、そのまま焼き付くされた方がラクだっただろうに」
『隊長』を目を擦りながら言った。
「〝力〟は足りず、〝技術〟も拙いない。オマケに自分の〝属性攻撃〟が効かなかった事に驚き行動停止……貴様、巫山戯ているのか?」
先ほどまでのニヤケ顔ではない、怒りに歪んだ表情で俺を見る『隊長』。
「その程度で、〝勇者〟を我が王より奪うつもりか?!」
響き渡る怒声、反射的に竦む身体。しかし、俺は今の言葉に怒りを感じ叫ぶ。
「巫山戯ているのは貴様らだ! 〝勇者〟は……いや、エリーは〝道具〟じゃない! 一人の〝人〟だ! 奪う、奪われるなど……」
「〝道具〟だ……」
俺の言葉を遮って言われた言葉。
「エレハイムは既に〝勇者〟という〝道具〟だ。そこに彼女の意思など関係ない。誰が一番上手く〝使える〟か……価値が有るのはそれだけだ」
淡々言われた言葉。
「そして、弱い貴様では〝勇者〟を使う事も護る事も出来ないだろう? それなら……」
そこで一息入れ、
「我が王が上手に使ってくれるさぁ」
『隊長』は醜悪に笑った。
「そして、役目を終え、なんの価値のもない弱い〝召喚者〟は……」
「もう、要らない」
其れは前に『女神』に突きつけられた言葉。思い通りにならず、勝手に動き、価値の無い『モノ』に言う言葉。
「そうか、そうだな……俺は〝弱い〟んだったな」
俺は『隊長』の言葉を聴き終えた後、そう呟き笑う。『魔帝討伐』を経て、自分が強くなったと自惚れていた事を自覚する。
認めよう、『弱い』俺を……
『弱い』から、今も無様な姿を晒し続けている。
『弱い』から、エリーやヘレンさんに心配される。
『弱い』から、『大事なモノを護れない』と罵られる。
それでも、そんな『弱者』でも、
『強者』を倒せる事を、教えてやる!!!
『生きる屍騎士』との戦いとは、正しく『強者』を倒す事だったのだから。
深く息をしながら体制を立て直す。引き攣る身体を無理やり起こし、それと同時に思考は回り始める。
かつて、『生きる屍騎士』を倒した方法を思い出す為に。
―――――思い出せ。
足りない『力量』を埋める方法を。
―――――思い出せ。
拙い『技術』を届かせる方法を。
―――――思い出せ。
『弱者』が『強者』を打倒する方法を。
俺は回復しつつある身体を確かめながら、チラリと手に有る『魔帝の剣』見る。
(それに、魔帝とも約束したしな……)
思い出すのは『魔帝』の最後、致命傷を負っても凛と立つ姿。そして言われた言葉と誓った言葉。
(俺はまだ、魔帝みたいに戦えないけど……)
(それでも、エリーを護る事を諦めない!)
其れは誓い。
今は居ない嘗ての『強者』に託された思い。
自身の最後に、その相手を心配した『強者』の願い。
そして、『強者』より譲り受けた『モノ』はこの手の中に。
身体は動ける程回復した、思考に淀みもない。
さあ、証明してやろう。
『弱者』な俺が、『強者』を倒せる事を。
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