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俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第一章――勇者は既に人妻です――
14/23

第五話

今回は短いです。



「邪魔を……するなぁー!!!」


 叫びながらも走り続け、そして剣を振り続ける。人を斬る感触、『雷』で焦げる肉の匂い。それらに未だ吐き気を催す自分。旅をしている時にも人を斬り殺した事は何度もあるのに、未だにこの感触と匂いに慣れない。


 既に何回通路を曲がったなんて覚えていなかった。只々、壁か何かに『付与』されている『白光』を目印に進み、現れる兵士達を斬る。そして、


「此処は?」


 広い場所に出た。見渡せば四つの出入り口があり、それぞれに兵士が扉を護っている。だが、その中で『白光』の反応があるのはただ一つ。俺は迷わずその扉に向かう。その時、


 ゾクリ、と悪寒が襲う。


 次に『人』しての本能が騒ぐ、今すぐ逃げろと騒ぎ立てる。俺は『本能』(ソレ)に逆らわず、その場所を飛び退いた。その瞬間、


「〝焼き尽くせ〟」


 俺でもヘレンさんでもない『発動音声』が聴こえ、俺が立っていた場所が焼き尽くされる。


 飛び退いて距離を取っても感じられる熱気。大きく窪んだ通路。


 俺はヘレンさんの無事を確認する為、視線を来た道に向ける。結果は無事。心配無いと手を振るヘレンさんに安堵してから、俺は『発動音声』が聴こえた方へと注意を向ける。


 ―――――パチ、パチ、パチ。


 手を叩きながら一人の剣士が前に出てくる。身体が大きく、他の兵士より強く感じる存在感。その背には、俺の持っている剣にも勝るとも劣らない剣が見える。


 その兵士は手を叩くのをやめると、


「久しぶりだな、ナオト。あの時より腕を上げているようで安心したぞ」


 俺に声をかけてきた。俺は体制を立て直すと、


「ええ、貴方に鍛えられ、実戦を経験しましたから……お久しぶりです、〝隊長〟殿」


 エルテミス騎士団第一守備部隊隊長であり、俺の『剣技』の『師匠』である。


 そして、『炎の加護』持ちである。


 しかし、俺は挨拶をしながらも気を抜かないでいた。


 当然だろう、自分に向けて明確な『殺意』を込めた攻撃を放って来る人に警戒しない者はいない。


 だが、気になることがある。俺の記憶にある『隊長』と、今目の前に居る『隊長』に違和感があるのだ。


 確かに、彼は戦闘で油断などしない人物だった。だけど、問答無用で見知った相手を殺そうとする人物でも無かったはずだ。


 俺は疑問を持ちつつも剣を構える。彼もそれを見て、背中から剣を引き抜いた。


「それが本来の得物ですか、〝隊長〟?」


 俺に『剣技』を教える時に彼が使っていたのは『バスタードソード』。しかし、今彼が持っているのは俺と同じタイプの『ツーハンデッドソード』。それが彼の本来の武器なら、俺にはとても不味い事だ。俺は未だに|『ツーハンデッドソード』《魔帝の剣》を使いこなせていないのだから。


「ああ、お前に教えてる時は〝バスタードソード〟(アレ)だったな……そうだ、〝ツーハンデッドソード(コレ)〟が俺本来の得物だ」


 そう言って構える姿は、正しく堂に入った姿だった。斬り入る隙がない。いや、ほんの少しだけ有るがそれは罠。俺の油断を誘うものだ。


「俺達を見逃しては……くれませんか?」


 俺は答えの解っている質問をしながら考える。戦うか、逃げるか……その二つが頭の中でせめぎ合う。


 しかし、その考えは彼の言葉と顔を見た瞬間に消し飛んだ。


「何を言っている……お前を〝殺す〟のは、〝王〟が俺に与えた〝勅命〟だ。逃がすはずが無いだろう。ああ、我が〝王〟よ……今すぐ〝召喚者〟の首を捧げます」


 そう言った彼は、狂ったように笑い始めた。見ている者に恐怖を与えるような笑いを、彼は浮かべた。


 しかし、それを異常と思ったのは俺とヘレンさんだけのようだった。周りの兵士達が浮かべるのも『笑い』。同じような『狂った笑い』か……その様をみて浮かべる『侮蔑の笑い』しか無かった。


「まさか……王は本当に〝魔薬〟を?!」


 『魔薬』、正確には『魔術薬物』。それは『魔術』を使えない人が『魔術』の代用品として創り出した物。効果は色々あり、『魔術』と同じように回復する物、強化する物、そして……


 意のままに操る物がある。


 彼は、『王』によって、『道具』にされたのだ。


 それを理解してしまった時、俺の剣から今まで以上の放電が放たれた。近づくもの、触れるもの、全て灰となれと言わんばかりに周りを焼き焦がす。


 それが表すは『怒り』。


 自分の知っている人を『道具』にされた事への『怒り』。


 そして、それを知っても何も出来ない自分への『怒り』。


 俺の行き場のない『怒り』は、『放電』という形で現れていた。


 しかし、『王』の『道具』にされた彼は、その行為を別の意味で捉えたようだ。


 彼は徐に己の剣の刀身に手を当て、


「〝剣よ、炎を纏え〟」


 剣に『属性付与』を施した。


 大気を焼きながら、『炎』を纏った剣。俺の剣を見て彼は真似たのだ。


「さあ、これで条件は同じだ……力の限りに抗うがいい!」


 そう言って彼は、距離を詰め斬りかかってきた。俺は咄嗟ながらもそれに合わせ、剣を振るう。


 剣と剣がぶつかる。刃がぶつかり合う前に互の『付与』した『炎』と『雷』が激突した。その力は互角。お互いを飲み込もうと、猛りながらも進めない。だが、その剣の持ち主の力は互角では無かった。その力の侭に剣を振り抜き、俺を弾き飛ばした。そして、壁にまで飛ばされそのまま激突した。


「ガハァァ!!!」


 壁と激突した際に、肺の空気を吐き出し蹲る俺。剣を握っている手は痺れ、感覚はあやふやだ。それでも剣を握りふらつきながらも立ち上がる。背中に痛みが走るが、今は彼が気にかかる。いや、先ほどの彼の一撃が気になるのだ。先の一撃は『技術』の無い『力任せの斬撃』、それに競り負ける……可笑しいのだ。


 ―――――『魔術』で『強化』している俺を吹き飛ばす彼が。


 もちろん、彼が『強化魔術』を使った形跡は無い。そして、普通の人間が相手を吹き飛ばす等出来る訳がない。だが、彼は俺を吹き飛ばした。その現実に俺は混乱しながら、彼を見る。彼はニヤニヤと笑いながら俺が立ち上がるのを待っていた。



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