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俺の嫁は勇者さま!  作者: おチビ
第一章――勇者は既に人妻です――
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第二話



 エルテミスの外門に到着した俺達は、入国者の列に並ぶ。俺は並びながら周りを見回す。並ぶ者達の表情は明るく、兵士達も穏やかに応対していた。


 そしてその景色を見て、俺は実感するのだ。


 『生きる屍騎士』はもう襲ってこないのだと。


 出発時に見た門の光景は今でも覚えている。あの時はいつも『生きる屍騎士』の襲撃に備え門はあまり開けず、兵士達は緊張し、入国者も怯えていた。


 だから、今の光景を見ていると平和になった実感するのだ。エリーも同じなのか、彼女も周りを見て微笑んでいた。


 そうしていると、俺達の入国手続きの番になった。まあ、小難しい事は無い。入国する目的と、違法な物が無いか簡単に検査して、少しばかりの金額を払うだけだ。


「はい、確認しました」


 兵士の言葉を聞き、俺達は先の盗賊の事を言って中に入ろうとした時だった。


「ああ、女性の方は〝勇者エレハイム〟様ですか?」


 そう兵士に声を掛けられた。


 俺達はその兵士に首を傾げながら向き直る。エリーは自分が『勇者』などと申告していないのに言われたのだ。


 そう、エリーが『勇者』と知っている者は少ないのだ。一般兵や市民などには、『勇者』が現れた事と性別や名前、簡単な容姿等は知らされているが、詳細な事は公表されていない。もちろん理由はある。


 一つは期待されていなっかたのだ。当然だろう、十五を過ぎたばかりの小娘に『魔帝』が討伐出来るのかと。


 もう一つは、敵に知られるリスクを抑える為だ。俺達は基本二人、人海戦術で襲われたらあっという間に殺されただろう。


 大きな理由はこの二つ、他にもあるがそれは省略する。


 『魔帝』を討伐したのだからもう隠す必要も無いのだが、俺もエリーもあまり騒がれるのが好きじゃ無い為、余程の事がない限り『勇者』だとは言わないのだ。


 そのはずなのに兵士は問いかけてきた。俺達は内心警戒しながら声を返す。


「いえ、ただの旅人ですが……なぜそう考えたのですか?」


 俺達の疑問に兵士は苦笑いしながら、


「いや、最近多いんだよ。〝自分は勇者エレハイムだ〟だと言う人がね」


「「はい?」」


 予想外の言葉を聞き、俺達は揃って困惑した。


 その後、「どういう事か?」と問い詰めた俺達に、兵士は「中に入れば解ります」と困ったように言った。そして門を潜った俺達が見たのは……


 エリーの格好をした女性達の姿だった。


 右を見ても左を見ても視界に入るのだ。エリーも眼を丸くしている。


 そう、エルテミスは『勇者エレハイム』だらけだった。


 もちろん、本物は俺の奥さんのエリーだ。だが、帰還がかなり遅れた為に、名を語る偽者を多く出たのだろう。その為の現状だ。耳をすませば、あちこちで「私が本物だ!」と言う様な声が聞こえる。


 俺達は、乾いた笑いを浮かべるのだった。


「え~と、とりあえずどうしますか?」


 先に現実に復帰したエリーがそう言ってきた。俺もすぐに持ち直し、考える。


 エリーは剣や防具を装備した姿だ、この儘では勝負を挑まれるかもしれない。そこらの偽物に負けるような事は無いだろうが、目立つのは良くない。ならば早く着替えなくてはならない……という事は、


「エリー、先ずは宿を取ろう。全てはそれからだ」


「そうですね。では、行きましょう」


「ああ」


 そう言って歩き出す俺達、だが俺はすぐ立ち止まった。


「エリーさん……」


「はい、どうしたのですか?」


「宿屋が何処か解りません……」


「……はぁ、なら先に言ってください。こっちですよ」


 地理を知らない俺はエリーの先導で、宿屋に向かった。


 流石に元住んでいたエリーは、良い宿屋を知っていた。まあ、この宿屋にした最大の理由はお風呂が各部屋に完備だかららしいが……その分値段も高めだった。


 部屋に通された俺達は、先ずは装備を外した。防具はやはり蒸れるし、剣は重いのだ。四六時中装備しているのは身体に堪える。


 一息ついた俺達は、今日の予定を話し合う。


「城に行くのは明日でいいだろう。というか、今日はもうのんびりしたい」


 俺は肩を揉みながら言う。久しぶりの宿だ、ゆっくり眠りたいのだ。野宿はどうしてもゆっくり休めず、身体に負担が掛かる気がする。


「そうですね、私も今から城に行って王様達にお会いするのはちょっと……」


 エリーも俺の意見に賛成のようだ。まあ『勇者』であるエリーが城に行けば長時間外に出れなくなるからな、その前にエリーも休みたいのだろう。


 そんな感じで俺達は予定を決めるのだった。


 一休したエリーは早速お風呂に入り始めた。着替える前に、身体の汚れを落としたいのだろう。俺はエリーが入っている間に、店に売る素材等の選別をする。


 この世界、エルテーニアには、所謂『冒険者ギルド』などは存在しない。魔物の素材などは、武器屋、防具屋、道具屋などに売るのが一般的だ。後は賞金首、魔物討伐依頼などは、その国の兵士の詰所に張り出されており、受ける者は自分の実力を考えて好きに狩りに行き、討伐証明の部位や首などを持ち帰るのだ。なのでランク等は無い。此等の仕事をする者を『探索者』と呼ぶ。ちなみに、護衛等の仕事はそれ専門の職業がある。


 俺は売る物の選別を終えると、窓から外を眺めた。街並みは召喚された時から変わりはない。だが下を見れば相変わらず、『勇者エレハイム』だらけだ。


 人はどこの世界でも『名声』や『権力』を欲しがるモノらしい。それが悪いとは思わないが、俺には理解出来ない。持て余す程の『名声』や『権力』が運ぶのは『面倒事』だと俺達は今回のことで思い知った。だから、今後はひっそりと生きていきたい。


 だが、エリーの『勇者』と言う『呪い』は消えていない。それは今後もエリーが厄介事に巻き込まれるという事だ。その時、俺はエリーを護れるのだろうか……


「いや、護るんだ……それが彼奴との約束でもある……」


 俺は視線を『魔帝の剣』に向けるのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 俺達が着替え、外に出かけたのは夕方近くになってしまった。まあ、今日はそんなに急ぐ事も無いかと思いのんびり街を回る。


「街中も結構賑わっているね」


 素材や薬草など売り払いながら俺はエリーに言う。まあ、『魔帝討伐』から既に結構経っている。人々も昔の生活に戻っているのだろう。通りは夕方なのに活気に満ちている。


「はい。私には戻ってきたっていう感じですね」


 エルテミス(ここ)はエリーにとっては『故郷』だ。街の雰囲気を感じ、どことなく楽しそうだ。


「はいよ、結構良質な物だったから少しオマケしといたよ。また何かあったら頼むよ」


 売り払った物の金額を渡された。金貨十枚、中々のものだ。思わずニンマリしてしまう。


 今日の晩飯はちょっと豪華に……そんな事を考えながらエリーに声をかける。


「エリー、今日の晩飯は少し奮発しよう。無事に帰れた事だしな」


「いいですね。でも、その前に行きたい場所が有るのですけど……」


「いいよ、何処?」


「私の両親のお墓です。無事に帰れた事を報告しようと思って」


 エリーの両親は、俺が『召喚』される少し前に亡くなっている。その事を思い出した俺はすぐに了承し二人でお墓に向かった。


 着いたのは、大きな慰霊碑だった。『生きる屍騎士』に殺された人達を纏めて供養したのだろう。下の方には名前が掘られていた。


 俺達は近くで買った花を備え、エリーの両親に無事を報告した。まあ、俺の場合は恒例の「お嬢さんは俺が幸せにします」とも報告もした。その直後に、エリー嬉しそうにしていたのが印象的だった。


 その後は予定通り食事をした。入ったのはエリーが両親とよく行ったという店だった。落ち着いた静かな雰囲気で、食事も上手く満足だった。


 食事を終えた俺達は、手を繋ぎながら街をぶらぶらと歩いた。俺には知らない道、エリーには懐かしい道を。そんな中、俺はエリーに問いかけた。


「エリー、この後どうする?」


「はい? もう宿に帰って休むだけですが……それとも何処か行きたい所があるのですか」


「違う違う、今日の事じゃなくて、今後の話」


 俺は空を見上げながら話を続ける。


「この儘此処で暮らしても良いし、何処かに旅をするのも良いな。で、エリーはどうしたいのかなって」


「私は……」


 エリーは少し考えた後、


「旅をしたいです、ナオトと一緒に。今度はゆっくり世界を見て回りたいです」


 微笑みながらそう言った。俺も微笑みながら答える。


「そうだね、今度は使命なんて無いからゆっくり見て回ろう、エルテーニアを」


「はい」


 俺達はそう言いながら宿へと帰っていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 


 ナオトとエリーが街中で話していた時、エルテミスの王城の一室である話がされていた。


「……やはり失敗したか。まあ余り期待していなかったが」


「はい。流石は〝召喚者〟と言ったところでしょうか」


「まさかこの世界に残るとは……御蔭で〝勇者〟を手に入れるのに苦労する」


「どうしますか? 少々、強引な手を使いますか?」


「それはまだ早いな……〝魔薬〟を手に入れといてくれ、〝勇者〟には効かないかもしれないがな」


「御意」


 そう言って人影が一つ消えた。残る一つは、


「もう役目は終わったのだ……〝召喚者〟殿」


 そう呟いて椅子に深く腰掛けるのであった。


日常が難しいです。


書いては消しを繰り返していました。


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