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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

いなふないふ

作者: 佐藤諾
掲載日:2026/03/30

「ありがとうって言われるの、時々は嫌なんですよね。怖いというか。」

バイトの同僚は、悪いやつではないのだが、時々危ないことを言う。自分は、感謝はすべて何となく嬉しく、彼の言っているのは、軽侮しているようなことがしばしばある、ということなのだろうか。そんな軽侮があると考えること自体が色々と失礼な気がする。優しさは増幅させるものだ。


などと帰り道に考えていたのがいけなかった。前から来た軽トラがこちらの後ろから来た車と対向するのを避けるためカーブでせり出してくるように見え…そしてそこに溝があることは知っていたのだが、反射的に避けてしまい…転げ落ちた。


目を開けると、幌のようなものが翻る戸口から白い強い日差しが照らしている。埃っぽい乾いた土の匂い。体を起こすと、粘土を盛っただけのものに、藁をつめた布だけのベッドに寝かされていたことが分かる。異世界転生というやつだろうか。普通に死んだだけということもある。意外なことに、自分の身体も服装も元のままだった。


幌を開け、男が入ってきた。乾いた土の匂い。優しくも厳しくもない瞳で見ると、持っていたきたものを手に持たせられた。石を削りだしたのか何か熱を加えると柔らかくなるようなものなのか、握り手と刃が一体となった妙な曲線と曲面で構成されたそれは、スマートフォンほどの重さがありながら、恐ろしいほど手に馴染んだ。持たされた瞬間から体の一部になった気がする。その持たされたこちらの手を持ち、男は2,3度自身の首にそれを当たらせるような動作をする。頸動脈がそこにあること位は分かる。頷くと、そのまま出て行った。


ナイフはすでに吸い付いたように手から離れない。振ると、重さを腕が学習する。このナイフと…練習しろということだろうか。何をやらされるのかは明白だった。崩れるように座り、色々と逃げ出すために、脚の間に頭を降ろし目をつぶる。


夜、起こされた時、恐ろしいことにナイフを持ったままだった。起こされた人物から優しさのようなものが感じられ、乾いた空気のはずが周囲の闇がぬめる気がして全身が総毛立つ。満天の星空の元、岩と土だけの丘を登って行く。見知った星空であり、ここが地球だとは思う。ただ、別の世界なのか、それともただ知らない現代なのかは分からない。自分に分かることは周囲はこの乾いた大地であり、ここで逃げたとしても何にもならないということだった。しかし、そのような認識とは別に、ただ夢の中のように男に付いて登るしかできないようであった。


丘に登る途中、満月が登りだし、星座が消えていく。月も知っているものであり、ただ、大きさは確信が持てなかった。大きいように思える。稜線まで登ると、街道沿いにいくつかの四角い人工物があるのが見えた。男の指が一つ一つ人工物をさしていく、一度全てを指した後、左に戻り、そしてもう一度指していき、3番目で止まる。またもう一度左に戻り、また3番目に止まる。こちらを確認する雰囲気に、また優しさが混ざる。


男を後にし、自分はゆっくりと歩き出した。月がその位置を変えていく。ナイフはぴったりと掌に吸い付き離れなかった。町が近づき、単に視界内で三つ目の四角い建物が大きくなり、白い煉瓦のようなものでできており、戸口が目の前に現れ、幌じゃないんだなということ位しか考えることはなく、特にどうしようもなく、左手でノブを掴んで引くと、よく手入れされているのか、音もなく滑らかに開く。


家の中は、何となく予想していたが商店だった。窯があり、街道の側にはカウンターと棚があり、小麦粉の匂いから、パン屋だと分かる。そして、他には、荷物を持った家族連れがいた。男性と女性、その子供と思われる姉妹。旅装としては軽装だが全員が荷物を持ち、8つの瞳が開けた扉からの月光を映していた。男が窯の横にあった棒を持ち、一歩踏み出してきたが、その様子から、何かを患っており、つまり、闘いの末、男を殺すことは容易であると分かった。


その瞬間、同極の磁石を近づけたようにナイフが手から離れた。ナイフを床に放り出し、そして崩れ落ちた自分は、這いつくばったままおいおいと泣いた。あの棒が自分の後頭部に振り下ろされることくらいは望んでいた。もしくは泣いている間に全員が居なくなって欲しかった。そのいずれも起こらず、目の端にナイフを拾う男が見えた。それも良いと思った。


しかし、間がある。様子がおかしかった。顔を斜めに上げて見ると男性とその家族は見つめ合っており、そして男性が持っていたものをその妻と思われる女性に渡すところだった。濃密な家族の気配に息を呑む。そして、男性は何もためらわずに拾い上げたナイフを胸腔に刺し、一瞬で生物の雰囲気を消失させ倒れた。のっく、のっくと吹き出る血が胸の辺りの服を内側から圧すのが見える。自分の全身の筋肉が震えるのが分かる。尿も漏らしている。妻と姉妹は声を上げることなく、ただ煌めく瞳だけを残し街道側を開け駆けて行った。


赤い血が黒くなり戸口からの光が青くなり黄色くなった頃、戸口に人影が現れた。一瞥して外に向かって喜びの咆哮を上げる。人影が増え、そして、自分は外へ連れ出される。皆、笑っている。輝かしいと言って良かった。純粋な感謝。そして新しい同胞の迎え入れ。笑顔が大気を震わす。「やめて、やめてよぉぉぉ!」胴上げされる視界で白い丘が撥ねる。町の他の者たちは一体。胴上げは嘘で次の瞬間地面に叩きつけられたかった。


衝撃はなく、目を開けると、夢の尻尾が急速に布団に消えていく。湿度の高い見知った空気。板張りの天井。安堵の余り泣きながら頭の上に手を伸ばし、スマートフォンの画面光で前頭葉を照らし残滓すら消そうとした。頭の上に手を伸ばし、そして、痛みより先に、指から血が出だしたのが分かる。人差し指だろうか。中指だろうか。全身が夢の続きを拒否している。最もあってはならないものだった。スマートフォンと似た重さのナイフ。痛みが来た。

これは一応、最初から最後までAI 様一切使わないで書いてみました。どこまで現実でどこまでが罰なのか。ゴシック小説を目指したつもりなんですが。

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