なおす日
朝の空は、きれいに晴れていた。
昨日の重たい雲はどこにもなく、青い空が広がっている。商店街の屋根の上にも、やわらかい光が落ちていた。
地面には、まだ少しだけ雨の名残がある。
水たまりが小さく残り、通りの端には濡れた跡が続いている。
時計屋の石段は、もう乾いている。
ガブはその上で、ゆっくりと目を開けた。
空気が軽い。
雨の匂いは少し残っているけれど、そこに新しい日の匂いが混ざっている。
石段の横には、段ボールの家がある。
昨日の雨で、少しだけ形が変わっている。
屋根がへこんで、角がやわらかくなっている。
ふわはその前に座っている。
家を見ている。
中に入る様子はない。
ただ、じっと見ている。
ガブは石段から下りる。
ゆっくり歩いて、家の横に来る。
ふわの隣に座る。
二匹で、同じものを見る。
少し曲がった家。
それでも、昨日のままそこにある。
午前中、子どもたちがやってくる。
「どうなってる?」
一人が走りながら言う。
家を見る。
「あー」
声をそろえる。
「ちょっとへこんでる」
「でも残ってる」
ランドセルを置いて、しゃがみこむ。
手で屋根を軽く押す。
「やわらかい」
もう一人が言う。
「なおそう」
すぐに決まる。
誰かがガムテープを持ってくる。
誰かが新しい段ボールを持ってくる。
八百屋のおばさんが笑いながら見ている。
「また作るのかい」
「修理!」
子どもたちは答える。
魚屋の大将もちらりと見る。
「忙しいな」
それだけ言う。
子どもたちは作業を始める。
濡れて弱くなった部分に、新しい段ボールを重ねる。
屋根を少し高くする。
水が流れやすいように、角度をつける。
「こうかな」
「いいかも」
ガムテープをぺたぺた貼る。
昨日より少しだけしっかりした形になる。
入口も少し整える。
「完成!」
子どもたちは立ち上がる。
少し誇らしそうだ。
ふわはその様子を見ている。
ガブもその横で見ている。
子どもたちは少し離れる。
「入るかな」
ふわはゆっくり立ち上がる。
家の前まで歩く。
新しい匂いがする。
段ボールの匂い。
テープの匂い。
それに、昨日と同じ、やさしい匂い。
ふわは中をのぞく。
少しだけためらう。
それから、すっと中に入る。
タオルの上に座る。
前よりも、少しだけ高くなった屋根。
少しだけしっかりした壁。
ふわはそのまま体を丸める。
子どもたちが小さく笑う。
「入った」
八百屋のおばさんも笑う。
「よかったねえ」
ガブは家の前まで歩く。
入口をのぞく。
ふわが中にいる。
ガブは少しだけ立ち止まる。
それから、いつものように、家の横に座る。
午後の光が、通りに広がる。
水たまりは、ゆっくり消えていく。
地面が乾いていく。
商店街の匂いも、いつものものに戻っていく。
夕方、子どもたちは帰る。
「またね」
段ボールの家に手を振る。
通りが静かになる。
ガブは家の横で丸くなる。
ふわは中で丸くなる。
昨日より少しだけ強くなった家。
それでも、小さな家だ。
でも、誰かがなおした家だ。
野良猫ガブは、今日も何もしない。
ただ、石段の横で昼寝をしていただけだ。
その隣で、ふわは新しくなった屋根の下で眠っている。
それだけで、商店街はまた少しやさしくなる。




