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段ボールの家

春の風は、少しだけやわらかくなっていた。


商店街の通りを、ランドセルを背負った子どもたちが歩いてくる。今日は三人ではなく、五人になっている。


その手には、何かを抱えている。


大きな段ボールだ。


「ここにしよう」


一人が言う。


場所は、時計屋の石段の横。雨が少しだけ避けられる、屋根の端の場所。


ガブは石段の上で寝ている。


ふわは少し離れた地面で丸くなっている。


子どもたちは段ボールを地面に置く。


「まず入口」


ペンで丸を描く。


もう一人がハサミで切る。


ざく、ざく。


段ボールに穴が開く。


「窓もいる?」


「いる」


もう一つ小さな穴を開ける。


八百屋のおばさんがそれを見ている。


「何してるんだい」


「猫の家!」


子どもたちは元気よく答える。


おばさんは笑う。


「優しいねえ」


魚屋の大将も氷を運びながら見る。


「雨よけか」


それだけ言う。


子どもたちは作業を続ける。


段ボールをもう一つ重ねる。


上に屋根をつける。


ガムテープでぺたぺた貼る。


「ここにタオル」


誰かが家から持ってきた古いタオルを中に入れる。


ふわふわの床になる。


「完成!」


段ボールの家は、少し歪んでいる。けれど、ちゃんと家の形をしている。


入口がひとつ。

小さな窓がひとつ。


子どもたちは後ろに下がる。


「入るかな」


ガブはまだ石段で寝ている。


ふわは少しだけ顔を上げる。


段ボールを見ている。


風が吹く。


段ボールの匂いと、タオルの匂いが混ざる。


ふわが立ち上がる。


ゆっくり歩く。


家の前まで来る。


子どもたちは息を止める。


ふわは入口をのぞく。


中の匂いをかぐ。


そして、ゆっくりと中に入る。


段ボールが少しだけ揺れる。


中から灰色のしっぽが見える。


「入った!」


子どもたちは小さく歓声を上げる。


八百屋のおばさんが笑う。


「よかったねえ」


ガブは石段で目を開ける。


段ボールの家を見る。


中にふわがいる。


しばらく見ている。


それから、ゆっくり石段を下りる。


家の前まで歩く。


子どもたちは静かに見守る。


ガブは入口をのぞく。


ふわと目が合う。


ふわは動かない。


ガブも動かない。


少し考えるような時間。


それから、ガブは家の横に座る。


入らない。


ただ、そこに座る。


子どもたちは少しだけ残念そうにする。


でも、八百屋のおばさんが言う。


「それでいいんだよ」


しばらくすると、ふわが家から出てくる。


外の光を見てから、石段のほうへ歩く。


そして、ガブの隣に座る。


段ボールの家は、そのまま残る。


風が通る。


商店街の匂いが流れる。


魚の匂い。

野菜の匂い。

コーヒーの匂い。


そして、新しい段ボールの匂い。


子どもたちは満足そうにうなずく。


「家できた」


「ガブとふわの家」


夕方、子どもたちは手を振って帰る。


段ボールの家は、石段の横にある。


小さくて、少し曲がっていて、でもちゃんと屋根がある。


ガブはその横で丸くなる。


ふわもその近くで丸くなる。


家に入るかどうかは、まだ決まっていない。


それでもいい。


家はそこにある。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、石段の横で昼寝をしていただけだ。


その隣に、小さな段ボールの家ができていた。


それだけで、商店街は少しだけやさしくなる。


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