第六話:世界の「綻び」と、メタフィクションの影
ババの店から出たハルは、夜風に吹かれながら、
先ほどの言葉を反芻していた。
「運営の連中が直すのを忘れたバグ」――。
ゲーム内の住民(NPC)が、
自分の世界を「ゲーム」だと認識しているかのような発言。
「……ナハト。今の、変だったよね?」
ハルが問いかけると、
肩に乗ったナハトは「キュ……」と少し困ったように小首をかしげた。
まるで、答えてはいけないルールがあるかのように。
ハルはババにもらった『真鍮のルーペ』を覗き込んだ。
すると、先ほどよりもはっきりと、
街のいたるところに「ノイズ」のような揺らぎが見える。
ハルが選んだのは、
一番高く、一番太い糸が伸びている「時計塔」だった。
ナハトの力を借りて、影の足場を跳ね、
人目のつかない壁面をスルスルと登っていく。
「……あった。ここだ」
時計塔の巨大な長針の裏側。
そこには、空間が剥がれ落ちたような、真っ黒な「穴」が開いていた。
そこから漏れ出しているのが、ババの言っていた光の糸だ。
ルーペ越しに見ると、
その穴の奥には文字の羅列が
激しく流れているのが見える。
【エラーコード:404_Unexpected_Spirit_Interaction】
【警告:未定義のオブジェクトが検知されました】
「これって……やっぱりバグなのかな。
でも、なんだか……懐かしい匂いがする」
ハルが恐る恐るその「穴」に手を伸ばそうとした時、
背後から乾いた拍手の音が聞こえた。
「おっと、そこから先は『一般プレイヤー』の立ち入り禁止区域だよ」
振り向くと、時計塔の縁に腰を下ろした一人の青年がいた。
軽装のスカウト風の格好だが、
その瞳はハルと同じように、世界の「綻び」を平然と見つめている。
「……君も、これが見えるの?」
「見えるよ。
というか、これを探すのが僕の仕事でね。
……君、面白いね。
召喚士の隠し職持ちで、しかも初期装備をそんなに大事にしてる。
運営の計算を完全に狂わせてる存在だ」
カイトと名乗ったその青年は、
ニヤリと笑ってハルにシステム画面を提示した。
「ババさんに会ったんだろ? あの婆さんはね、
このゲームの『旧バージョン』の残滓……いわば、
削除され損ねたデータの塊なんだ。
彼女が言う『運営』ってのは、
この世界を管理する神様みたいな連中のことさ」
ハルは、カイトの話を聞いても怖くなるどころか、逆にワクワクしていた。
「じゃあ、この糸を辿っていけば、
運営さんも想定外の『誰も知らない景色』が見れるってことですか?」
カイトは一瞬、呆気にとられたように目を見開いた後、
声を上げて笑った。
「ははは! 普通は『有利なバグ技を教えろ』って言うもんだけどな。
君、本当に変わってる。
……いいよ、僕もその『想定外』に興味がある。
フレンド、なっとく?」
【システム通知】
プレイヤー:カイトからフレンド申請が届きました。
カイト(職業:真実の追究者/アーキビスト)
第6話 完
【ハルの気づき】
• ババやこの世界のNPCの一部は、自分たちが「作られた存在」であることを断片的に知っている可能性がある。
• ハルの「寄り道」は、システムが想定した成長曲線から外れており、それが逆に世界の秘密(バグや隠しエリア)を引き寄せている。




