第五話:夜市(ナイトマーケット)と、古物商の老婆
「ここよ、ハル。夜の間だけ開く『星屑通り』。
精霊の好物を扱ってるのは、ここの奥にあるお店くらいかな」
ミナに連れられてやってきたのは、
昼間の賑やかさとは一変し、怪しげな紫のランプが灯る路地裏だった。
そこには、
プレイヤーよりも一癖も二癖もありそうなNPCたちが店を構えている。
「あ、ミナさん。
案内ありがとうございます! ここからは一人でぶらぶらしてみますね」
「えっ、あ、そう?
……まあ、あんたなら変なことに巻き込まれても楽しんじゃいそうね。
じゃあ、また明日お店で!」
ハルはミナを見送ると、
肩の上でソワソワしているナハトと一緒に、さらに奥へと進んだ。
たどり着いたのは、
軒先に干したトカゲや光るキノコが吊るされた、およそ菓子屋には見えない店。
店主は、背中が丸まった小柄な老婆、老婆・ババ(NPC)だ。
「……ほう。珍しい客だねぇ。人間が一人と、寂しがり屋の影が一つ」
ババは濁った瞳でハルの足元をじっと見た。
「こんばんは。
この子が喜ぶ食べ物を探してるんです。
ガラムさんにここを聞いて」
「ガラムの奴、
相変わらず無愛想に客を回してくるね。
……影の精霊なら、これだよ。
『月光の雫を練った金平糖』だ」
ババが差し出したのは、ガラス瓶に入った、
青白く点滅する小さなお菓子。
ハルが一つ取り出して空中に放り投げると、
ナハトは影から飛び出し、パチン!と空中でそれをキャッチした。
その瞬間、ナハトの体が七色に発光し、
ハルの脳内に直接感情が流れ込んでくる。
【システム通知】
ナハトの満足度:特大
特殊NPC:ババとの好感度が上昇しました。
隠しパラメータ:『霊感』が解放されました。
「おい、小僧。その精霊、ただの影じゃないね。
……あんた、これが見えるかい?」
ババが店の隅にある「ガラクタの山」を指差す。
普通のプレイヤーが見れば、
それはただのグラフィック上の背景(ゴミ箱)にしか見えない。
しかし、スキル『霊感』を得たハルの目には、
その山から細い糸のような光が空へ伸びているのが見えた。
「……何か、光の糸が見えます。
あっちの時計塔の方まで繋がってる……?」
ハルが指差すと、ババはニヤリと歯のない口で笑った。
「合格だよ。それは『世界の綻び(ほころび)』だ。
運営の連中が直すのを忘れたバグか、
あるいは精霊たちが残した悪戯の跡か……。
それを辿れるのは、あんたみたいな『道草を食う天才』だけさ」
ババはハルの手のひらに、古びた『真鍮のルーペ』を押し付けた。
「これは貸しだよ。
その糸を辿って、街の中に隠された『面白いもの』を見つけてきな。
何か見つけるたびに、あんたの影は強くなるし、
私の店の商品もまけてやるよ」
【ハルの新しい「やりたいこと」】
「街に隠された『光の糸』を辿って、誰も知らない宝物(または変な場所)を見つける」
「光の糸を辿る……。なんだか、
宝探しみたいでワクワクしますね!」
ハルは、ナハトと一緒に夜の街の壁や屋根を見回した。
今までは平面に見えていた街が、
まるで迷路のように奥行きを持って迫ってくる。
第5話 完
【現在の状況】
• 新NPC:ババ(古物商の老婆。ハルの特殊な才能に興味を持っている)
• 新アイテム:『真鍮のルーペ』(隠されたパスを見つける道具)
• ナハトの状態: 月光金平糖でハイテンション。影の形が少し大きくなった。




