第三話:岩壁の忘れ物と、影の「秘密基地」
黄金色に染まる雲海を眺めていたハルの隣で、
ナハトがそわそわと動き出した。
「キュゥ、キュッ!」
短い鳴き声を上げながら、
ナハトは岩壁のさらに奥、切り立った崖の隙間に隠れた小さな洞窟を指差す。
「まだ何かあるの? ……あ、あそこか」
ハルが狭い隙間に体を滑り込ませると、
そこは外の喧騒が嘘のように静まり返った、
直径数メートルほどの小さな空間だった。
天井からは水晶のような滴が滴り、
夕日の反射で洞窟内が淡いオレンジ色に明滅している。
そして、その中央。
誰が置いたのか、それとも自然に集まったのか、
鳥の巣のような形に編まれた枯れ草の上に、一振りの折れた剣が鎮座していた。
「これ……双剣の片割れかな?」
ハルがそっと触れると、冷ややかな感触が指先に伝わる。
それは豪華な装飾があるわけでも、
魔法の輝きを放っているわけでもない。
ただ、驚くほど丁寧に手入れされた形跡のある、
質実剛健な黒い剣だった。
【システム通知】
アイテム:『名もなき守護者の残欠』を入手しました。
※破損状態:重度。現在の攻撃力:1
「ボロボロだ……。でも、なんだかこの剣、寂しそうだな」
ハルは、自分が初期装備を三日かけて磨き上げた時のことを思い出した。
この剣の持ち主も、きっと自分の武器を愛していたはずだ。
すると、影の中にいたナハトがするりと這い出し、その折れた剣に触れた。
ナハトの紫色の魔力が、折れた断面から侵入し、
一時的に「影の刃」を形成する。
「……! ナハト、君が代わりの刃になるの?」
ナハトは得意げに胸を張り、ハルに剣を差し出した。
ハルがそれを手に取ると、自分の「錆びた鉄の双剣」の一振りと、
この「影を纏った折れた剣」が共鳴するように震え出す。
「これ、持って帰ってミナさんに見せてみようか。直せるかもしれないし」
ハルがそう言って剣を仕舞おうとした時、ナハトが不思議な行動をとった。
自分の影を大きく広げ、まるで風呂敷を広げるように地面に敷いたのだ。
そして、ハルが持っていた「綺麗な石ころ」や「アオノニガヨモギ」、
そして「折れた剣」を、ひょいひょいと影の中に放り込み始めた。
「えっ、ちょ、ちょっと! 大事なものが!」
焦るハルだったが、すぐにシステムメッセージが表示される。
【スキル発動:影の宝物庫】
眷属精霊が、マスターのアイテムを「影」の中に保管できるようになりました。
※このストレージに預けたアイテムは、
精霊の魔力によって「経年劣化」や「品質低下」が停止します。
「……すごい。これ、普通の鞄よりずっと便利じゃないか」
ハルは感心して、ナハトの頭を撫でた。
ナハトは嬉しそうに目を細め、最後におまけと言わんばかりに、
洞窟の隅に落ちていた『虹色に光る鳥の羽根』も影の中に回収した。
「ここ、いい場所だね。ナハトが見つけてくれなきゃ、一生来なかったよ」
ハルは、持っていた携帯食料の干し肉を一口齧り、
半分をナハトに(ナハトはそれを影に吸い込ませて)分けた。
絶景が見える高台、誰も来ない静かな洞窟、
そして自分を理解してくれる相棒。
効率を求めるプレイヤーなら「時間の無駄」と切り捨てるようなこの場所が、
ハルにとってはゲームを開始して以来、
初めて手に入れた「自分の居場所」のように感じられた。
「よし、暗くなる前に街に帰ろう。ミナさんにこれを見せるのが楽しみだ」
ハルは、影の中に宝物を詰め込んだナハトを連れて、再び崖を降り始めた。
足元には、ナハトが作った「影のステップ」が淡く光っている。
第3話 完
【現在の装備・スキル】
• 右手: 錆びた鉄の短剣(ハルが極限まで研いだもの)
• 左手: 名もなき守護者の残欠(ナハトが影の刃を形成)
• 新スキル: 『影の宝物庫』(容量はナハトの成長次第!)




