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ぼっち初心者の双剣士、気づけば精霊に懐かれて世界を無双する……つもりはない。  作者: あめとおと


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2/2

第一話:錆びた鉄屑と、お節介な木漏れ日


最新型VRMMORPG『エテニウム・オンライン』のサービス開始から一ヶ月。


先行プレイヤーたちが「効率的なレベリング」や「レア装備のドロップ率」に血眼になっている喧騒の中、


始まりの街・ルミナスの片隅にある、うらぶれたベンチに腰を下ろしている青年がいた。


プレイヤー名、ハル。


職業、双剣使い。


「……よし、これで三本目」


ハルは満足げに、手元にある「錆びた鉄の短剣」を眺めた。


ゲームを始めて三日。彼はまだ、街の外にいる最弱モンスター「草原スライム」すら十匹も倒していない。


代わりに彼が没頭していたのは、初期装備として配られた二本の短剣と、露店で見つけた安物の砥石で、ひたすら「金属の質感を確かめること」だった。


このゲームの売りは、現実と見紛うほどの五感フィードバックだ。


ハルが砥石を滑らせると、キィィィという甲高い音と共に、火花が散る。


その熱、鉄の匂い、そして少しずつ輝きを取り戻す刃の美しさに、彼は心を奪われていた。


「君、それ……もう新品より切れるんじゃない?」


呆れたような声が頭上から降ってきた。


顔を上げると、そこには腰に大きな金槌を下げた少女が立っていた。


防具屋の看板娘、NPCのミナだ。


「あ、ミナさん。こんにちは。


……見てください、この反り。


初期装備とは思えないくらい素直な刃をしてるんですよ」


「いや、普通はそれを持って森に行って、オークとか倒して、もっと強い剣に買い替えるのよ。


誰も初期装備を三日かけて研がないわよ」


ミナは溜息をつきながらも、ハルの隣にどっかと座った。


ハルのような「効率を無視して、世界の細部にこだわるプレイヤー」は、


NPCである彼女にとっても珍しく、どこか放っておけない存在になっていた。


「……ねえ、ハル。そんなに刃物が好きなら、南の『ささやきの森』に行ってみたら?


そこでしか採れない『アオノニガヨモギ』の汁を刃に塗ると、金属が青く透き通って綺麗に見えるわよ。


……まあ、あそこは視界が悪いし、初心者が一人で行く場所じゃないけどね」


「青く透き通る……。いいですね、それ! 行ってみます!」


ハルは目を輝かせ、研ぎたての双剣を腰の鞘に収めた。


「ぼっち」であることを寂しいと思ったことはない。


むしろ、自分のペースでこの世界の美しさを独り占めできる贅沢を楽しんでいた。


『ささやきの森』は、ミナの言葉通り、昼間でも薄暗く、霧が立ち込めていた。


時折、茂みがガサリと揺れる。普通の初心者なら、ここで剣を構えて警戒するだろう。


だが、ハルは違った。


「わあ、この苔、踏むとふかふかしてて気持ちいいな……。


あ、あそこに咲いてる花、図鑑に載ってたやつだ」


彼はモンスターを「敵」としてではなく、「風景の一部」として眺めながら進んでいく。


殺気がないせいか、本来なら襲いかかってくるはずの野兎たちも、ハルの足元を平然と横切っていく。


森の奥深く。


目的の『アオノニガヨモギ』を見つけた時、ハルは奇妙な光景を目にした。


一本の巨木の根元に、


黒いもやのようなものが、トゲのある蔓に絡まって動けなくなっていたのだ。


「……? 罠かな。……大丈夫? 痛そうだね」


ハルは自然に、腰の双剣を抜いた。


もしそれが強力なモンスターの子供だとしても、


彼にとっては「困っている何か」にしか見えなかった。


研ぎ澄まされた双剣が、空気を切り裂く。


シュパッ!


一閃。


ミナに呆れられるほど磨き上げた刃は、硬い蔓をバターのように滑らかに断ち切った。


解き放たれた黒い靄は、空中でくるくると円を描き、


やがて小さな、子供のような形に固まった。


瞳は夜空のように深い紫。背中には、透き通った羽。


【システム通知】


隠し条件:『無垢なる守護』を達成しました。


隠し職:『境界の召喚士』への適正が認められました。


眷属候補:【影の精霊・ナハト】があなたの影に定着しました。


「えっ、召喚士……? 俺、剣士なんだけどな」


ハルが首を傾げると、小さな影の精霊——ナハトは、嬉しそうにハルの影の中に飛び込んだ。


と、同時に。


ハルの手元にある双剣が、ほんのりと紫色の光を帯びる。


「……あれ? 剣が軽くなった? それに、なんだか視界がはっきりするような……」


それは、召喚士が「召喚獣を戦わせる」のではなく、


「召喚獣の力を武器に宿す」という、このゲームでも極めて稀なプレイスタイルの目覚めだった。


帰り道、ハルの前に森の主である「フォレスト・ベア」が立ち塞がった。


本来、今のハルのレベルでは一撃でゲームオーバーになる強敵だ。


「うわ、大きいな……。でも、せっかく研いだ剣だし、試してみるか」


ハルは双剣を構えた。


すると、影からナハトがひょこっと顔を出し、ハルの背中をそっと押す。


ハルの体が、重力を無視したような速さで加速した。


「——えっ、速い!?」


本人が驚いている間に、双剣は熊の爪を弾き飛ばし、その懐に潜り込む。



一撃、二撃。



ナハトの魔力が宿った刃は、鋼鉄をも断つ鋭さで熊の表皮を切り裂いた。


気づけば、巨体は光の粒子となって霧散していた。


「……倒しちゃった。……まあいっか。それより、ヨモギ! 早くミナさんに見せに行こう」


ハルは、自分が「サーバー初のボス級モンスター単独撃破」を成し遂げたことにも気づかず、


カバンに入れた薬草の匂いを嗅いで、ふふっと笑った。


こうして、世界最強の(本人はその自覚が全くない)双剣使いの冒険が、静かに幕を開けたのである。


第1話 完

【ハルのステータス(隠し)】


• メイン職: 双剣使い Lv.5


• 隠し職: 境界の召喚士 Lv.1


• 相棒: 影の精霊・ナハト(懐き度:MAX)


• 現在の所持品: 研ぎ澄まされた鉄の双剣、

        アオノニガヨモギ、

        綺麗な石ころ×12


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