第十五話:オイルの香りと、剣の「産声」
「ババさん、ありがとう。
……よし、ナハト、シャリ。
行く前に、まずはこれを塗ってみようか」
ババの店の軒先で、ハルはさっそく腰を下ろしました。
普通なら「急いで目的地へ!」と駆け出す場面ですが、ハルは我慢できません。
新しい「研磨アイテム」を手に入れたら、
その場で試さずにはいられないのが彼という男です。
ハルは『日和』と『常夜』を抜き、
ババからもらった『真実の研磨オイル』を一滴、刀身に垂らしました。
トパッ……。
オイルが広がった瞬間、双剣から銀色の煙が立ち上り、
あたりに「雨上がりの森」のような清々しい香りが漂います。
「……あ、すごい。剣の芯まで、熱が通っていくみたいだ」
ハルが丁寧に、布でオイルを馴染ませていきます。
すると、今まで無機質だった刀身が、
ハルの指の動きに合わせて『クピピ……』と、
まるで喉を鳴らす猫のような音を立て始めました。
『……もっと、右。そこ、痒い』
「えっ?」
ハルが手を止め、辺りを見回します。
ババは奥で居眠りを始めているし、ナハトとシャリは顔を見合わせています。
「今、誰か喋りました?」
『……左の、鎬のあたり……もっと、深く……』
声の主は、ハルが手に持っている『日和』でした。
ババのオイルが、剣に宿った「意志」とハルの「意識」を繋いでしまったのです。
「わあ! 『日和』、君、喋れるようになったの?」
『……喋る、というか。伝わる、だけ。
……主、磨くの、上手。……気持ちいい……』
続いて、影を纏った『常夜』からも、少し低くて落ち着いた声が響きます。
『……主よ。我らを導け。
あの『庭』には、我らの真の姿を呼び覚ます『雫』がある……』
「すごい……! 剣と喋れるなんて、最高のお散歩になりそうですね!」
普通のプレイヤーなら「攻撃力が上がったか?」を確認するところですが、
ハルは「剣の痒いところを教えてもらえる」ことに感動していました。
「カイトさんにも教えてあげよう。
……あ、でも、あの人の剣は効率重視だから、
あんまりお喋りしてくれないかな?」
ハルは、お喋りになった双剣を愛おしそうに鞘に収めると、
シャリが指し示す「鏡池」の方角へ、鼻歌まじりに歩き出しました。
【今回得たもの】
• 双剣の意志: 武器とコミュニケーションが可能になった。
• メンテナンス効率UP: 「そこ痒い」と言われるので、研磨の精度が爆上がり。
• シャリのドヤ顔: 良い地図を持ってきた自覚があるらしい。




