第十四話:透き通る地図と、ババの昔話
シャリが「シャリッ!」と軽快な音と共に吐き出したのは、
地図というにはあまりに不思議な、「透き通った羊皮紙」でした。
「……うわっ、シャリ、これ地図?
濡れてるけど……あ、すぐ乾いた」
ハルがその紙を広げると、そこにはルミナスの街の地図ではなく、
「基盤(基板)のような幾何学模様」が浮かび上がっていました。
しかも、ルーペで覗くとその模様がまるで生き物のように絶えず動いています。
「なんだい、その気味の悪い紙は……。
おい、よせ、ハル! 食べ物屋で広げるもんじゃない!」
ガラムが眉をひそめますが、ハルの目はもう釘付けです。
「ガラムさん、ごめんなさい!
僕、ちょっとババさんのところに行ってきます。
これ、見せなきゃいけない気がして」
「……ったく。あのアマのところか。夜道には気をつけろよ、小僧!」
ハルはナハトを肩に、シャリを腕に抱えて、夜の「星屑通り」を駆け抜けました。
老婆・ババの店は、相変わらず怪しげな香煙に包まれていました。
「ババさん! これ……シャリが……あ、この子は新しい友達のシャリです」
「……騒がしいねぇ。
おや、その猫……いや、その『バグ』、面白いものを腹に隠し持っていたもんだ」
ババはハルが差し出した透明な地図を手に取ると、
古い眼鏡をかけ直し、じっと見つめました。
その表情から、いつもの不敵な笑みが消えます。
「小僧。これは地図じゃない。『設計図』だよ。
それも、この世界が今の形になる前に切り捨てられた、古い古い場所のね」
ババの指が、地図の一点を指しました。
そこには「Garden of Oblivion(忘却の庭)」という微かな文字が刻まれていました。
「今の運営どもは、そこを『ゴミ箱』として使っているようだがね……。
元々はそこ、精霊たちが生まれた場所だったんだ。
あんたの隣にいるその影も、元を辿ればそこから来たのかもしれないねぇ」
ナハトが、ババの言葉に反応するように「キュゥ……」と少し寂しげに鳴きました。
「ババさん、僕、ここに行けますか? 虹色の鍵も持ってるんです」
「……行けるだろうさ。
だが、そこは今のシステムが『存在しない』と決めた場所だ。
何が起きても不思議じゃない。それでも行くのかい?」
「はい。ナハトの故郷かもしれないなら、もっと綺麗にしてあげたいし。
……それに、そこにはもっと『磨き甲斐のあるもの』がありそうですから!」
ハルの答えに、ババはくくくと笑い、
棚の奥から一本の『古びたオイル』を取り出しました。
「なら、これを持っていきな。
その『日和と常夜』に塗っておくれ。見えない道が見えるようになる、
おまじないさ」
【システム通知】
クエスト:『忘れられた故郷への帰還』が発生しました。
目的地:忘却の庭(座標:エラー地点)
アイテム:『真実の研磨オイル』を入手しました。
【ハルの心境】
• ナハトのルーツを知りたいという、新しい「やりたいこと」ができた。
• 怖いというより、どんな「未知の質感」に出会えるか楽しみ。
• シャリが頼もしいガイドに見えてきた。




