第十一話:迷子のリンゴ猫と、空から来た視線
街の喧騒がようやく収まり、
空から降っていた紫色の雪も消えかけた頃。
ハルの足元には、一匹の奇妙な生き物が丸まっていました。
頭は真っ赤でツヤツヤのリンゴ。体はふわふわした黒猫。
「シャリ……シャリ……」と、
自分の頭からこぼれる甘い蜜を舐めているそのバグ(リンゴ猫)を、
ナハトが影の手で熱心に毛繕いしています。
「ハル、それ……どうするつもりだい? 完全に『不具合の塊』なんだけど」
駆け寄ってきたカイトが、引きつった笑顔でリンゴ猫を指差しました。
「だって、ナハトがどうしても連れて帰りたいって。ねえ、ナハト?」
「キュゥ〜(離さないぞ、という抱擁)」
ハルは屈託なく笑って、
リンゴ猫の頭(リンゴ部分)をポリポリとかいてあげました。
「君、名前は『シャリ』でいいかな? 質感がすごくいいし」
その時でした。
賑わいを取り戻したはずの街の広場から、スッと音が消えました。
風が止まり、NPCたちが置物のように硬直します。
「……何だ? サーバーのラグか?」
カイトが周囲を警戒した瞬間、
ハルの目の前の空間が、まるで紙を破るように上下に裂けました。
そこから現れたのは、
真っ白なコートに身を包み、
顔の部分が「鏡」になっている奇妙な二人組。
プレイヤーでもNPCでもない、
この世界の管理人――『運営直属・監査ユニット(通称:白服)』です。
「【警告】未定義オブジェクト『Apple_Cat_Error』の検知。
および……」
一人の白服が、無機質な声でハルを見つめました。
鏡のような顔に、
ハルのステータスが猛烈な勢いでスクロールされます。
「……規格外スキルの連続習得。
初期装備の異常なパラメータ上昇。
および、運営廃棄物エリアへの不正侵入を確認。
……プレイヤー『ハル』、
貴殿の行動は本ゲームの均衡を著しく乱しています」
白服の手が伸び、
ナハトが抱きしめている「シャリ」を消去しようとします。
「あ、待ってください!」
ハルは咄嗟に、ナハトとシャリの前に立ち塞がりました。
「この子たちは、ただそこにいただけで、
何も悪いことはしていません。
掃除が行き届いていなかったのは、運営さんの方じゃないですか」
白服たちの動きが、ピタリと止まりました。
「……掃除? 貴殿は、
あの『ゴミ箱』から溢れたジャンクデータを、
破壊ではなく『最適化』したと言うのか?」
ハルは頷き、
腰に差した自慢の双剣を(威嚇ではなく、見せるように)抜きました。
「はい。ガラムさんと一緒に、
バラバラだったデータを磨いて、一つの形に整えました。
この剣も、シャリも、磨けばこんなに綺麗になるんです」
白服たちは互いに顔を見合わせ(鏡越しに通信しているようです)、
やがて、伸びていた手を静かに下ろしました。
「……【判定】。
プレイヤー・ハルによる行動を『手動パッチ適用』と見なす。
シャリの存在を、
バグではなく『超低確率出現の隠しペット』として一時的に登録。
ただし――」
一人の白服が、ハルの耳元で囁きました。
「――あまり世界を『綺麗』にしすぎないよう、願いたい。
我々の仕事がなくなってしまうのでな」
第11話 完
【ハルの戦利品】
• ペット:リンゴ猫の『シャリ』(公式に存在を認められた!)
• 運営からの認識: 「バグを直してくれる便利なボランティア」として目を付けられた。
• ナハトの反応: シャリという弟分ができて、お兄ちゃん風を吹かせている。




