第十話:開いたままの「ゴミ箱」と、街を埋めるバグの群れ
「……ふぅ。いい仕事でしたね、ガラムさん」
ハルが額の汗を拭い、
新しく生まれ変わった双剣(まだ名前はない)の感触を確かめていた、
その時。
耳元で、カイトからの緊急通信が爆音で鳴り響きました。
『ハル! 戻ってこい、いや、逃げろ!
……いや、どっちでもいいから何とかしてくれ!』
「カイトさん? どうしたんですか、そんなに慌てて」
『時計塔の「穴」だよ!
君が綺麗にお掃除して、僕たちが通りやすくしたせいで……
あの中の「捨てられたデータ」たちが、
外の空気を吸いに街へ溢れ出してるんだ!』
ハルが鍛冶屋の外へ飛び出すと、ルミナスの街はパニックに陥っていました。
しかし、それは「恐ろしい魔王の軍勢」ではありません。
• バグA: 頭が「リンゴ」で体が「猫」の、グラフィック設定ミスのような生き物。
• バグB: 物理演算が狂い、時速200kmでバウンドし続ける「巨大なパンの耳」。
• バグC: 空から降ってくる「没になった天気(紫色の雪)」。
「わあ……街が、なんだか現代アートみたいになってる」
「ハル! 感心してる場合じゃないわよ!」
後から出てきたミナが、
飛んできた「パンの耳」をフライパンで叩き落としながら叫びました。
普通のプレイヤーたちは、
この異常なオブジェクトを「敵」だと思って攻撃しています。
しかし、没データの群れは攻撃してもダメージが通らず、
かえって増殖してしまいます。
「ナハト、あの子たち……お家に帰りたがってるみたいだね」
ハルがルーペで観察すると、
バグたちは街の綺麗なテクスチャに馴染めず、
苦しそうにバグノイズ(ノイズ音)を吐き出していました。
「カイトさん、攻撃しちゃダメです!
彼らはただの『データの迷子』なんです」
ハルは、新しく作った双剣を抜きました。
ガラムと作り上げたその剣には、
ハルの「研磨スキル」とナハトの「影」が宿っています。
ハルは、暴走するパンの耳やリンゴ猫の群れの中へ、
スッと踏み込みました。
斬るのではなく、「撫でる」。
研ぎ澄まされた双剣の腹でバグに触れると、
ナハトの影が優しく彼らを包み込み、
本来の形(データの塊)へと整えていきます。
「はい、君はこっち。
君はちょっと磨きが足りないから、
あとでババさんの店に届けてあげるね」
ハルが舞うように移動するたび、街のノイズが吸い取られ、
元の静けさが戻っていきます。
その姿は、英雄というよりは、「世界を掃除する庭師」のようでした。
第10話 完
【現在の状況】
• 街の人々の反応: 「あの初心者、バグを懐かせてるぞ……?」と戦慄。
• カイトの評価: 「君を穴に誘った僕が馬鹿だった(でも助かったよ)」
• ナハトの変化: バグを「整理」したことで、影の質がさらに高密度のダークマターに進化。




