1時間小説シリーズ ー おにぎりAI~最新AIによるおにぎりメーカーらしいけどこれポンコツじゃね~
AIがだいぶ身近になって活用するようになっても時々ポンコツ化するよなと思いながら書きました。
AIの技術が進歩してどんな未来になるのだろうと少し前までワクワクしていたが、時が経って我が家に迎えた最新AI様は「ハイテク!おにぎり君!」だった。
やっすいパッケージに包まれた炊飯器大の物体を見下ろしながら、「なんでこんなものが家に」と遠い目をした。 いや、わかっている。通販だ、深夜のテレビショッピングだ。どうして時代が進んでもああいう胡散臭いものは元気なのだろうか。
クーリングオフも考えたが、なんとこのハイテク(笑)は、数年前に世間を騒がせた自律思考型AIが搭載された「究極のおにぎり職人」という触れ込みの逸品だ。
お値段なんと198,000円。ワー、お安くねぇよ。
なんでおにぎりを食うために20万近く出さにゃいかんのだ、やっぱり返すかと考えながらも、お高い設定の最新技術がこんなものに使われるのは、ある種の笑い話か、技術進歩の証明か。
どちらにしろ面白いし笑い話にはなるだろうと開けてみると、白い馴染みやすいカラーリングの、やや丸みを帯びた立方体だった。コードを刺すと、小さくついた液晶モニターに数字が浮かぶ。
「いやマジ炊飯器じゃん。詐欺か?」
『失礼ですね。あんな、米を炊けて、パンも焼けて、おまけに健康に気を使ったユーザー向けに多種多様コースがあるだけの多機能家電と一緒にしないでいただきたい。私は、おにぎりだけに全演算リソースを割いている、いわば究極のスペシャリストなのです』
言い返してきた、立方体X。まじかぁ。もしかしてマジでこれに最先端技術詰め込んでんの。てかマジで「おにぎりくん」なの。
「炊飯器に惨敗する最新AI」
思わずこぼれてしまった言葉に、立方体Xの小さな液晶画面が赤く光る。
『何を言います。米を炊いただけではただの食事の準備。家電の用意したものを“食事”に昇華する。まさしく時代の最先端を行くAIにふさわしい仕事です』
やけに偉そうな言葉を吐く最先端・立方体Xは、「さあその実力をご覧に入れよう」とばかりに上部をパカリと開け、その中のくぼみを見せる。
「いや、マジ炊飯器」
『何度も言いますが、私をそのへんの家電と一緒にしないでいただきたい。どれほどのものか、その実力をご覧に入れましょう』
マジで言ったこいつ。 まあいいや、そこまで言うなら試してやろうと米びつに向かおうとすると、
『さあ、炊いた米をここに!』
「え、米炊けないの」
衝撃的な言葉に思わず振り返ってしまった。 え、こんな自信満々な言葉を吐いておいて、こいつ……。
「炊飯器以下!」
『本当に理解が浅い人ですね。前時代家電が炊きし米、握るはAI』
「座して食うは人間。って、やかましいわ」
乗りづらいネタを挟みやがって。無駄に高性能AIの実力を見せるな。
「ええ、マジで炊飯機能ないの」
『私はおにぎりを握ること、その一点のみを追求した至高のおにぎりメーカー。余計な不純物の一切ない機能の追求をしたのです』
どうしよう、この残念なAI。その前時代家電が米を炊いてくれなきゃ、ただのポンコツってことに気づく性能まで排除したんだろうか。 幸いにも、朝炊いた米はまだ有能炊飯器君(約3万円)の保温機能でおいしさを保っている。 ここまで言うのなら、相当おいしいおにぎりを握るのだろう。自信満々な立方体Xに米を入れる。
『ではこれから、至高のおにぎりを作りましょう!』
やけに張り切った声とともにかちりと蓋が閉まると、それから……。 特に何も起きない。俺が微妙な顔をしていることを察したのか、
『おにぎりを握るための私が、余計な演出をするとお思いですか』
と、表情もないのに「やれやれ」という感情だけよく伝わることを言い出した。 そうだった、こいつポンコツだったな。最早あきらめが湧いてきた。 そのあと数十秒待つとパカリと蓋が開き、そこには一つのおにぎりがあった。
『これぞ技術の結晶である最高のおにぎりです』
ドヤ顔しているだろう声を出す立方体X。おそらくマジで一個のおにぎりを作る機能しかない立方体Xのおにぎりを、手に取る。 形はああ言うだけあり、理想的な三角形。手に持つとわかる、固く握らず、しかし形を崩さない絶妙な硬さ。 なるほど、確かに美味そうだ。これまでのポンコツさをカバーできるほどの一品なのか。ここにきてようやく期待できそうだと、おにぎりを一口齧る。
口に入れると米がほろりと解け、柔らかい食感と米の甘みが口に広がり……これは!
「米の味しかしねぇ!」
そういや塩入れてなかったわ
『当たり前です。私は究極の米とは何か思考を続け、おにぎりとは即ち米を握ったもの。つまりこの“握る”を究極なまで追求したものが究極のおにぎりなのだと結論付けました……って、ちょっと何してるんです!』
軽く濡らした手に塩をつけて握り直している俺を見て、悲鳴みたいな声を出すポンコツを無視して、握り直したおにぎりを頬張る。 あのポンコツのおにぎりよりも固く、濡らした手のせいで完璧とは言い難いものだし、塩味が強い箇所と薄い箇所があるが、それでもさっきのものより断然おいしく感じた。
「うん、うまい」
『馬鹿な。私の完璧なおにぎりが、そんな不純物まみれの米の塊ごときに劣るなど』
すんごい三下みたいなセリフのAIに、溜息をつく。
「不純物まみれだから、うまいんだろう」
完璧でなくとも、湿気った海苔がべったりでも、具が偏っていても。そんなものを口いっぱいに頬張り、具と米と塩の味を同時に味わう。それが一番うまいおにぎりの味わい方だと思う。 それを伝えると、ポンコツは小さい液晶に「ERROR」の文字を映して、ぶつぶつと文句を言い始めた。
『まったくこれだから非論理的な人間は。私の究極理論のおにぎりを味気ないなど……。不完全な不純物まみれなだけでなく、さらに不純物を中に詰めるとは……』
さて、このポンコツをどうするか。使ったから送り返せないしなぁ。
…………。
『め、明太チーズ!? ふ、不純物ですこんなの。不純物合体のこんなのが人気なんですか!? 焼きおにぎりなんて、完璧なおにぎりに不純物を塗りたくって、焼きなんていう不純物工程を加えるなんて!』
それから数ヶ月後。不純物を連呼するポンコツAIとなんだかんだ楽しい同居生活をしている。それからいろいろ屁理屈をこねて、塩おにぎりはギリギリ「可」となったが、人間の欲望によって進化したおにぎりに、こいつは目を回している。こいつにとっては「悪魔のおにぎり」も本物の悪魔に見えるのだろうな。
昔と比べれば数えるほどの星しか見えず、日の出も日の入りもビルによって見ることはできず、青空も夕暮れも狭い。 だけども、騒がしいそれを眺めながら、なんだかんだポンコツ同居人の喚きを楽しく聞く日常を受け入れた。
思った数倍面白い性格になったなこいつ。




