振られてしまったけれど諦めません! 〜大好きなクリスのためにエリーは頑張る!!〜
「なんで振られたのー!!」
エリーの声が青空に響いた。寝転がっていても涙は止まらず、頬をとめどなく流れていく。空は腹立たしいぐらい青く澄んでいて、ときどき白い綿菓子みたいな雲が流れていく。
だけど、エリーの心模様は土砂降りの雨だった。
◇◇◇
原因は今朝に遡る。
今日も婚約者であるクリスとともにいつも通り登校していた。他愛もない会話をしながら歩いていると、クリスは突然立ち止まった。
『エリー、婚約破棄しよう』
『え、婚約破棄ですが……、な、なんで』
なんの脈絡もなく紡がれた言葉にエリーも思わず立ち止まった。
『私のこと嫌いになりましたか?』
『そんなことっ』
クリスはなにか言いかけたが、それを乗り込み真顔に戻った。
『とにかく、そういうことだから』
それ以上何も言わず、クリスは踵を返し去っていた。
◇◇◇
「あー!なんで振られたの!意味わかんない」
思わず敬語が外れてしまうほどエリーは傷ついていた。
今までクリスに似合う立派な人になろうと努力してきたけれど無駄だった。そんな思いが心を支配して、涙が止まらない。
今朝のことを思い出すだけで悲しくてしかたがない。
「なんで振られたの!私は、私は」
エリーはクリスが大好きだった。物心付く前に婚約を交わしたが、別に婚約者だから頑張って好きになったわけではない。
テストはいつも一位。みんなに天才だって言われてるけれど、本当は毎晩死に物狂いで勉強している秀才。運動も得意。でも本当は体力も筋力もなくて毎日走ったり筋トレしたり食べ物に気をつけたりしてる。誰にも優しい好青年だけれど、本当は人見知りでいつも頭の中はパニックになりかけ。
みんなが神だと崇めるクリスはただの人間。だけど、私はそんなクリスが好き。
好き。好きだったのに。
思いが溢れて言葉が勢いよく飛び出した。
「クリスなんか嫌いーーーーー!!!」
エリーの声は誰もいない庭園に響いた。家族は家の中だし、クリスはもちろん訪ねてくるわけない。
「……やっぱり俺のこと嫌いだったんだ」
いるはずのない人物の声が聞こえて思わず振り返る。
「ク、クリス?なんでここに」
「やっぱり俺のこと嫌いだったんだね」
そのか弱い声の出どころを見ると、いるはずのないクリスがいた。クリスは見たことないくらいしょぼくれている。
「あのね」
「やっぱり俺のこと嫌いだったんだ」
俯いていたクリスは突然前を向いた。その瞳には涙が浮かんでいて、エリーは戸惑う。
「違う、私がクリスを嫌うわけ」
「でも、さっき言ってた」
クリスは深呼吸をして、笑顔をエリーに見せた。その笑顔はいつもクリスが頑張って作ってるうわべだけのものだとエリーは知っていた。その笑みを自分に向けられたことがとても怖く、エリーも泣きそうになる。
「さよなら、エリー」
まるでそれが本当のさよならみたいで、もう二度と会えなくなってしまう予感さえした。
私は間違えた。
夜になりもうとっくにいつも寝ている時間を過ぎていたが、エリーはどうしても寝ることができなかった。一日の出来事が多すぎてうまく気持ちを整理できない。
「私は間違えていたんだわ」
クリスのあの笑顔を思い出すたびに胸が締め付けられる。
「決めた!」
エリーはベッドから元気よく起き上がる。
「私、頑張る!!」
「おはようございます、クリス」
「あ、ああ」
クリスは気まずそうに顔をそらしたが、エリーは気にせず笑顔でいつもは言わないことを言ってみた。
「今日も大好きです」
「は……」
クリスは目が点になるくらい驚いている。こんな表情初めて見た。エリーはそれだけで嬉しくなって、上機嫌になる。
「これから毎日言い続けますね」
「は、え、なんで」
クリスは口をパクパクさせていたが、周囲の人々はいきなり沸き立った。
「尊い、尊いわ!」
「お前ら他所でやれよ!」
クラスメイトは私の突然のデレに沸き立っていたが、注目の的になったクリスは顔がだんだん紅潮していく。
「っ」
「あ、待ってください!」
クリスはその場から脱兎のごとく逃げ出した。
効果抜群だったみたいだ。今まで自分の好きという気持ちをなかなか恥ずかしくて言葉にできなかった。でも、私はクリスと婚約破棄なんてしたくない。でもそれが現実になってしまってもいいように。私の好きという気持ちを全部クリスにぶつけてしまおうという作戦だ。
一限目:体育
「戦う姿も美しくて好きです」
「な、何を言って」
体育の授業で剣技があるたび私はこっそりとクリスの勇姿に見惚れていた。でも、今日はそれを隠さずにそのまま言葉にしてみる。
クリスはまた沸騰しそうなくらい顔を赤くしている。
「照れている姿も好きです」
「っ」
またしてもクリスは顔を真っ赤にしたままその場から走り去っていた。
二限目:数学
婚約者だからと当初から隣り合う席にしていたせいで、クリスはどこか気まずそうに顔をそむけていた。だがノートをとる手は止めない。そんな真面目なところも。
「好きです」
「な、授業中だぞ」
たしかに今は授業中だ。ならばみんなの迷惑にならないよう声を小さくしてみよう。
エリーはクリスの耳元に近づき囁いた。
「授業に集中なさっているその横顔も好きです」
クリスは物音を立て、椅子から崩れ落ちてしまった。へなへなと耳に手を当て、顔は赤面していてまるでのぼせているみたいだ。
「大丈夫ですか」
思わず立ち上がり手をかそうと差し出す。クリスは手を取りかけて、止まった。
「大丈夫だ」
本人は冷静に言おうと頑張っているのだろうが、はたから見るとただ照れているのを隠そうとツンツンしているだけに見える。
「そんなかわいいところも好きです」
「だ、だから!」
「そこうるさい!授業に集中なさい」
先生に怒られてしまった。
三限目:国語
「クリスさん、ここをよんでください」
「はい」
クリスは立ち上がり朗読を始めた。この国に昔から伝わるフェアリーテイル、つまりはおとぎ話だ。クリスの声は優しく耳に響いて、まるで天使のように綺麗だ。
読み終わり、クリスは浅く息をついた。人前で話すことが苦手なクリスは授業での発表でもきっと緊張しているはずだ。
「すばらしい朗読でした。ありがとうクリスさん」
「いえ」
先生から褒められたクリスは嬉しそうだ。
ゆっくりと席につくクリスに小声で話しかける。
「クリスの声も好きです。ずっと聞いていたくらい」
「き、君な……」
クリスは赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いた。
四限目:薬学
薬学教室に移動し、それぞれが実験着に着替える。実験着に身を包んだクリスは大人びて見えて、かっこいい。
「実験着を着ている姿も好きです」
「い、いいかげんに……」
怒っているような顔をされても、そののぼせ顔で言われたら説得力がない。私はにっこり笑った。私を見て、クリスは不機嫌そうにしたが先生が話し出すとすぐに授業に集中しだした。
今日はペアで睡眠薬を作るみたいだ。
「クリス、一緒に」
「おい、アオバ!一緒にやるぞ」
誘う寸前にクリスに逃げられた。いつもペアだったのに、避けられてしまった。
「え、俺?でもクリスにはエリーちゃんが」
「いいから」
クリスはアオバの肩を強引に抱き、逆方向へ歩いていく。
「じゃあ、うちと組む?」
「アイリ。ごめん、ありがとう」
ここは大人しく引き下がるべきだろう。私はアイリを実験の用意を進めていく。
「今日はどうしたの?やけにエリー頑張ってるよね?」
「うん。実はね」
クリスと婚約する前から親友だったアイリには話しても大丈夫だろう。そう思い、誰も聞かれないように昨日のことを打ち明けた。
「え、まじで?でもまだ婚約破棄はしてないよね?」
「うん、だって婚約破棄って親の許可もいるし」
なんて話しているとどこからか大きは破裂音がした。するといっきにあたりに煙が充満する。
「窓を開けなさい!」
先生の声がして慌てて近くの窓を開ける。煙が外に流れ出していく。姿をあらわしたのは髪が爆発しているクリスとアオバだった。
「あー、失敗、失敗」
「お、お前」
涙目ながらに怒りをあらわにするクリス。みたこともない髪型をしたクリス。そのどちらも。
「好きです」
「ば、バカにしてるだろ!」
お昼休み
お昼ももちろんクリスに避けられ、一人ご飯になるかと思っていたがアイリが一緒にどうかと誘ってくれた。
「もちろん!」
「よし、じゃあさ相談も乗ってあげるから人通りが少ない中庭で食べない?」
相談まで乗ってくれるなんて。やっぱり持つべきは友達だ。
アイリの提案を受け入れ、私達は中庭のベンチでお昼ご飯を食べる。
「それで、クリスったら」
「あはは、本当に?」
どんな話でも楽しげに聞いてくれるアイリには感謝の気持ちでいっぱいになる。
「アイリ、ありがとう。こんな私の話聞いてくれて」
「ふふ、大丈夫だよ。でもちょっと以外だった」
にっこり笑うアイリは空を見上げた。
「だって、エリーはクリスのために頑張ってたし、それにクリスのこと大好きって私でもわかるくらい愛が溢れてたし」
「え、本当?」
自覚はなかったがそんなに溢れていただろうか。
「だけど、振られたって聞いて驚いた」
振られた。そう他人から言われると現実なんだと改めて感じてしまう。こんなことしても無駄かもしれないと、今まで目を向けないようにしていたことに気づく。
眼の前が潤んできて、今にも泣いてしまいそうだった。
「あいつ馬鹿だよね。こんなに自分のために頑張ってくれる人がいるのにさ」
「アイリ。ありがとう。でも私に悪いところがあったのかもだ、し」
いきなり睡魔に襲われて、座っていられなくなる。傾いた体をアイリが支えた。
「ア、イリ、ごめ。なんかねむた、くて」
「うん。今まで頑張ってきた分の疲れだよ。きっと」
アイリは私を抱き上げた。
アイリって女の子なのに力が強いんだ。あれ、アイリって女の子だったっけ。小さなころはくんづけでよんでたような。
「あいつより僕のほうがエリーを幸せにできるよ」
その言葉を最後にエリーは意識を手放した。
五限目:歴史
歴史は唯一の得意教科だった。なぜならエリーが歴史の物語が好きだったから。かつての英雄の話が特にお気に入りだった。英雄が魔王を打ち破り、姫と結婚し幸せに過ごすお話。
エリーの喜ぶ顔が好きで他の物語を覚えてきてはそのたびに話を聞かせていた。
「あら、エリーさんは?」
隣の席にいつもいるはずのエリーはいなかった。
「アイリもいません」
一人の生徒がそう言った。
「体調が悪いのかしら?後で保健室に連絡を取ってみますね。さあ、では皆さんは授業を始めましょう」
どんなに体調が悪くても体にムチを打って授業にでていたエリーが欠席するなんて、初めてのことだ。そんなに体調が悪いのかと心配になったが、首を振る。
もうエリーは婚約者ではなくなるのだから過度に踏み込みすぎるのはよくない。
「エリーちゃんが心配?」
「アオバ」
「俺もアイリがいないから隣いなくて、お隣座っていい?」
「別に構わないが」
アオバは笑って、いつもエリーが座る場所に腰掛けた。
「エリーちゃん大丈夫かなー」
「大丈夫だろう。彼女はそんなやわじゃない」
アオバがエリーのことを話すと無性にイライラする。
「えー。そうじゃなくてさ」
「そうじゃないならなんなんだ」
アオバはきょとんとしている。そのアホ面にも腹が立つ。
「え、もしかして忘れてんの?」
「は?なにがだ?」
「まあそっか。昔のことだし、本人も言わないし」
言っていることの意味がわからなくて、ついカッとなる。
「どういうことだ?言え」
「もしさエリーちゃんとアイリが一緒にいたらかなり不味くないってこと」
「なぜだ?」
「えー、だってさ婚約者がいる女の子とその女の子が好きな男の子が一緒にいるんだよ?それにお前婚約破棄しようって言ったんでしょう?あいつ絶対今がチャンスだって動いてると思うけど」
エリーがアイリと仲良くしていることは知っていた。でもそれは女同士だから許していた。だが、アイリが男?そんなわけがない。
「アイリは女だろう」
「違うよ。あいつエリーのこと好きで、でも婚約者ができたら男は近づけないから女になるって小さい頃言ってたもん。だからあいつ男だよ?」
アオバの話を聞いているとゾッとする。エリーだけのために女装をして近づくなんて。少し気持ち悪さを感じる。
「なんで言わなかった」
「だって、本人もいうつもりなさそうだったし。お前とエリーちゃん仲よさげだったからあいつが入る隙もないよなーって」
今すぐ探しに行かなければいけない。立ち上がろうとしたがある思いが胸を支配した。
婚約破棄をいいだした俺がエリーを迎えにいっていいのか?エリーは俺が来ることを望んでいるのか?アイリと一緒のほうが幸せになれるのでは?
「お前、なに迷ってんだよ。いますぐいけよ」
「でも、俺は」
泣きたくなる。無力な自分が一番嫌いだ。エリーに似合う人になろうと頑張ってきたのに。
「お前、今日のエリーちゃんを思い出してみろよ。お前に婚約破棄するって言われて彼女はすぐに諦めたか?」
「違う。エリーは俺に」
好きだと何度も伝えてくれた。
「好きだって言ってたんだろう。お前と婚約破棄したくないってことだろう?」
「そうだよな」
俺も本当は。
「先生!俺、残りの授業欠席します!」
言うなり、クリスは駆け出した。
「え、く、クリスさん!」
先生の声が後ろから聞こえたが、そんなこと気にしている時間がない。早くエリーを助けなければ、それだけがクリスを突き動かした。
「エリーはずっと可愛いね」
「そ、そう?ありがとう」
エリーはなぜかアイリに押し倒されていた。いきなり睡魔に襲われ倒れかけたところを助けられ、そのままベットの上に連れてこられたみたいだ。
「ねえ。アイリって男のだよね?」
「あ、思い出したの?そう、僕は男だよ」
妖美に笑うアイリの瞳には怪しげな光が宿っている。危険を感じたが、アイリに手を掴まれていて逃げられない。
「あ、あの、アイリ。授業始まっているしいかなきゃだよ?」
「そんなのどうでもいいでしょう?ようやくエリーと二人っきりになれたんだから」
いつものあの可愛いアイリはどこへいったのだろう。授業が始まっているのに。
「私、授業受けないと!じゃないとクリスに似合う人になれない!」
「なんで?エリーは婚約破棄されたんでしょ?」
「そ、そうだけど」
アイリからの言葉に空いた口が閉まらない。
そうだ。私はクリスにひどいことをして婚約破棄しようと言われた。私はもうどんなに努力を重ねてもクリスの隣に立てない。
現実を突きつけられて、抗うのをやめた。
「そうそう。クリスなんか忘れて僕と婚約しよう。絶対クリスより幸せにしてあげるから」
アイリの悪魔のような囁きに身をまかせる。
「ごめんなさい…、クリス」
外から大きな音が聞こえる。アイリは舌打ちをした。
「なんだよ。せっかく今からなのに」
「エリー!!」
聞き覚えのある声にエリーは目を開ける。そこには息も服装も乱れて、とても白馬の王子様とは言えないクリスがいた。
「クリス!」
「なんで今更。お前はエリーと婚約破棄するんだろう!」
クリスは大きく息を吐き、ゆっくりと近づいてくる。
「婚約破棄しない」
その言葉にエリーは大きく目を見開く。
「は、なんで。どうせすぐまたエリーを捨てるんだろう。そしてまたエリーは悲しむんだ」
「もう悲しませない」
クリスはエリーの前まで来て、膝をついた。
「俺と結婚してください。もう絶対エリーを悲しませない。だって、俺達両思いだったんだよね?」
「え、クリスも私のこと好きなの?」
今まで私の一方通行だと思っていた。幼馴染だから話を聞いて、婚約者だから一応の務めを果たしてくれただけだと思っていた。
「ごめん。そうだよな。俺、恥ずかしくて愛情表現ができなくて」
「そ、そんな私こそ」
私こそ婚約者という立場に満足して行動に示せていなかった。
「それなのに、エリーは俺のために努力してくれて。でも日に日に君はやつれていった」
「やつれてなんか」
「いや。君は化粧で隠した気になっていただろうが、うっすらとくまが見えた。化粧で隠して見えたんだ。相当疲れがたまっていたんだろ」
「でも、それを言うなら。クリスだって毎晩勉強してるし、筋トレもしてるし、人見知り直そうと頑張ってるし。だからもっと頑張ってクリスに似合う人にならなきゃって」
それを聞いてクリスは笑い出した。
「な、なに?」
「いや、俺達だいぶすれ違ってたんだね」
クリスはまっすぐエリーを見つめた。
「俺は、そんな頑張っているエリーを見て、俺もエリーに似合うひとにならなきゃって頑張ってたんだ」
「え、じゃあ」
「ああ、お互いに頑張りすぎてたんだな」
こんなに簡単なことだったんだ。
お互いに似合う人になりたいと頑張りすぎて、気持ちを伝えることを忘れていた。馬鹿だなと思う。でもそれさえも今なら愛おしい。
「私、クリスのこと好き」
「俺もエリーのことが好きだ」
額に甘い口づけが落とされた。
「ここは唇にじゃないの?」
「そ、それは、まだ、早いだろう?」
赤面しているクリスは困ったように笑った。
「なんだよ、それ〜」
そこでようやくアイリの存在に気づく。アイリは泣いて地べたにうずくまっていた。
「アイリ。ごめんね。あなたの気持ちには答えられないけど、これからも友達でいてほしい」
「そんなの、エリーのお願いを断れるわけ無いだろう」
泣きながらエリーは笑っている。
「あ、見つけた〜。おお、もう終わったみたいだな」
「アオバ」
アオバはエリーに優しく微笑みかけた後、地べたのアイリに話しかける。
「残念だったな、アイリ」
「うん、でもエリーが幸せならまだ許せるから」
キッとアイリはクリスを睨みつけた。
「大丈夫。これからもっと幸せにする」
「うん、エリーを頼んだよ」
アイリは力なく立ち上がって部屋を後にする。
「アイリ、ありがとう」
エリーの言葉にアイリは振り返った。
「うん!」
「アイリ」
「アオバ」
もう泣かないと決めたのにアイリの瞳からはボロボロと涙が溢れていく。
「ああ、振られちゃったな。もう生きていけないかもー」
「アイリ」
アオバはアイリを抱きしめた。
「なに、別に君にされても嬉しくない」
「俺、アイリのこと好き」
は、とアイリの口から息が漏れる。
「え、なに冗談?笑えないよ?」
「割と本気なんだけどな」
腕の力が緩んだ。アイリはアオバから一歩離れる。
アイリが見たアオバの顔は――。
「おはようございます」
「おはよう」
あの事件から数日。
私達は先生から授業を無断欠席したこと、途中で走り出したことを怒られた。でも、あの出来事の後だったこともあって、怒られていることさえ忘れてニヤニヤしてしまった。
私達はあれから一人で頑張るだけではなく二人で頑張ろうと誓いを立てた。そしてもう一つ誓いを立てた。
「クリスは今日もかっこよくて素敵です!好きです!」
「今日のエリーもかわいい。好きだ」
一日一回は好きということ。
これは今まで伝えられなかった分も伝えるために作られたものだ。お互いの気持を確かめあえるこの誓いは二人にとって大事なものだと思う。
クリスからの好きという言葉にエリーは浮足立つ。
「だが、夜ふかしは関心しないな」
「え、ばれて!?」
クリスはエリーの頬を優しく包み、キスをした。
「無理をしたバツだ。俺達は二人で頑張るのだから。勉強の悩みならなんでも聞いてくれよ?」
クリスは笑っていた。それは、エリーだけに見せる愛おしさに溢れた太陽みたいな笑顔。
「はい。クリスこそ、悩みがあったら私に言うんですよ?」




