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会場全体に突如強烈な光がさす。

その場にいる全員があまりの眩さに目を閉じ、落ち着いてきた頃合いに開けると、見上げた空間に人の様なものが見えた。

後光によってその姿はシルエットにしか見えないが、長いローブを纏う格好は誰もがこう思っただろう。


“神が舞い降りた”と。


「…神様…?」


あの女がそう呟いた事で、先入観が働いた。


「神だ…神様がいらっしゃった」

「成人をお祝いしに来てくださったのか」

「いや、もしかしたら何かのお告げかもしれない」


言いたい放題だなと思いながら、これは好都合と自らやった演出に茶番を加える。


「人の子らよ。正しき道を選べ。選択を間違えるな」


バレないかと少しヒヤヒヤしながら口を開く。姿は光の魔法で誤魔化せたが、声までは変えられない。

ここにはこの時空での俺もいるし、ヴィエラもいる。俺の存在に気付かれたら、時空が歪んでしまう。


ザワザワした中で、真っ先に声を上げたのがクリストファー様。当然ではある。誰も、王族を差し置いて発言する無礼はしない。


「神よ!発言をお赦しください」

「赦す」

「ありがたき幸せ。…では、僭越ながら」


威儀を正し、口を開く。


「今まさに、決断を迫られていると確信しております。誠に恥ずかしながら、私には判断出来るだけの情報が少なく、どうかご慈悲を」


それもそうか。

俺だって、全てを知るまで混乱状態だった。ある日いきなり「選べ、片方は破滅だ」って言われたらどうしようもない。


ここは至ってシンプルに、現状の説明をするのが最善かな。


「では一つ、揺るぎない真実を。そこの人間が所持していた物は、魅了の呪いがかけられていた。悪魔が授けた物だ」

「悪魔…!?」


騒然とした中で反論するのはあの女である。


「何かの間違いです!これは神様のお告げでいただいたもので、お守りです!悪魔だなんて、そんな筈…!」

「では、証明出来るか?」

「…っ」

「お前は、その“お守り”で何をしようとしていたのか、説明が出来るのか?」

「……っ!」


悔しがる表情。素直に吐けば良いのに。

“クリストファー様やみんなを虜にさせて、チヤホヤされたかった”って。まあ言える筈がないか。


「……私は、“全て”を見てきた。お前が何を企み、何をし、そしてどうなるのか」

「どう、なる…って…」

「国家の破滅だ」


クリストファー様が驚愕の表情で女を凝視した。

全ての未来で女が己の欲望に忠実になった結果、周囲を巻き込んでの破滅をもたらしている。そこに俺という存在がいたのも要因の一つだろうが、間違いなく最大の原因は女の我欲。


「さあどうする。己の罪を認め、裁きを待つのか。それとも言い逃れをし、更に重い罪を背負うのか」


俺が決断を迫ると、女は手をきつく握り締めたあと、破片を掴み自身の手のひらを傷付けた。

その一連の行動に周囲は動揺し一気に遠ざかる。


「メフィ!?」


クリストファー様の呼びかけも無視し、血の滴る手のひらを下に、女は叫ぶ。


「来てよ、神様!!私を助けて!!」


再び、メフィストを召喚しようとしたのだ。











しかし、何も起きなかった。

召喚陣すら現れない。メフィスト自身は天界に行ったので喚びかけに応じないとは思っていた。

それでも万が一他の悪魔が来てしまったらと懸念していたが、どうやら杞憂だったようだ。お呼びがかかれば来るが、勝ち目がなければ見捨てる。それが悪魔なのだ。


床に溜まっていく血があまりにも猟奇的で、周囲の令嬢は倒れてしまうし子息も顔をしかめている。


「…………結論は出たようだな、人の子よ」

「…っ衛兵、メフィを捕えろ!」

「!!やだ、離して!!」


もう言い逃れは出来ない。

召喚術を行う際、何を使うかでそれが神聖なものか邪悪なものかが判別できる。

神聖なもの。例えば神獣や天使といった、神の使いを呼ぶ際は信仰心か聖水のような聖なる物。

邪悪なもの。悪魔や魔物といった、地獄の使者を呼ぶのなら血液や髪、ようは“生け贄”が必要となる。


あの女が召喚に使ったのが血液なので、喚ぼうとしたのは神ではなく悪魔という証拠になる。


図らずも、自白した、という事だ。


衛兵に拘束された女に、クリストファー様は冷静だが悲しそうに告げた。


「メフィ…。君が今召喚しようとしたのは悪魔だ。血液を使って呼び出せるのは、地獄の使者。…悪魔しかいない、というのは知っているかい」

「そんなの知りません!だってあのお守りを貰った時だって私は血を使ったんです!それで神様は自分で神だって名乗ってました!!」


知識不足と言うより、無知なのか。


「……何故、血を使ったのかは聞かないでおくが、血で神は召喚出来ないよ。名乗ったからと言って、それが真実だとも限らない。……悪魔は、己の欲望の為なら平気で嘘を吐く存在だから。………だから、私達は契約する時も細心の注意を払う。破滅しない為に」

「…ッ!」


知ろうともしなかった。知識不足は努力で補えるが、無知となると話は別。

女は、己の欲が為に目先の誘惑に負けた。知り得た筈の情報を、自ら見落として。

無知は罪である。


「禁忌である魅了の魔道具の所持、悪魔を召喚した疑い。君を国家反逆罪及び国家転覆罪の容疑で拘束する。……この件は国王陛下の耳にも入れるが、極刑は免れないだろう」


“極刑”と告げられ、女もとうとう己の立場を理解したのかその場に脱力した。抵抗しなくなったので衛兵も静かに連行し、会場はしんと静まり返る。

クリストファー様が俺に振り返り、膝をついた。そして首を垂れる。


「……大変お見苦しい所をお見せいたしました。また貴重なお告げ、心より感謝申し上げます」

「…よい。私は己の本分を遂げたに過ぎぬ。決断したるはそなた自身。王族として、恥じぬよう精進する事だ」

「はっ」


…これで、本当に全部終わった。

ちらりと会場を見渡して、俺とヴィエラが無事な事も確認する。


最後にもう一つだけ、言い残しておこう。

俺への餞別だ。


「愛や恋心は本来己の力で叶えるもの。決して他の力に頼るな。悪しき力は悪しき結果しか生まない。それを心に刻み、大切なものを決して見失うな」

「…有難き神のお告げ。それに従い、我らそのお言葉を忘れる事なく精進して参ります」

「うむ…」


手元の懐中時計に視線を移し、魔力を流す。

強い光に包まれ、周りはあっという間に真っ白な空間へ。






❇︎❇︎❇︎







「…終わらせてきたよ」

「……ああ」


天界にて、目を開けた先にいたクロノスに、事の顛末を伝える。


「あの女は極刑に処されるだろ。もう召喚が出来ないように対策も取られる筈だ」

「ああ…」

「メフィストは?お前のところに送った筈なんだけど」

「先程、転生の儀を施した。改心したメフィストに天使への昇天も提案したが、本人が人間になりたいと言った」

「え。悪魔が天使になる事もあるの?」

「良い行いをすれば可能性もある。あとは、私の采配でも決まる。今回は本人の希望で人間に転生するが、それが何年後になるのかは運次第だ」

「へえ。メフィストが、人間に」


どんな姿で産まれるのか、少し興味はある。


「イライアス。我が半身よ。此度の行い、我が身に代わり成し遂げてくれた事、感謝する」

「何だ、改まって…」


手を広げて急にそんな事を言い出すので、無駄に緊張が走る。


「あらかじめ言っていた“試練”に対する報酬だ。…私が思っていた以上の成果をもたらしてくれた。故に、お前を元の時空に戻そうと思う」

「あ、俺消えずに済むんだ?」

「ここで消えたら私がフィエナから怒られてしまう」


俺の足元に魔法陣が広がる。

元の時空にって言うけど、いつの辺りに戻れるのか。聞いた方が良いのかな。


「クロノス。一応聞いて良いか。元ってどこの時空?」


するとクロノスはお茶目な顔をして。


「戻ってからのお楽しみだ」

「なんだと」


強い閃光。結局、具体的な時空については教えてもらえないまま、その眩しさに目を閉じた。












パッと目を開けると、そこはいつぞやのパーティ会場で。

いやこれは。どっちの時空だ。最初のパーティ?それとも二度目のパーティ?


途端に不安が押し寄せてきて、無意識に辺りをキョロキョロと見渡して。そうしたら。


「イライアス様?どうされました?」

「……………ヴィエラ…?」


そばに、彼女が。

守りたかった彼女が。

愛してやまない彼女が、そこにいた。


「……あ、何でもないよ。大丈夫」

「そうですか…?あの様な事があったばかりです。あまりご無理なさらないで」


“あの様な事”と言われまさかと思い、人集りの中異様に空いた空間を見れば。


そこには、血痕。


「え」

「あまりにも突然でしたもの。…わたくしも、直視していなかったからまだ平気ですけれど」


これはあの直後、なのか。

そしてヴィエラが衝撃の名を呼ぶ。


「メイヴィス。イライアス様に何か飲み物を」

「かしこまりました、お嬢様」

「え」


!!?

聴き覚えのある声に、その人物へ振り返って驚愕する。そこには、かつてフィエナを殺害した筈の女、もとい人間に化けていた頃のメフィストが。

悪魔メフィストの面影を持つ侍女が甲斐甲斐しくヴィエラに付き従っていた。


「どうぞ、イライアス様」

「あ、え、…あ、ありがとう」


グラスに入った水を渡され、困惑しつつも礼を言うと侍女は会釈をしてヴィエラの背後へ下がる。


何でメフィストが?

いやそもそもヴィエラには専属の侍女などはいなかった筈だ。屋敷勤めのメイドはいるが、令嬢も身の回りの事は自分で出来る様にと教育されている。

それにどう見てもメフィスト。

ヴィエラは彼女をメイヴィスと呼んでいたが、専属なのか?


「…本日の宴は一時中断とする!後日改めて招待状を送るので、すまないが全員解散してくれ!」


クリストファー様の声で、それぞれが帰りの馬車を手配し続々会場を出始める。


顔色の悪い令嬢子息を見る限り、間違いなくここは俺が茶番で神を演じた直後の世界。

何でここに、とは思うが。


「ヴィエラ様。馬車の手配は済んでおります。イライアス様もご一緒に」

「ありがとう、メイヴィス。イライアス様、行きましょう」

「ああ…」






❇︎❇︎❇︎







あれよあれよと馬車に乗り帰路へ。

何故この時空に戻されたのかも不明のまま、俺は目の前のヴィエラをこっそりと見る。


どう見てもヴィエラだ。まごう事なく。

誰かに現状を確認したいところだが、果たして相談出来る相手は…と思ったところでふと己の手を見る。


ルシファーとの契約印が、そこにあった。


時空を越えたのに。

明らかに別の存在である筈の俺の手に、それがある。

繋がってるんだ、二人とも。

良かった。


「イライアス様。やはりどこかお加減でも…」


自分の手を見つめた俺を心配して、ヴィエラが不安そうな表情をする。


「いや、大丈夫。何でもないよ」


にこっと微笑んで安心させる。

ふと、御者席に座る侍女の事が気になった。

慣れた仕草で馬車を運転する侍女。何度思い出してもヴィエラのそばには彼女がいたという記憶がない。もしかして、どこかでまた違う時空が生まれたのか。

しかしそれだとクロノスがあえてこの時空に“戻す”という発言と矛盾する。


「ヴィエラ。きみの侍女なんだが…」


言葉は慎重に選んだ。

もしここで、実は既に知り合っていて俺が“知らない”と言えば、またややこしくなってしまう。けれどもそれも杞憂だったらしい。


「ご紹介が遅れて申し訳ありません。彼女は数年前に私専属の侍女になったメイヴィスです。孤児院育ちで働き口を転々としていたところ、私の父が彼女の事を知って…。私と同い年という事もあって雇われたんです」

「……なるほど」

「少々無愛想に見えると思いますが、育った環境と今までの労働環境のせいなので、お気を悪くなさらないでくださいね…」

「いや、そういう意味じゃないんだ、本当に」

「何かご気分を害された、とかではなく?」

「うん。侍女の中にあんな子いたかな、って思っただけなんだ」

「ああ…。ふふふ、あれでも、私と二人の時は、姉妹の様に接してくれるんですよ?」


意外だ。ヴィエラが、楽しそうに他人の事を話す。そういう相手が今までいなかったのだろう。

そしてメイヴィスと呼ばれた彼女が、ヴィエラに心から尽くしている事が分かる。


「…信頼してるんだな」

「ええ。両親に話せない事も、メイヴィスには話せます」

「俺の事も何か話してるの?」


するとモジモジしながら、照れくさそうに。


「…イ、イライアス様は、どんな物が、お好き……かしら………とか………」

「………ッ!!!」


何だその可愛い相談。


「その……メイヴィスはとてもセンスが良いので……ついつい、何でも相談してしまうのです…」


ニヤついた顔が止まらない。










屋敷で降ろしてもらって、メイヴィスにも会釈をする。記憶が無いのか、それとも無い振りをしているのか。侍女は営業的な態度しか示さなかった。


予定より早い帰宅に両親は不思議がっていたが、あらましをざっと説明して後日また行くとだけ言っておいた。自室に戻り、他人の目がない事を確認して、とうとうその名を口にする。


「ルシファー。ガブリエル」

《無事に終わったようだな、主よ》

《いつお喚びくださるのかと思っておりました》


即座に現れた悪魔と天使に、俺はようやく安堵した。


「待たせてごめん。色々ありすぎて」

《ふふ。心なしか、男前度が増しましたね、あるじさま》


ふと、自分が笑えている事に気付いて、そういえばクロノスに会った時から緊張しっぱなしで、メフィストとの時なんかは集中してて、今緊張が解れたのだと分かった。


「二人に、確認したい事がある。ヴィエラの侍女は見たか?」

《遠くから観察はしておりました》

《クロノスが気を利かせたらしい。主の記憶や我らの再会も、本来ならあり得なかった事だ》

「メフィストの生まれ変わり、なのか」

《魂を見る限りはそうだ。記憶まで奴なのかは我らとて分からぬがな》

「…確認の仕方は」

《ご本人に直接、ですわね。そもそも記憶があるのかも怪しいですし…魂を転生させたとしてもクロノスが記憶まで継承させているかはまた別物ですわ》


本人に、「お前は元悪魔のメフィストか?」なんて聞いたら失礼過ぎる。


「……あと、お前らに聞きたい事もある」

《大体の察しはついておる》

《あるじさまと、クロノスの事ですわね?》


二人とも特に驚きもしないところを見ると、知っていた、という事か。


《神が分身体を創るのはまあ珍しい事ではない。分身体としての自覚があるかないか、というだけだ》

《それにわたくし達は魂と本質を見るのに特化していますので、分身体と知ったから何かが変わる、という事もございません》

「そ……か」


何だか拍子抜けした。二人は、俺が分身体だと気付いていた上で、俺に仕えてくれていたのだ。


「俺の事、ヴィエラに話すべきか迷ってるんだけど」

《主の好きな様にしたら良い》

《話てはならない、という事もございませんわ。ただ、相手が信じるか否か、です》


見えない者に信じてもらう為の材料が必要。となると、一つ考えはあった。






❇︎❇︎❇︎








後日招待状が届いて、会場へ向かう前に寄りたいところがあるとヴィエラを誘った。

そこは、かつて俺がクロノスを召喚する為に訪れた教会。


「イライアス様?」

「突然誘ってごめん。君に、どうしても会ってほしい人達がいて…」


ヴィエラの手を取り、ガブリエルを喚ぶ。俺の背後にバサリと羽の音。

視線が俺の後ろに移ったので、彼女にも見えているのだと分かった。


「……天使、様?」

《ガブリエルと申します》


やはり。

前世がクロノスに仕えていた巫女で、信仰心の厚いフィエナだった彼女は、他の人間よりも信じる心が強いと踏んでいた。


「俺に仕えてくれている、天使のガブリエルだ」

「仕え、え?」


そしてもう一人。


「…ルシファー」


黒い翼の持ち主。


「あ、悪魔…っ?」

《お初にお目にかかる、婚約者殿》


さすがに悪魔ともなるとヴィエラの顔が強張って警戒していた。


「…こっちは悪魔のルシファー。驚くだろうけど、契約して俺に仕えてくれてる」

「け、契約……どうして…」


何て、説明すべきか。契約の経緯は俺の遡りだが、それは言えない。


《好いた女を衛る為、強くなりたいというのが主の希望だ》

「ちょ!?」


いや間違いではないんだけど!!

その通りなんだけどさ!!?


「す……」


ヴィエラが真っ赤になった。

待ってくれ、それ本人の前で言っていいやつじゃない。


《何だ主よ。まだ想いの一つも告げておらぬのか》

《こら、ルシファー。あるじさまをからかうものではありませんわ》


二人が好き勝手言ってる。

いや、悠長に構えている場合でもないのかも。

強くなって、問題も解決したと思って。結果想定外が起こり自分の口で想いを告げられずに終わってしまった光景を見ている。


もう、同じ轍は踏まない。


「……ヴィエラ」

「は、はい」

「聞いてほしい事がある」

「はひ…」


幸いにも。そういうつもりではなかったにしても。

ここは“誓い”を立てるには最適な場所なのだ。


「…ルシファーと、ガブリエルも、立会人を頼めるか」

《喜んで承ります》

《悪い気はしないな》


その場で跪き、ヴィエラの手を取る。

緊張と興奮で、その顔はとても赤い。

が、決して嫌な気持ちにはならなかった。


「……ヴィエラ。これまでの俺は、ずっと君に寂しい想いをさせてきたと思う。俺自身、ちゃんと君を大切に出来ていなかった。だから、今ここで、君に誓う」


ふと、天からクロノスが見守っているような気がした。

…ああ、何だ、ずっとそこにいたのか。


「イライアス・レヴァーノンの名にかけて、ヴィエラ・パトリクスを生涯の妻とし。––––愛する事を誓います」

「……っイライアス様…」


その瞬間、教会の鐘が鳴り響く。

本来鳴る筈のない時間だ。ここには天使もいるのでてっきりガブリエルの祝福かと思ったのだが。


《…ふふ。どうやら神の祝福の様ですね》

「神…?」

《我らが父、天界のぬし、クロノスですわ。ヴィエラ様》


ガブリエルがそう言うと、上から光が現れて導かれる様にガブリエルの手元へと降りてきた。


《あるじさま。ヴィエラ様。クロノスからの、祝いの品でございます》

「えっ、クロノスからの?」

《はい。どうぞお受け取りくださいまし。祝福の証でもありますわ》


その光は収まったかと思うと、対の指輪となっていた。


《この指輪には、クロノスの加護とお二人が末永く幸せになれる様にとの願いが込められています。人間界に存在するどの様な宝玉もこれには敵いません。文字通り、地上に現存する全ての遺物の中で、神話級の価値があるものですわ》

「そんな凄いものを祝福とはいえ貰っていいのか」

《お二人には貰い受ける資格があります》


ちらりとルシファーを見ると、ニヤリ笑った。


《受け取っておけ、主よ。神直々の贈り物なんぞ、そうそうないぞ》

《ここでお二人が受け取らねば、それこそ悪用されかねませんわね》

「えぇ…」


もはや脅しである。


「………本当に、いただいてしまって、よろしいのですか」

《お受け取りくだされば、神もお喜びになるでしょう。勿論、わたくし達も》

「……イライアス様」

「…うん」


ガブリエルから指輪を受け取って、ヴィエラと向かい合う。

…まさか、クロノスから贈り物を貰うとは思わなかったな。

あの懐中時計はもう使う事はないだろうが、この指輪は生涯現役となる。


「……ヴィエラ。返事、聞いていいかな」

「…………もう、ご存知でしょうに」


よく見てみたら涙目だ。可愛い。


「………私も、生涯イライアス様を愛し抜くと、誓います」


ヴィエラが可愛くて、愛おしくて。自然と笑顔になる。

指輪をヴィエラの左手薬指に通して、また鐘が鳴った。そんなに俺達の誓いが嬉しかったのかな。












その後、パーティ会場でクリストファー様にヴィエラへ婚約(結婚含む)指輪を贈った事を伝え(神からの直々の贈り物である事は伏せて)、互いの両親にも個人的に求婚した事を報告(ルシファーとガブリエルの事は伏せて)、成人パーティは終えたのでトントン拍子に俺達は婚姻の儀へと進んだ。


あっという間の出来事だ。


純白の衣装で、女神の様に美しいヴィエラを目の前にして、感慨深くこれまでの事を思い浮かべる。


式の時間まであと少し。本番前に、もう一度。


「ヴィエラ。良く似合ってる。綺麗だ」

「…ふふ。イライアス様も、とても良くお似合いです」

「……神に誓う前に、君に誓うよ。……君を愛してる」

「……私も、イライアス様を愛してます」










fin

人物紹介


イライアス・レヴァーノン

まんまと魅了魔法にかかり自身も破滅させられた攻略対象。もう同じ轍は踏まない。


ヴィエラ・パトリクス

悪役令嬢に仕立て上げられた婚約者。事実無根の悲劇の令嬢。


メフィ・フェレストス

諸悪の根源。名前は誘惑の悪魔「メフィストフェレス」よりアナグラム


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