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5話 委員長の言うことはしっかり聞くようにしなければ……

 土曜日、ライムで共有された場所は案の定、有無を言わさず俺が無理やり入部されたあの日につれていかれた例の店であった。


「集合時間は昼過ぎか。まだ少しあるな。」


 俺の家はあの店が構えている駅から二駅先にある。

 電車の時間までまだまだ余裕があるし散歩でもしようか。


「んー?どっか行くのかぁ?」


 そう言うのは俺の姉である上杉千夏。


 プシュッと小気味の良い音を鳴らし、昼前だというのにストロングな缶を開けていやがる。


 一応、就職した後一人暮らしを始めたはずなんだがな。

 こんな風に休日は定期的に入り浸ってただ飯を食らっていきやがる。


 ちなみにいい年をしてラブラブな両親は愛すべき息子にだらしない姉を押し付けて二人で映画を見に行きやがった。


「ああ、部活の皆と懇親会をやることになってな。駅前のカフェに行くことになったんだ。」

「駅前?ああ、中央のか。」


 自分から聞いたのになんとも興味のなさそうな姉はくぅーっと一人幸せそうな顔を浮かべる。

 こんな姉はほっといて散歩でもするか・・・。


「あんま飲みすぎるなよー。じゃ出るわ。」

「おおー。大丈夫大丈夫。友達来るからー。」


 余計不安だが……。


 まぁ姉の言う友達とはあの人のことだし、大分不安も残るが大丈夫だろう。

 ここ2,3年会えてないが元気しているだろうか。

 

 細かいことは気にせず、俺はそのまま家を出る。


 結局、早めの列車で駅前に行き、適当に散策することにした。


「といっても、何も買うことないんだがなぁ。」


 最近俺がガキの頃にハマってたアニメのリバイバルもあってショップを見ることも考えたが……。

 同時に黒歴史も掘り起こされるので行くのはやめとくことにした。

 

 嫌いにはなってないし、グッズもまだ家にあるがどうしてもな……。

 

 はたして適当にぶらついていると俺の前に見覚えのある女が仁王立ちで現れた。

 たしかこいつは、


「アタシはメラ高の虎峯大河だ。アンタが例のタカヒロか?」


 なるほどこの前あいつと飯を食いに行ったときに話してたやつか。


 メラ高・・・このあたりでそう呼ばれているのは私立女良ヶ崎高校だな。

 俺の姉も通っていたところだが、変わらずヤンキー高らしい。

 今日は制服こそ来てないが特攻服のようなものを羽織っている。

 

 目立つ女である。

 

 はたしてどう答えたものか。


 俺を前にしてタカヒロというのだからまぁ俺に用があるんだろうが。


「一応、上杉隆宏なら俺のことだが・・・。何か用か?」

「はっ!アタシを前にして物怖じ一つしないとは噂以上みてぇだな。」


 彼女はそう言うと一歩前に踏み出して声を細めて言った。


「あ、あのさ。アンタ、アオイさんと同じ部なんだろ?な、なんか言ってなかったか?」


 先ほどの剣幕はどこへ行ったのか、彼女は乙女のように聞いてきた。

 碧・・・、もしかしなくても東雲のことであろうか?


「えーと、東雲のことか?」


 彼女はこくこくと頷き、うでをもじもじさせる。


「ああ、何かその手紙のこととか……?」


 手紙・・・手紙?

 そういえばこの前龍禅寺とかいうやつに手紙を渡していたな。


 もしや、それのことであろうか?

 いやだが、こんなヤンキーが清楚で風紀を重んじるうちの委員長に何の用があるのか。

 一つ、嫌な予感が頭をよぎるがすぐに降って払い、もう一つの可能性を懸念する。


「うちの委員長に何かしようってんじゃないよな?それは捨て置けないんだが……。」


 先ほどの様子から可能性は低かろうが、もしや何かしらの難癖を東雲が受けているかもしれん。

 それはちょっと捨て置けない。


 だが、俺のそれは杞憂であったのか虎峰はぽかんと目を丸くしてこぼした。


「アンタ、知らないのか?」


 俺が口を開こうとしたその時、後ろから声がかけられる。


「上杉さん・・・と大河ちゃん?」


 当の本人、東雲のご登場である。

 俺は一応彼女を守るように前に立つが、虎峰はそれをはねのけて彼女の前に飛び出した。


「あ、アオイさん!お疲れ様です!」


 はたして俺の悪い予感は当たっていたらしい。


 まぁ考えてみれば要素はあった。

 隙のない身のこなし、実家が武道場、例のナンバー1は秩序を重んじる厳格な女性であったという点。


 あの女狐、何が私も知らないだよ。

 絶対知っていたじゃねぇか。

 案外近くどころか同じ部の仲間じゃねぇか!。


 この分じゃあマオも知ってそうだな……。

 まったくあいつら。


「えーと、どういう状況ですか?」


 当の東雲は状況がつかめてないのか首をきょとんとかしげる。



 軽く事情を説明してやると東雲はふぅとため息をついて虎峰の肩をポンとたたいた。


「大河ちゃん。私の最後の言葉を忘れたんですか?」


 さて、その言葉を受けた大河はマスク越しでもわかるくらいに顔が青ざめる。

 聞いてる俺の背筋もキンキンだ。


「いや、その・・・。てっきり知っているもんだと。」


 長く息を吐くと、東雲は今度は聖母のような笑みを浮かべる。


「仕方ない子ですね。まぁ遅かれ早かれだったと思いますのでいいですが。」


 虎峰がホッと胸をなでおろすと、そうだ!と口を開く。


「あ、あの!手紙、呼んでくれましたか?」

「ええ。ええ、読ませていただきましたよ。」


 そういうと東雲は言葉を詰まらせながら続ける。


「ただ、なんですか、あの手紙は。勉強を教えてほしいだけならライムでよかったでしょう!」


 ぷんぷんと腕を振りながら普段見ないような姿を見せる東雲に少し新鮮味を覚える。


「それは、そうなんですけど。なんか想いがあふれちゃって……。」


 聞いた感じだとどうやらすごく愛にあふれた手紙を受け取ったらしい。


 まぁ委員長に危険がないのであればそれで良い。

 俺はそのまま空気のようにこの場を後にすることにしたが、東雲にはどうやらその手は通じないようだ。


「あ、上杉さん。今日のことは……ね?」


 唇に人差し指を当てた彼女の眼鏡の奥に光る瞳は氷のように凍てついていた。

 俺は声を出すこともできず、コクコク頷くととその場を後にした。

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