4話 なかなか面白いメンツが集まってしまった
気づけば、放課後。
みな同じクラスのはずなのに、部の仲間たちはどこかに消えてしまっていた。
「マオの野郎もどこ行っちまったんだ。」
俺は心の声を漏らしながら仕方なく一人で部室に行くことにする。
別に休んでもよかったのだが、昨日おごらせてしまった手前なんとも休みづらい。
それになぜだか知らんが昨日の今日でもう目標人数に達したみたいだしな。
初回くらい行ってやろうではないか。
まぁ、奴らが来るとは限らんのだが。
そのまま誰と合流することなく部室に到着する。
なにやらざわざわと聞こえるので誰かしらいるのだろう。
今日は臆することなく戸に手をかける。
「やぁ、来たね。」
「おっつぅー。」
「あ、お疲れ様です。」
「疲れたのは私たちのほうだけどね。」
銀髪の小悪魔が俺に声を投げかけると、マオ、東雲、赤宮の順であいさつする。俺は手をあげ挨拶を返すとあたりを見回す。
まさか全員お揃いとは思わなんだが、それよりも驚くべきことがあった。
昨日の段階では段ボールと殺風景な部室であったのに、今日はその段ボールが全て片付けられており、なにやら高そうでおしゃれな装飾が施されている。
しかも冷蔵庫と冷凍庫まで完備されているのだから驚愕である。
机もいくつか増えていてどこぞの事務所のような雰囲気を醸している。
「あー、なんだ。もしかしてこれお前たちがやったのか?」
俺は申し訳なさげに頭を掻きながら聞く。
「そう言っているじゃない。」
「そうか、すまない。ありがとう。言ってくれていたら手伝ってたんだが。」
力仕事は得意だしな。
「なに、ただのサプライズだ。気にすることはない。」
彼女がそう言うならばこれ以上何か言うのは逆に失礼となるであろう。
漠然とそう思いながら俺は聞かねばならぬことを聞く。
「なら、いいんだが・・・。あの、よ。昨日の段階で部員て俺とお前だけ、だったんだよな?一応。」
昨日のうちから俺が部員として数えられていたことには釈然としないが、昨日の彼女の言から察するに そうなっていたはずだ。
だが、昼の段階でもう五人に達して、こうして目の前には俺以外の四人が部室でくつろいでいる。
マオのやつが昨日以前にこんな辺鄙な部活に入部希望するのは考えにくいが、ほかの二人はそれ以前に何か話していてもおかしくはないだろう。
俺のそんな疑問に皇は口元を緩める。
「ふふ、いい観察眼だね。確かに昨日の時点で『正式』に入部が決まっていたのは君と私だけだよ。」
ここまで言えば十分、という風に彼女の言葉はそこで終わった。
なるほど、つまりだ。
ほかの二人。
東雲はともかくとして、少なくとも赤宮のほうからは入部の打診があった、ということであろうか。
じゃあ、なぜその時に正式に入部させなかったのだ?
疑問が残り頭を悩ませる。
「まぁまぁ、タカヒロ、細かいことはいいじゃないか。こうして人数もそろったんだ。」
ね、部長?とマオは俺の肩に手を回すといたずらに微笑む。
一瞬、皇が冷たい視線を飛ばしたような気がしたが、気のせいだろうか。
パン、と両手を鳴らした赤宮の方を見る。
「猫又君の言う通り、人数もそろったことですし、活動を始めましょう!皇さm、皇さん!方針は如何に!」
なにやら途中でキャラが変わった気がするが、言われた皇はうむ、と自身の後方にあるホワイトボードをひっくり返した。
「さて、みなも知っていると思うが、我が部の方針は観測し、語り紡ぐこと。」
「その一環として、まず今月末までにみなには観測史を書いていただきたい。」
彼女の言うように、ホワイトボードにも、
観測史提出!
期限は4月30日厳守!
講評 皇シルフ部長
と書かれていた。
ふむ、だが昨日の話では皇が観測して、俺が語り紡ぐ、などという話ではなかったであろうか。
「少し、いいか。」
「良いぞ。タカヒロ助手。」
皇の変な呼び方にももうツッコム気力なぞないのでスルーして俺は続けた。
「昨日の話じゃ、お前が観測して、俺が語り紡いでいく~。なんてことじゃあなかったか。」
だが、彼女はやれやれと答えた。
「何を言っとるのかね。普通観測したものが語っていくものであろう。」
おい!昨日と話がちげぇじゃあないか!と叫びだす前に、彼女はクスリと笑い冗談だ、と続けた。
「いやなに、理想はそうなんだが。部として活動するにあたって成果物も必要でね。色々無理を言って作った部でもあって顧問殿もそこだけは外せないとのことでこう言う形にしようかと、先ほど軽くみんなで話したのだよ。」
どうやらまた俺だけ蚊帳の外であったらしい・・・。
だがまぁ納得はした。
しかし、顧問か。
部であるなら確かにいるとは思っていたが、このような部を受け持ってくれる変わった人間などいるのだな。
「ふむ、一応今日みなの顔合わせがあるからと顧問殿も招集してはいるのだが・・・。」
皇が言うと東雲がチラリと時計を見て答えた。
「先生ならもうすぐ来ると思いますよ。会議がちょうど終わったころ合いだと思います。」
彼女が言うと、見計らったかのように扉がガラリと開いて、若い女性が現れた。
彼女のことは、知っている。
なぜなら彼女は、
「どーも!一年一組担任の三上小春でーす!」
俺たちの担任だからだ。
「あら、もう皆そろっているのね、って。すごい!部室がもう完成している⁉」
わぁ、と目をきらめかせてあたりを見回した彼女は壁に立てかけられていたパイプ椅子を出して座った。
「ま、顧問と言っても私は特に何か干渉するつもりはないわ。みんなの自由意思に任せるわよ。」
小春先生はどうぞ、と手振りをして話のバトンを皇に返した。
「とのことなので、基本私たちの活動内容はほぼ自由だと思っていてくれたまえ。月末に観測史を提出してもらう、それさえ忘れなければ、この部室はみなの第二のホームだと思い好きに使ってくれて構わない。」
彼女は一拍置いて続ける。
「観測史だが、内容は部の方針に沿ったものであればなんでもかまわない。家族、友人知人、通りすがりの人でも、ね。来週には宿泊研修もある。その時に起こった出来事を書くのもよいだろう。」
「一応、今後の方針はこんな感じではあるが、何か質問はあるかね。」
彼女が言い終えると、マオが元気よく手を挙げる。
「はいはーい。」
「どうぞ、猫又君。」
「講評は部長って書いてたんですけど~。部長も観測するんですかぁ?」
彼女は首を振って答えた。
「いや、私は君たちの観測史を講評して、まとめる役割だ。だから観測史は書かない。」
マオがずるーいというと赤宮がムッと口をとがらせて立ち上がった。
「そんなことないわ!皇様は日ごろ忙しくされているのよ!私たち庶民の稚拙な文書を読んでいただき、講評までされるなんて、それだけでありがたいことなんだから!嗚呼、光栄の極みだわ!」
何やら変なスイッチを押してしまったのか、赤宮は感無量と言わんばかりに自分の世界に入ってしまった。
あの皇も少し頬を赤らめるとはなかなかやる奴だ。
変な空気になった部室の中東雲がかるく咳ばらいをして言う。
「そういえば、来週宿泊研修ですが、みなさんは参加するレクリエーションは決めたのですか?」
ー宿泊研修
この町からバスで2時間ほど離れた山間にあるホテルでこの学校の歴史講座と新入生の親睦を深めるレクリエーションが一泊二日で行われる研修である。
全員参加のレクもあれば、各々が希望をだして参加するレクもある。
東雲が聞いているのは後者のことだ。
「僕は散策に参加しようかなって考えてるよ。いろんな野生動物が見れるみたいだしね。」
マオに続けて俺も答える。
「俺も散策だな。結構歩くらしいから楽しみだ。」
「私はもちろん、アクセサリー作りよ。お人形も作れるみたいだし、ご神体を作ろうと思っているわ!」
御神体とは、言わずもがなであろう。
東雲はうなづいて皇の方を見た。
「確か、皇さんもアクセサリー体験でしたよね。」
「ああ、贈り物などにも良いと聞いたからね。」
ここでずっと静かに聞いていた小春先生が口を開いた。
「その、レクリエーションの提出期限。明日までだから三人とも忘れず出してよねー。」
「「「あ」」」
俺たちは思わず口をそろえてしまう。
三人とは、俺とマオ、赤宮のことだろう。
皇の参加するものを東雲は把握していたしな。
そうか、確か委員長がそのレクリエーションの参加用紙を回収していたっけか。
俺たちにそれとなく促すために聞くとはさすが委員長である。
「さすが委員長よね!ちなみに提出を忘れた人には私がランダムで好きなように配置するわ!今聞いた話もきれいさっぱり忘れてね!」
恐ろしいことを言う。
委員長には感謝しなければ。
はてさて、他愛もない話をしているうちに日も落ち始めた。
ここで皇が、では、としゃべりだした。
「今日のところはこんな感じであろうか。」
「先ほども言ったように、活動らしい活動は月末の講評会のみだ。それ以外はここでゲームをしたり、漫画を読むなりしてくつろいでもらって構わない。鍵は私と、職員室の顧問殿の座席横にある。」
少し間を開けて、続ける。
「そうだな。こうして人数もそろったのだ。みなで懇親会を行いたいと思うのだが今週の土曜は空いているだろうか?」
俺は大丈夫だが、他の面々も空いてるようで各々了解の返事をした。
「顧問殿もよろしければ参加してほしいのだが、どうだろうか?」
しかし、小春先生は両手を顔の前でパンと閉じて頭を下げた。
「ごめんね~。その日は予定があるの!折角だし、若い皆で楽しんじゃって!」
あなたも十分若いでしょうが……。と心の中で留めて、そのご厚意に甘んじることにする。
皇もうなづいて続けた。
「では土曜の昼、駅前に集合としよう。詳しいことはグループライムで流すのでチェックするように。」
と、俺の知らないグループライムの話を最後にこの場は解散となった。
心の中で何度ため息をこぼしたのかわからない俺を見かねてか、横に座っていたマオが後で入れるね、とだけ言ってくれた。