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6話 人類観測部、始まってしまったか

 その後、バッタリとマオと出くわし、時間までゲーセンであそんで駅前のモニュメントで全員が集まるとそのまま、店に行くことになった。


「さて、こうしてすべての部員がそろった。」


 一拍置いて皇が続ける。


「あらためて人類観測部発足である!」

「乾杯!」

「「「「かんぱーい。」」」」


 各々好きなジュースを取り、テーブルの中央には料理長お手製のオードブルが並ぶ。 


「いやー。これから楽しみだね!学園1のマドンナ皇シルフ、最強の委員長東雲碧、学園1のコミュ力お化け赤宮絵留がそろっているんだから。」


 開口一番マオが言うがやはりというか、最強とは……こいつも知っているらしい。

 東雲も予感していたのかツッコム気力もないようである。

 だが、


「学園1のコミュ力お化けってなんだよ。」

「はは、えと、えるちゃんって学園の人間の8割の人の連絡先を持っているんですよ……。」


 ここにきてとんでもない爆弾が放り込まれてきやがった。


 まだ入学して3週間たったかどうかですよね?

 どうやったんです?


「残りの二割は不登校か、あまり学園に来てない人たちと事情がある人たちくらいね。まぁ、学園ですれ違ったり会うことができたりする人たちは基本顔も名前も覚えてるし、連絡先も持っているわ!」


 とんだ行動力である。


 陽キャとは思っていたが、次元が違うらしい。もはや、怖い。

 まぁそれもこれも……


「そう、それもこれも、すべては皇様に快適な学園生活のためよ!」


 赤宮は一人しゃべり続ける。


「学園生徒教員全員分のデータを起こして、危険因子がないか確かめる。」

「学園のトレンドやニュースもチェックして、おかしなことがないか確かめる。」

「そしてファンクラブ運営によって皇様の学園での生活を観察。」

「なにより、皇様の魅力をより多くの人に伝えるためよ!」


 ほめて!とないはずのしっぽを犬のように振って皇の方を見る。


「うむ、ありがたいことだが……。その、観察は少し控えてくれると助かる。」


 あの皇もたじろぐほどとは末恐ろしい女である。

 ここまで行くと皇家付きのエージェントのようにも思えてくるが……。


「いや、それが全くもって我が家とは関係ないごく普通の一般家庭の子女なのだよ。」


 なるほど、天然の怪物というわけか。末恐ろしい。


「なら普通の学生は俺とマオだけか。普通同士頑張ろうな。」


 俺がマオに肩をかけると赤宮があら、と口を開く。


「アナタ知らないの?猫又君って女子の間から猫王子って呼ばれてるくらい人気あるのよ。先輩からもね。あと、サッカー部の時期エース候補とも言われてるみたいね。」


 く、そうだった。この男、普段俺とばかりつるんでいるから忘れがちだが、猫目の甘いマスクにこの低身長でサッカー部と、女子から結構な人気があるのであった。


 ち、何が仲間だよ。裏切者めが!


「いや、勝手に仲間扱いしたのは君だろうが。」


 それもそうである。

 はぁ、結局普通なのは俺だけか……。


「ふふ、君は君だよ、タカヒロ君。」


 そう慰めか、皇が言うとほかの皆も追随する。


「そうだね。タカヒロはタカヒロだ。普通とは違うかな。」

「ええ、上杉さんは上杉さんですね。」

「ま、気に食わないけど、アンタはアンタね。意外と有名人よ。」


 慰めなのか、本気なのかわからんが有り難く受け取っておこう。


「まぁ、ありがたく受け取っておこう。これも何かの縁だ。よろしくな。」


 改めて、これからともに活動する仲間たちへ向かって杯を掲げた。


 それからは料理長の料理に舌鼓を打ちながら会話を弾めて、食後には新人パティシエの新作を皆で平らげてお開きと相成った。

 二次会も考えたが、マオがサッカーの練習に顔を出さなくちゃいけないようで、東雲も道場のほうで用事があるとのことなので、また別の機会に行くことにした。



 まだ日も落ちもしない時間なのに、家の中に入るのは億劫であった。


 それもそうだろう。家には酔っ払いが確定で一人と推定でもう一人いるのだから。


 まぁ友人の方はそこまで飲んではいないだろうが……。


 気は進まないでも入るしかないので玄関を開ける。


「はいはーい。お邪魔してまーす。」


 さて、元気のよい挨拶でお邪魔していたのは、なんと小春先生であった。


「こ、小春先生?なんでここに?」


 俺の疑問になつねぇは答える。


「なんでって、言っただろう?友達が来るって。顔忘れたのか?」


 いや、それは言ってたが……。顔を忘れた?いやまさか、


「も、もしかして・・・はるねぇ?」


 俺の言葉に酔いが回っているのか少しろれつが回らずに彼女は答える。


「そうでーす!はるねぇだよぉ!さふらーいず!」

「ああ、確かに。先生になって少し印象は変わったかもな。」


 いやすこしどころではないだろう。

 ウルフカットにピアスバチバチ、ビジュアル系バンドのように目元を真っ黒にしていたあの頃と全然違うじゃあないか!


 姉貴と同い年だとは思っていたが、まさか小春先生がはるねぇとは思いもしねぇよ!


「あーん。先生は一目見て気づいたのに、ヒロ君全然気づいてくれないんだもん。」


 だいぶ回っているな・・・。

 見たところはるねぇ、小春先生が座っていたと思しき場所にはほろよい一缶しかないが、もしかして大分弱いのではなかろうか。


 ちなみに姉貴の足元には日本酒一升瓶が空で転がっていた。


 みなかったことにしよう。


「先生、ほどほどにしてくださいよ・・・。」

「うるしゃーい。ヒロ君ものめのめー。」

「お?いいな。よし、飲めタカヒロ!姉の酒が飲めねぇってのか!」


 さて、酔っ払いどもの悪ノリが始まってしまった。


 こうなればもう手に負えないぞ・・・。


「せ、先生。さすがにそれはまずいですよ⁉俺、学生。あなた、教師!」

「いーや。今の私はメラ高の小春・千夏コンビよ!あの時のように未成年飲酒・喫煙どんとこいじゃあ!」


 教師が言ったら一番ダメなことを言っていやがる。


 部屋に戻ってゲームでもして逃れるかと思っていたが、どうやらゲームは姉貴たちに占領されているらしい・・・そうだ。


「ああ、どうです。昔みたいにゲームしましょうよ!」

「ん?んーそうね!ゲームして負けたらお酒ね!」

 さて、負けられない戦いが始まってしまった。

 

 結果としては圧勝である。


 小春先生は昔からこの手のゲームにも弱いし、ガキの頃から姉貴にボコされてきたので負けじと特訓した甲斐もあって今では姉よりも強い。


 果たして、しくしくとほろよいを飲むはるねぇである。


 それからもテキトーにゲームをしていると両親が帰ってきたようだ。


「ただいまー。お?始めてるわね。」

「おお?タカヒロ、酒はまだ早いぞ。」

「ふっふーん。任せてくださいよお父さん。なにせ私は先生ですから。」


 さて、どの口が言うのか先ほどまで俺に酒を強要していた小春先生は父さんに向かって胸を張って答えた。


 姉貴も腹を抱えて笑っている。くそ。


「ふふ、久しぶりねー。小春ちゃん。もうタカヒロったら担任が小春ちゃんになったんなら早く教えてちょうだいよ。」

「こいつ、今日の今日まで小春のこと忘れてたぞ。」

「まぁ!」


 いや、忘れていたわけでは・・・。


「おいおい、タカヒロ。少し姿は変わったかもしれんが昔と変わらず清楚なままじゃないか。」


 どの昔だよ。さっきまで酒を強要してきたぞ。


「ま、細かいことはいいわ。今日は小春ちゃんもいることだし、焼き肉よー!。」

「おお!今日まで頑張って来た甲斐があった!」


 小春先生が何やら感極まっている。


 まぁストレスも多そうだ。

 部活の発足も色々頑張ってくれてたそうだしな。


 今日くらい羽目を外すのもいいだろう。


 なぜ俺が保護者目線なのだろうか・・・。


 そう心の中で突っ込まざるを得ない。



 夜、今日までのことを軽くまとめて就寝することにする。

 色々あったが、楽しくはなりそうだ。

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