0話 俺は妖精と出逢った
「ようこそ、人類観測部へ。上杉タカヒロ君。」
ーーーそこにいたのは白い、妖精であった。
「ふむ、妖精か。なかなかに適格だね。」
彼女はふむふむと頷きながら笑みを浮かべる。
妖精とはさすがに言い過ぎたか、反省すべきだな。どちらかと言えば小悪魔のような女である。
俺はため息を吐きつつ辺りを見回す。
大きい机一つに椅子が五つ……。んで、段ボールがいくつか積みあがっている、と。
重そうだ。
教室よりかは狭いが、まぁ部室とはこんなもんだろう。
と、俺が思考に耽っていると彼女がむむと、口を尖らせる。
「ちょっと、まずは自己紹介だろう。タカヒロ君。」
「それは、そうなんだが。もう知っているだろう。」
お互いにな。
なんせ、俺とこいつは、
「同じクラス、だからね。」
彼女、皇シルフは見たこともないような笑顔で俺の思考を先読みして言った。
はぁ。なんでこうなったんだろうか・・・
それは遡ること十数分前、俺は中庭のベンチで物思いに耽っていた。
「入学してから早二週間、かぁ。」
俺はこの二週間あることに悩んでいた。
「そろそろ部活決めないとなぁ。」
部活選びである。俺が入学した高校では文武両道を謳っているがために、生徒の9割は部活動に励んでいる。
別に強制ではないのだが、夢にまで見た高校生活を手にしたのだ。
青春アニメのような花ある学生生活を謳歌したいと思うのが男子高校生の性であろう。
「そのためには、やはり部活だよなぁ。」
う~む、何をすべきだろうか。
身長は人よりも大きい、なにせ186cmだ。
ガキの頃から色んなところで駆け回っていたから運動神経もまぁ悪くない。
なら運動系……
「バスケとかか?」
だが未経験なのが痛いな。高校からはガタイよりも技術が問題だろう。
この高校たいていの運動部が強いからなぁ。
素人はあまりお呼びじゃなさそうだ。
さて、では文科系か。
ここも面白そうなのが多いんだが、男子ばっかりか、女子ばっかりしかないのが……。
しかもどこもアクが強いんだよなぁ。
はっ!いっそのこと生徒会なんて手もあるぞ。
ぶっちゃけ仕事とか諸々めんどそうだが、それさえ置いといたら結構いいんじゃないか。
最後まで決まらなかったらここにするか。
とかなんとか考えながらふと、空を見やると何やらビラのようなものが降ってきた。
そこに書かれてたのは、
「人類観測部?」
ようこそ、人類観測部へ。
君も一緒に観測しよう!
入部希望者募集中‼
ともに青春生活を謳歌しようではないか。
部室棟3階306室
と、端っこに戦隊ヒーローの仮面をかぶった魔法少女コスチュームを着た謎のキャラクターが添えられていた。
「……。」
いったん、このキャラクターは置いておこう。しかしなんだ、少し気になるな。
「顔だけでも出してみるか。」
「とまぁこんな経緯でここに至るというわけだよ。皇君。」
「なんだい。そのしゃべり方は、僕の真似かい?」
皇は冷たい目でこちらを見る。
ごめんってそんなつもりはなかったんだ……。
「なら、許そう。」
皇は嘆息をもらすと、俺も胸をなでおろす。しかし、なにやら違和感が。
もしかしなくてもさっきからこいつ、俺の心をよんでないか?
「いや、別に読んでるわけではないよ。」
「ちゃんと読んでるじゃねぇか。」
皇は困ったように笑う。
「んーなんというかな。なんとなくわかる、てほうが近いんだけど……。イメージとしては君の頭の近くにキーワードがちらほら浮かんでる、みたいな?別に常にそうってわけでもないしね。」
だから、安心していいよ。
皇ははにかみ言うが、一瞬その笑顔に吞まれてしまう。
気にすることなく彼女はそのまま続ける。
「なに、君が私でどんなにエッチな妄想をしようとさすがにそのプレイの内容までは把握できないってことさ。」
「いや、しないよ?」
全く、何を言ってんだかこの女は……。
しかも、エッチな妄想してるとこまではわかるじゃねぇか。
まぁ真偽のほどは置いといて、だ。
あのビラには人類観測『部』と書いてあった。
なら、
「ここは部活、なんだよな?ほかに部員がいるのか?先輩とか。」
「いや、私と君だけだよ。」
ナチュラルに俺を入れやがった……。
「へぇ、部活作れるのか。一人からでも行けるんだな。」
「それがそういうわけにもいかないんだ。五人必要なのだよ。」
あと、『君』と私の二人ね、と彼女は頬を膨らませながら言う。
なるほど、あの段ボールの量と殺風景な部屋なのも納得ではあるな。
「じゃあ、どうするんだ?このままだと部活動できないじゃないか。」
彼女はその質問は当然だねと頷きながら答える。
「一応、色々なコネやあの手を使ってね。本来なら諸々面倒な手続きを踏まなきゃならないのだけれど。なんとか今月までに五人集めればよいことにしてくれたのさ。」
「まぁ、それに関しても何とかなるからあまり気にしなくていい。」
俺は不安になりながらもなんとか飲み込み、もう一つの懸念点を聞く。
「で、だ。根本的な部分になるんだが、いったいこの部活は何をするんだ?人類を観測?するのか。」
皇は待ってましたと言わんばかりに、ふふんと息を鳴らし高らかに応える。
「ふっふ。そう、その通り。正しく人類を観測するのだよ。」
彼女はドヤ顔で言うが、俺は口を開いたまま呆けてしまう。
「まぁ詳しい話は道中でしようではないか。」
「道中?」
「ああ、まずは実際に行って見るのが吉。というわけで高校生らしく寄り道して帰路につこうではないか。」
全く理解できんが……。まぁ、おとなしく従っておこう。退屈はしなさそうである。
「いったい何が始まるっていうんだ……。」
そんなつぶやきが聞こえたのか彼女はいたずらに笑みを浮かべて言う。
「第三次世界大戦だよ。」
デデーンと聞こえないはずの効果音が聞こえた気がしたが気のせいだ。
呆れ交じりにため息を吐くが、元々荷物は全部持っていたのでおとなしく皇についてくのであった。




