第63話 モブ、DV彼氏の心理に気づく
あんのイカレ女ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
助けるって言ったじゃん!
シャーロット=マクスウェルの名において、とかカッコいいこと言ってたのにあれは全部嘘か!?
なんならシャーロット=マクスウェルの名に宛てて契約不履行を訴える書類か何かでも発行してやりたいんだが!?
「早く選べ。死に方を選べるなど貴様には勿体ないほどの慈悲。これ以上俺をイラつかせるな」
「ではその寛大な慈悲で命を取るのは勘弁してもらいたいところなんですがねぇ?」
「却下だ。貴様はあまりにも目障りが過ぎる。生かしておいても一生俺の役に立つことはない」
まあそれはそうだろうけど。
俺は一生王子の役に立つつもりなんてないし、むしろ邪魔することを目標に動く人間。
脅威を予め排除すると言えば聞こえは良いが、多分目の前の王子は短絡的なだけでそんなことは微塵も考えていないだろう。
(って冷静に考えてる場合じゃない!このままだとマジで死ぬ!今まで結構頑張ってきたのにこんな意味わからん終わり方だけは絶対に御免だ!)
状況は最悪。
周りは王子たちの取り巻きに囲まれ、王子は俺を本気で殺すつもりだろう。
この場で逃げられないことはないが、間違いなくいつかは捕まるし、家族の方にも迷惑がかかるだろう。
(くっそどうする……!?ラナ!何かいい方法無いか!?)
『私にあるわけないでしょ?なんとか頑張ってよ』
(軽くないか!?俺が死んだら契約破棄になってお前も精霊界に強制送還だぞ!?)
『だってマスターと一緒にいるとこんなことばっかり起こるんだもん。一々驚いてたら疲れ切っちゃうし』
(お、おぅ……順応早いな……)
俺なんていつでも叫んでる気がするのに。
精霊は契約者の心の鏡と言われるが、本当の俺はこんなに図太いのか?
今の俺は壮絶な裏切りに遭い繊細な心が深く傷ついているというのに……
(……ラナ、この世の全員お前の力で倒せたりしない?)
『それは現実的に無理。そもそもこの世に何人の契約者と精霊がいると思ってるの?』
(はい、すみません)
完全なる正論でラナに叩き潰された。
もしこの場を奇跡的に乗り切ったら正論は時に人を傷つけるということを教えてやらねばならない。
求めているのは共感か解決策であって、俺を現実に引き戻す正論じゃない。
「おい、どうした。怖気づいたか?この俺に話しかけるという己が起こした愚行に」
「……」
俺は無言を貫く。
今下手な発言はできない。
そんなことを考えていると、突然笑い声が聞こえてくる。
「ふふっ……ふふふ……!」
「なんだ?何がおかしい、シャーロット……!」
小さく声を漏らしながら笑っていたのはシャーロット。
その笑い声はだんだんと大きくなっていく。
「うふふ……あはははっ!」
「そのヘラヘラとした笑いをやめろ!」
「これは失礼。あまりにも滑稽で愚かなものでしたので」
「この平民のことか?仕方あるまい。所詮平民は知性が無いのだか──」
「いえ、貴方方のことですよ?」
その瞬間、教室の空気は先程よりも冷たく凍りつく。
全員の顔が引きつり、なんてことを言うのかとシャーロットに非難の色を込めた視線を向けた。
かく言う俺もドン引きが止まらない。
「貴様……!この俺を愚弄するのか……!」
「だって面白いんですもの」
「面白い、だと?」
「ええ。たかが平民に高位貴族、それも王族ともあろう方がムキになって1人相手に寄って集って。恥ずかしくないのですか?」
アレックス王子の表情が怒りに染まる。
攻略対象たちも同様に。
だが当の本人はどこ吹く風だ。
「たかが平民など自らの力でねじ伏せ支配する。たかが生まれしか誇れないようでは国を支配するなんて以ての外です」
……やはりシャーロットは善ではない。
一概に悪なのか、とも判断が難しいが少なくとも『善い人』ではないことだけは確かだ。
だが自分の中に誰にも譲らない芯を持ち、自分を常に貫き続ける。
その姿勢は素直に尊敬に値するし、彼女が天才であり最強の座につくに相応しい人物だと《《思わされる》》。
「勝負を受けてはいかがです?今こそ王子の威光を見せるときでは?」
(お、おおお!!!!シャーロットナイス!よく俺を助けてくれた!)
俺は心の中でシャーロットに感謝を伝える。
しかし、そこで俺は我に返る。
そもそも『やれ』と指示したのはシャーロットだしすぐに助けないで状況を悪化させたのもシャーロット。
なんか、普段は暴力振るってるのにたまに優しくなるDV彼氏みたいなムーブしてんな……
危ない危ない……DV彼氏に騙されるところだったぜ……
「お前もこの男に負けたくせによく言う……!」
「ですから、この男を私はもう侮りません。正真正銘私の実力をもって叩き潰します」
「…………ぇ?」
俺は思わず声が出る。
今、なんて……?
「私が1位に立ちマクスウェル家の威光を示します。王子もそうするのが良いかと。そろそろ婚約者にも勝っておいた方が、他の貴族からも何か言われずに済みますよ」
シャーロットはニヤリと悪い笑みを浮かべる。
男尊女卑のこの世界で明らかにスペックの違いを見せつけられている王子はシャーロットが婚約者であることにコンプレックスを抱えている。
それを知ってか知らずかシャーロットはクリティカルな発言をした。
……というか女性向けのゲームで男尊女卑って大丈夫なのか?と思うけど最初は苦しいところから始まるのがマストらしいし、男尊女卑の中で自分より身分が上の男性が本当に大事にしてくれるのが良いらしい。
俺も優しくて可愛いお姉さんが慰めてくれたら嬉しいから似たようなものだろう。
「さっきから黙って聞いていれば好き放題言いやがって……!」
「でも事実でしょう?」
「いいだろう。ただし俺がお前に勝ったら二度とその生意気な口を聞くなよ?」
「いいですよ。ただメインの相手はそこの男なのに私に集中して良いのですか?」
シャーロットは自信満々に一瞬たりとも迷うことなく頷く。
そして急に俺にキラーパスを渡してきた。
「ふん、平民などの野蛮な人間は所詮戦うしか能が無い。俺に勝てるわけがないだろう」
「まあ、頼もしい。それはとっても楽しみですね」
そしてシャーロットは一瞬俺に目配せをすると悪い笑みを浮かべるのだった──
カクヨムの最新話に追いつきました。
次に更新するとなるとカクヨムの方になると思うのでよかったらお願いします。
他の作品も色々上げてます。
よろしくお願いします。