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第61話 モブ、計画を授けられる

マクスウェル公爵と面会をした翌日。

まだお昼とは言えない朝の時間に俺達はフリージア学園へと戻る馬車の中にいた。

行きと違うのは俺もリサとシャーロットの馬車に同乗させられたことである。

俺としてはマクスウェル家の馬車はどれも乗り心地が良いから別にどれでもいいんだけどね。


「エドワードさんがご当主様の支援を……?それは本当なのですか?」


「このタイミングで俺が嘘を言ってもしょうがないでしょう。それにマクスウェル様の前なんですから今嘘をつけばすぐに看破されるに決まってるじゃないですか」


俺は昨日の公爵との会談内容をリサに説明していた。

別に俺が自慢したわけじゃないからな?

シャーロットが俺に説明しろって言うから説明しているだけで断じて公爵の支援がもらえて嬉しすぎて他人に言いたい衝動に駆られているわけではない。


「確かにそれはそうですね……とは言ってもなぜエドワードさんを?」


「えーっとそれは……」


俺は口をつぐみシャーロットにアイコンタクトを送る。

俺達の目標は人前で言えば不敬罪で死刑になってもおかしくない特大の爆弾。

安易にそれを口にするわけにもいかず、俺はシャーロットに確認の意味も込めて視線を送った。


「この国をひっくり返す。そしてムカつく無能な国の上層部を一掃するのよ」


「「なっ……!?」」


俺とリサの驚きの言葉が被る。

こんなにもあっさりとドストレートに伝えると思ってなかった。

事の大きさが大きさだし説明するにしてももっと順序立てて説明すると思ったのに単刀直入に言いすぎだろ。

案の定リサは驚きのあまり言葉を失っている。


「あの内容を話したのですか!?ご当主様に!?」


「……ええ。包み隠さず全てマクスウェル公爵様にお話ししました。マクスウェル公爵はそれに賛同し俺を支援してくれる、と」


「にわかには信じがたい話ですね……捨てられるだけかもしれないんですよ?」


「どうせこのまま俺だけでは不可能なことだったのですから一縷の望みを賭ける価値は十分にあると判断しました。もし捨てられたとしても悔いはありません」


俺はリサの言葉に首を横に振る。

マクスウェル公爵のあの言葉を聞いた時、俺の中で完全に覚悟が決まった。

本当の意味での人生をかける覚悟を。


「思い切りがよくていいじゃない。つまらない男より何倍も良いわ」


「それはどうも。マクスウェル様もご助力くださるんですよね?」


「ええ、父からの命令だしそれを抜きにしても楽しそうだもの。つまらない指示は受けないけどね」


王国転覆が楽しそうってシャーロットも本当に大概だよな……

俺だって国の転覆を狙ってると言えど、別にそれを楽しんでるわけじゃない。

あくまで名作ゲームの尊厳を守るためでありシャーロットとは全然別物だ。


「助かります。まずは最初に一つアクションを起こそうかと。学生だからと何も動かないわけにはいきませんので」


「それはそうね。待つのは退屈だし嫌よ」


「というわけで何をするかなんですが……」


俺はチラリとシャーロットを見る。

フリージア学園に入学してからストーリー破壊の計画は何度も練ってきたわけだが、マクスウェル公爵の支援が得られるというのならばそれを活用しない手はない。

改めて計画を練り直す必要があるが、俺は人を使うということに慣れていない。

前世はまだ社会人の歴も浅くて部下も多くなかったし、今は平民で完全に使われるのが当たり前の立場。

社畜根性が身についている俺よりは間違いなくシャーロットの方が計画立案に適任だった。


「私が考えるわけ?」


「お願いします。無茶無謀じゃなければマクスウェル様の好きにしていいので」


「じゃあ暗殺なり襲撃なりで王子と王をさくっと消すのがいいと思うわ」


「却下です。それは無茶無謀なので」


王子たちを暗殺したとてその先の未来がない。

俺は別にそれでも構わないがマクスウェル家は何一つとして良くないだろう。

もっと自然な形で王国を引っ掻き回さなくては。

というかお前は仮にも王子の婚約者だろうが。

初手からそんな物騒な手立てを持ってくるんじゃない。


「王国転覆を目指すのに無茶無謀を無しにしろと言うわけ?手っ取り早いしちょうどいいわ」


「最初からやることじゃないと言ってるんです。マクスウェル家の名は地に落ちますよ?」


「へぇ……マクスウェル家を語るなんてアンタも随分と偉くなったじゃない」


シャーロットは目を細めこちらを見据える。

その表情には微かな怒りが見て取れた。

傲慢最強なお嬢様でも家に誇りを持ってるみたいだしな。

しょうがないことなのかもしれないが、流石に初手から暗殺というのは飲み込めない。


「ご不快にさせたならば申し訳ありません。ただ無理をして命を捨てるのはもったいないなと。何せ、大きなお祭りが待っているのですから」


「……ふん、祭りと言う時点でアンタも狂ってるじゃない」


「狂ってない人間にあのような事を公爵に向かって言うのは無理ですよ」


「それはそうね。まあ今回はアンタに免じて暗殺は無しにしましょう」


「ありがとうございます」


シャーロットは琴線がわかりづらいし、一見話が伝わらないタイプにも見えるが案外なんとかなる。

いや……やっぱり話が伝わらないタイプかな。

なんとかなるほうが少ないし……


「それじゃあこうしましょう。────────をするのよ」


「……それやったら俺が殺されませんか?」


「私も同意です。どう考えてもエドワードさんが亡くなる未来しか見えません」


俺とリサは同時に言葉をこぼす。

やはり危ないらしい。

だがシャーロットは爛々と瞳を輝かせる。


「いいじゃない。ちょうどいい暇つぶしにもなるし」


「人を暇つぶしの遊び道具にしないでほしいんですが……」


「大丈夫、何かあっても私が助けてあげるわ。か弱い平民ちゃんだものね」


そう言ってシャーロットは不敵に笑う。

その笑みは、まるで自分に失敗などあるはずがないと言わんばかりに自信に満ちている。

だがマクスウェル公爵と同じようにその自信は人に伝播し、自分でもできるんじゃないかと思ってしまう。

これが俺にはないカリスマ性なのかと俺は苦笑した。


「はぁ……わかりましたよ。やればいいんでしょう?」


「そう、つべこべ言わずやればいいのよ。楽しくなってきたわね」


「その代わり絶対に危なくなったら助けてくださいよ?」


「ええ、それは約束するわ。シャーロット=マクスウェルの名にかけて」


シャーロットは大きく首を縦に振り、マクスウェル公爵に似た笑みを浮かべるのだった──

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