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第60話 モブ、見え始める

マクスウェル公爵との面会は無事?に終了した。

俺とシャーロットは面会を行った客室を出ると廊下を並んで歩く。


「それにしてもそのドレスお綺麗ですね。とてもマクスウェル様に似合っています」


「この私に似合わないものなんてあるはずがないでしょう?そんな当然のことを言われたって嬉しくないわ」


お、おう……

相変わらずすごい自信だな……

でもまあその自信に見合う程度にはシャーロットは美人なんだけどな。

それを全て無に帰すほどの悪役令嬢属性を持っているってだけで。


「シャーロットお嬢様、ご当主様との面会お疲れ様でした」


「私は大して何もしていないわ。お父様の今回の目当てはこの男だもの」


部屋の近くに控えていたらしいリサが近づいてくるとシャーロットは俺にチラリと視線を向けてくる。

確かに今回は俺のために時間を作ってくれたらしいしな。

何度死の恐怖を味わったかわからないけど命を懸けて飛び込んだおかげで相場以上の対価を得たと言ってもいいだろう。


「それよりもリサ、お茶を用意してくれる?中庭の温室にお菓子と合わせて持ってきてちょうだい」


「はい、少々お時間をいただきますが、準備させていただきます」


リサは一礼するとすぐにどこかへ消えていく。

こうして見るとできる侍女って感じだな。

最初の頃はずっとポンコツって印象が拭えなかったのに。


「さて、マクスウェル様。俺もそろそろこの辺で失礼します」


「は?どこにいくつもり?」


「どこって……時間つぶしに街でも見てこようかと。あ、お金は全然持ってきてないので帰るときは馬車で迎えに来てくださると助かります。もし日をまたぐなら車中泊するので馬車を貸してください」


「随分と図々しくなったわね……」


「急に来ることになったのでお金を全然持ってきてないんですよ……野宿してもいいですけどその状態で再会して臭いとか絶っ対に言わないでくださいよ?」


俺がそう言うとシャーロットは不愉快そうに少しだけ顔をしかめる。

そして首を横に振りながら口を開いた。


「無理ね。湯浴みもせず1日中外にいた男なんて臭いに決まってるもの」


「無茶言わないでください。お金も無いのにどうしろって言うんですか」


俺は魔法が使えないし、ラナも使える魔法は氷系統だけだ。

まさか氷を溶かした水で身体を洗えと?

冬じゃないだけマシかもしれないが夜は普通に寒いし死ぬんだが?


「そんな事しなくてもここに泊まればいいわ。部屋なんて腐る程あるもの」


「それはありがたいですが……マクスウェル様は俺が同じ建物にいてもいいんですか?」


「他の使用人やお父様も同じ建物にいるのよ?一々下々のことなんて気にしないし、アンタが夜這いをかけに来ても私はそれを許すほど弱くはないわ。もしリサに手を出そうとしたならお父様が気に入った人材だろうと容赦なく消すけれど」


「は、はは……」


俺はシャーロットの言葉に乾いた笑みを浮かべることしかできない。

この状況で夜這いをかけようとするほどの勇気を兼ね備えた勇者は果たしてこの世の中にいるのだろうか。

少なくとも俺はそこまで飢えてないし、こんなことに命を懸けられるほどの蛮勇は持ち合わせていない。


「それよりもアンタも中庭に行くわよ。何のためにリサにお茶を用意させたのかわからないじゃない」


「え?俺もですか?」


「アンタ以外にこの場に誰がいるのよ。もし目が腐りかけてるならお父様にお願いして医者を用意するけど?」


「い、いえいえ!俺の目はピンピンしていますとも!」


シャーロットからお茶のお誘いをされるとは……

これはもしかしなくてもデート(処刑)のお誘いでは……!?

上手いことマクスウェル公爵に取り入りやがって……みたいな!?


「そう。じゃあさっさと中庭に行くわよ。リサはお茶の準備が早いからきっとすぐに来るわ」


(本当は断りたい……でも断れねぇぇ!!)


シャーロットは最大の支援者(マクスウェル公爵)の娘、つまり上司の娘さんのようなもの。

それにシャーロット本人も人間から片足踏み外しかけているバケモノだ。

タイミングが良くてたまたま2回勝てたが、今戦えばお互いただでは済まない。

できるだけ逆らうわけにはいかなかった。


(まあマクスウェル公爵が支援してくれるって言ってたんだしシャーロットが殺すってことはないだろ……)


「わかりました。お供させていただきます」


「ええ、それでいいわ」


シャーロットは一つ頷くとツカツカと歩き出す。

俺は屋敷内の間取りなんて知るはずもないのでしっかりとついていく。

この屋敷って広すぎて一人だったら間違いなく迷う自信がある。

こんなに広くする必要あるのか?とも思うけど屋敷の大きさってわかりやすく権力を誇示できるし、大きくする必要あるんだろうなぁ……

庶民の感覚しか持ち合わせていないのでそこのところはよくわからないけれども。


◇◆◇


シャーロットについていくと到着したのは綺麗な花が咲き誇る温室だった。

他の庭もきれいだったけどここは屋根もついているので雨とか天候が多少悪くても使えそうだ。

栽培とかをするわけではないのでこの世界にもあるのかは知らないがビニールではなくガラス製である。


「座っていいわ。楽にしなさい」


「それではお言葉に甘えて。失礼します」


俺はシャーロットが座った対面の席の椅子を引き腰をかける。

花が咲いてるわけだし虫とか結構いるのかと思ったけど全然いない。

何らかの魔道具が使われてるのかもしれないな。

甘ったるいと言うよりほのかに甘い香りが漂うくらいで助かった。

甘ったるい匂いの中、甘いお菓子を食べたら甘党じゃない俺には相当しんどかったはずだ。


「それにしても……意外だったわね」


「意外?何がですか?」


「アンタの目的のことよ。まさかお父様に躊躇なく正面から言い切るなんて思わなかったわ」


「あはは……ですが俺は本気ですよ。本気じゃなかったらマクスウェル様にだって伝えていませんよ」


「そうはそうね」


シャーロットは一つ頷く。

俺はそれ相応の覚悟を以てシャーロットに打ち明けたんだ。

もしマクスウェル公爵の助けを得られるかもしれないとなれば命をかけるのは当然のことだ。


「でも、面白いと思ったわ。今のこの国は面白くないもの。全然刺激が足りないもの」


「あ、あはは……刺激を求めるのは程々にしておいてくださいね……?」


シャーロットを満足させるのは相当難しい。

かといって欲求不満になって俺が巻き込まれるのも困る。

変態プレイ以外にもシャーロットのストレス発散になりそうなことを考えておくか……


「考えておくわ。でもまさかアンタが歴史を動かすことになるとはね……最初に出会ったときはそんなことつゆほども思わなかったのだけれど」


「歴史を動かす?」


「当たり前じゃない。国家転覆を目論むテロリストを支援する、と《《この国の公爵》》が宣言したのよ?犯罪者を支援する貴族家は金か権力を求めている場合のみ。そしてマクスウェル家の場合は《《その犯罪を犯罪足り得なくする》》のが目的に決まってるじゃない」


「……!」


俺は驚きで言葉を失う。

支援を得られる嬉しさのあまり忘れていたが冷静に考えればそうだ。

貴族家が、それもマクスウェル家のような大貴族が気に入ったからなんて理由で仕官させるなんてありえない。

そしてシャーロットの言う犯罪を犯罪足り得なくするというのはつまり、法を自由に作る側に回るということ。

つまりマクスウェル家が王位を狙っているということに他ならない。


(なるほど……黒魔術はあくまで理由付けでしかなかったのか……!)


作中ではマクスウェル家は黒魔術に手を染めたとして滅ぼされた。

だが本当は違ったのだ。

マクスウェル家を脅威に思った()()()()()が適当に理由をでっち上げて主人公一行を唆して滅ぼしたのだ。


(そう来るのか……おいおい、段々ときな臭くなってきたな……)


俺は薄々だが、この世界の真実が少しずつ見えてきたような気がした──

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