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第59話 モブ、気づく

「く……クハハハハハハハハハ!!!!!いいぞ!面白い!そんな分不相応でイカれた欲を持った馬鹿を我は待っていた!」


突然、マクスウェル公爵は大声で笑いだす。

その表情には狂気が宿り思わず俺も現実世界に引き戻された。


「は……?」


「え……?」


俺と同時にポツリと隣で思わずと言った様子で言葉が漏れる。

隣に視線を向けると、珍しくシャーロットが呆気にとられたような表情をしていた。

シャーロットもこんな表情するんだな、と半ば現実逃避のように穏やかな気持ちでそんなことを考える。


「お、お父様……あの……大丈夫ですか……?」


「大丈夫か、だと?大丈夫に決まっているだろう。人は一つくらいはどデカい獣を飼いならさなくては何も面白くもない。お前だってそうだ」


「……っ!」


マクスウェル公爵はまっすぐにシャーロットを見据えるとシャーロットは少しだけビクッと肩を震わせる。

なんかここに来てからシャーロットの意外な一面ばかり見ている気がする。

やっぱり父親相手には強く出れないんだろうな。

まあシャーロットの父だしシャーロットと負けず劣らず曲者なのは間違いない。

というか頭のネジが何本か飛んでる。


「お前は昔から勉強も剣も魔法もできた。だがそれだけだ。お前はマクスウェル家たる野望を抱かなかった。何の面白みもないただのハイスペック女だ」


「……返す言葉もございません」


「そ、そんな言い方──」


「だが」


あまりにひどい言い草に俺が割って入ろうとするが、マクスウェル公爵に片手で制される。

マクスウェル公爵は有無を言わせない威圧感と強者感をそれだけ身にまとっていた。

俺も思わず口を噤む。


「お前は変わった」


「……!」


「何があったのかは知らんが明らかに学園に行く前とは違う。お前なりに自分の欲を見つけられたのか?」


その言葉に俺はハッとする。

そして隣に視線を向けるとシャーロットが顔を赤らめてこちらを見ている。

ま、まさか……


「はい……」


「そうか。それでいい。それでこそマクスウェルの娘だ」


美しい少女が顔を赤く染めて俺を見て恥ずかしげに頷くという世間一般では胸キュンシーンのはずなのに、シャーロットの目にハートが幻視され息を荒げている時点で俺は素直に喜ぶことができなかった。

あんなものは感動シーンでも胸キュンシーンでもなんでもなくただただシャーロットが『ドMに目覚めました!真の欲望を知りました!』と言外に伝え、そこまで正確に理解したのかはわからないがマクスウェル公爵が『自分のやりたいことがみつかったならそれでいい』と言った超シュールなシーンだったというわけだ。


(バッカヤロー!こんなところで発情すんな!?もし俺がシャーロットのドMを目覚めさせたなんてバレたら……)


◇◆◇


「おい、貴様がシャーロットをこんなことにしてくれたのか?これで他家に嫁入りさせられなくなったらどう責任を取ってくれるんだ?」


「い、いや……俺は別に何もしてなくてですね……マクスウェル様が勝手に目覚めただけというか……」


「この期に及んでまだ醜い言い訳を続けるのか?」


「い、いや……言い訳じゃなくてですね……!?」


「はぁ……最初は面白いやつだと思ったがここまでつまらん小さい人間だったとはな。もうよい。ひっ捕らえて首を刎ねろ」


「こ、公爵様あぁぁぁぁぁ!!!!!!」


◇◆◇


ってなって殺されるに決まってる!?

せっかくいい感じに場がまとまりそうだったのに『ドM開花罪で死刑』なんて本当に笑えない!


「おい、エドワードと言ったな?」


「は、はい!そ、その!本当に申し訳ありません!ですから死罪だけは!」


「貴様は何を言っている?ここでの発言は全て不問に処すと言っただろう」


こ、公爵ぅぅぅ……!

え、第二の父?

もしかしてマクスウェル公爵って俺の第二の父だったりしない?

頭はおかしいけど貴族で平民に対してこんなに配慮してくれるのは他にアリシアくらいしかいないよ?


「貴様に話したいのはそんなことではない」


「なんでしょうか?」


「貴様、学園を卒業したらマクスウェル家に仕官する気はあるか?」


「「……っ!?」」


俺とシャーロットは同時に驚きを漏らす。

平民が貴族家に仕官。

俺は言い訳で最初にそんな言葉を言い放ったが身分社会のこの世界でそれは本当に難しく実際にはほぼありえないこと。

それも王家の次に位が高い公爵家なんてもっての外だ。


(ど、どういうことだ……!?俺がマクスウェル家に仕官……!?)


俺は必死に頭を回すが答えは出ない。

俺を気に入ってくれたのかもしれないが、それだけで仕官させるような性格ではないことはゲームをプレイしてきて重々承知している。

だがマクスウェル家に平民を仕官させるメリットは本当に思いつかないのだ。


「条件は卒業後、マクスウェル家の配下として忠誠を捧げ働くこと。給与は間違いなく平民が普通に働くより高くしてやろう。家族もマクスウェル家で面倒を見てやる」


『マスター、受ければいいじゃん。このおじさんなんかすごくマスターのこと買ってくれてるみたいだよ?』


(条件が破格すぎるだろ!?こんなの詐欺に決まってる!)


『マスターを騙して何かいいことあるの?』


(そ、それは……マクスウェル公爵って変人だし常人には考えがわからないし……)


『それを変人マスターが言う?』


(……)


俺はラナのあまりの言い草に言葉を失う。

なるほど、俺が理解できないなら本当に裏はないのか!とはならんやろ。

相変わらず俺の精霊が辛辣すぎて涙が出てくる……


「不思議そうな顔だな」


「ま、まぁ……正直こちらに旨味がありすぎる話でしたので……」


「我は貴様の野望がほしい。貴様は貴様の野望を叶えるための力がほしい。それだけのことだろう」


つまり公爵が俺のストーリー破壊を手伝ってくれるということか?

いや、なんで?

それこそ公爵に旨味はないだろう。


「ふん、信用できないか」


「いえ、そんなことは……」


「『約束は必ず守る』とでも言ってほしいのか?だがその言葉になんの意味がある?契約書にしたって所詮は紙切れ。それを守る保証になどなりはしない」


その言葉に俺はハッとなる。

顔を上げるとマクスウェル公爵が厳つい顔でこちらを見ていた。


「貴様はこのままでは野望を遂げることなどできはしない。断言しよう、これは絶対だ。平民一人の力などたかが知れている」


「……その通りです」


「だがマクスウェル家には力がある。たとえ捨て駒にされようと確率は独断で挑むより計り知れないほどあるだろう。他人に信用を求めようとするな。貴様が求めるべきものは安息か?保証か?違うだろう。欲するものを見誤るな」


その言葉は厳しいものだが自然にストンと心に染みるように体に入ってくる。

そうだ、俺はストーリー破壊が最優先。

命を大事にして日和っていられるほど甘い目標じゃない。

だったら……竜が出ようと虎が出ようとそこに飛び込んでいかなくちゃいけない。


「……わかりました。卒業後はお世話になります」


「それでいい。これからは学園生活もマクスウェル家がバックアップしてやる。失望させてくれるなよ?」


「ええ、必ず」


必要なのは信頼でも友情でもない。

己の野望を叶えんとする貪欲なまでの狂気。

怪物だろうがバケモノだろうが俺が利用してやる。


マクスウェル公爵……それはお前もだ──

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