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第57話 モブ、伝える

「到着しました。どうぞお降りください」


馬車に揺られること数時間。

最初は不安と緊張でどうしようかと思ってたけど途中から俺にできることは何もないと気づき、爆睡していた。

こうしてマクスウェル公爵直轄兵の人に声をかけてもらわなかったらまだ寝ていただろう。


「ふわぁ……もう着いたんですか……?」


「……これから当主様とご会談されますが大丈夫でしょうか?」


「あー、大丈夫です。多分なんとかなります」


「……そうですか」


馬車ってめちゃくちゃ揺れるものだけどこの馬車はものすごく乗り心地が良かった。

これもマクスウェル家の技術が詰まっているのだろうか。

寝たら気分もスッキリしてきてなんとかなりそうな根拠のない自信が湧いてきた。


「ここまでありがとうございました」


俺は兵士の人にお礼を言い、馬車を降りる。

すると目の前にはどデカい大豪邸と美しく整えられた草花が輝く庭が俺を待ち構えていた。

ゲームで訪れたことがある場所だが、いざ実際に目の前にすると感嘆するほかない。


「遅いわよ。なんで早く降りてこなかったわけ?」


俺がぼーっと大豪邸に目を奪われていると隣から声をかけられる。

そちらを見ればシャーロットが不機嫌そうにこちらを見ており、隣にリサも控えていた。


「すみません。普通に寝てて兵士の方に起こしてもらってました」


「寝てたってどれだけ図太いんですか……」


「言い訳無用。私を待たせていい理由にはならないわ」


「はい、すみません。以後気をつけます」


リサの言葉は無視。

誰が図太いんだ誰が。

俺ほど繊細で心が傷つきやすい人間もそういないだろうに。


『マスターそういうのいいから。マスターは十分変人で図太くておバカだからちゃんと正気を取り戻して』


(自分の契約者に対してかける言葉がそれか?)


『普通は偉い人との面会が控えてるのにあんなに考えなしに爆睡はできないと思うんだけど?』


(バカ言え。人間は本能(睡眠欲)には勝てないんだぞ?これは生理現象だ)


今朝も爆睡してたことを棚に上げ俺はラナに反論する。

俺は来る公爵との面会のために英気を養っていたんだ。

そう、これは合理的判断に基づいた適切な睡眠だったのだよ、多分。


「とにかく、さっさとお父様のところへ行くわよ」


「はい、わかりました」


俺はシャーロットの後ろについていく。

リサは更に後ろから静かに音もなく歩いている。


「「おかえりなさいませっ!シャーロット様!」」


「さっさと開けてくれる?急いでいるの」


「「はっ!ただいま!」」


控えていた衛兵が素早い所作で屋敷の正面扉を開いていく。

重い音を立て開かれた扉の先にさっさとシャーロットが入っていき、俺も少し慌ててついていくとそこには何十人もの使用人が同時に頭を下げていた。

使用人なんてものにほとんど縁が無い俺がドン引きしていると一人の執事服を来たイケオジが近づいてくる。


「おかえりなさいませ、シャーロットお嬢様。お久しぶりにございます」


「ええ、そうね。お父様は?」


「ご当主様は執務室にて政務をしておられます。先程シャーロット様がご帰還した旨を伝えに使用人を遣わせましたところ客間で待つように、とのことでございます」


「そう、わかったわ」


シャーロットは言葉少なに会話を進めていく。

目の前の男の人もそれが当たり前かのように応対していた。

なんだか久しぶりにシャーロットの悪役令嬢としての冷たい一面を見た気がする。

最近は変態すぎて忘れがちだが、シャーロットは悪役令嬢としてのプライドを失ったわけでも、良い人に変わったわけでもない。


あくまで俺に対して変態なだけだということに最近気づいた。

本当に大迷惑極まりないのでやめてほしい。


「聞いたわね?行ってきなさい」


「え?俺が行くんですか?」


「当たり前じゃない。お父様と面会をするのだから」


いや、それはわかっているけども。

シャーロットはシャーロットで公爵と話すんじゃないのか?

普通の家族とは違った形だったとしても近況報告程度には時間を取ると思ってたのに。


「私も後から行くわ。案内は付けるからついていきなさい」


「は、はい。わかりました」


シャーロットがそう言うと先程のイケオジが一歩前に出て小さく礼をする。

この人が案内してくれるのか。


「よろしくお願いします」


「ええ、お任せください」


シャーロットはリサを伴って奥の方へと消えていく。

俺はそんな二人の姿を尻目にイケオジについていく。

しばらく無言で二人きりで歩くがあまりにも気まずすぎて何か喋ろうとするが目の前にいるイケオジの人となりを知らなさすぎて俺は今、天気デッキしか持っていない。


いっそのこと『今日はいい天気ですね』で自爆特攻するか?

いや、逆効果になってもっと気まずくなったら死ぬる……


「……エドワード様、でしたな?」


「え?はい、そうですけど」


俺がどうしようか悶々としたら向こうが話しかけてきた。

このチャンスを逃すわけには行かないと俺はバッと顔を上げる。

ここでこのイケオジと俺は仲良くなるんだ!


「いやー、どこで俺の名前を知っ──」


「シャーロット様は、学園で上手くやれているでしょうか。御学友は……いますでしょうか」


その言葉に俺はハッとなる。

イケオジの顔を見るがイケオジは前を向いたまま表情一つ変えない。

だが声色にはわずかに心配の色が見えていた。


(そうか……ゲームでは使用人たちに恐れられてるように見えても実際はこうして本当にシャーロットを心配する人はいたのか……)


ゲームではマクスウェル家が没落するタイミングで使用人たちが解放されたと喜ぶシーンがあった。

でもそれだけではなかったのだ。


(なんだよ、心配されたことないって。ちゃんとお前を心から心配してくれる人はこんなに近くにいるじゃないか)


俺はシャーロットが心配などされたことないと言っていたときのことを思い出す。

俺のことではないのになんだか自然と笑みがこぼれる。


「……ええ。マクスウェル様を敬意と畏怖を込めて偶像として見ている方々が多いのは事実。ですがマクスウェル様と仲良くなりたいと想っている方々もちゃんといます」


そう言って俺はアリシアを思い出す。

アリシアは別にシャーロットを嫌っているわけじゃない。

むしろ、自分から近づいてもいいのかという遠慮が見え隠れしていた。

そんなに悪い状態じゃないはずだ。


「だから……安心してください。俺も影から見守りますから」


「……ええ、今はその言葉を信じるとしましょう。さ、着きましたぞ。ここでご当主様をお待ち下さい」


そう言ってイケオジは扉を開く。

中は豪華な飾りつけがされておりソファーに通される。

手招きされた通りソファーに腰を下ろすとフワフワでめちゃくちゃ座り心地がよかった。


「それでは私はこれで失礼します」


「案内ありがとうございました」


「これも仕事ですからお構いなく。ごゆっくりしてください」


そう言ってイケオジも扉の向こうに消えていく。

広い部屋に一人取り残され俺は襲撃を警戒し、ラナにも霊剣化の準備をさせる。

元々襲撃は警戒していたが、この部屋の周りにはいくつか人の気配がある。

ここで俺を始末しようと考えていてもおかしくはない。


そして待つこと数分のこと。

一向に襲撃されず不思議に思い始めたところ、突然目の前の扉が開く。

そして現れたのは……ゲームの姿そのままのマクスウェル公爵の姿だった。


(……なるほど。ちゃんと親玉は現れるってわけか……さーて、面白くなってきた)


俺は威圧感に呑まれないよう自分を奮い立たせ、笑みを浮かべるのだった──

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